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【悪役令嬢】ミェースチ・バルバロッサ


「いとおしい……お父様お母様。会いたくなかったですわ」


 数週間後。縛られた状態で玉座の間にミェースチの実父、実母が差し出された。王国からのお届け物と言う名目でだ。


 皇帝ロイドは外交から帰ってきており。玉座に座りながら近い歳のミェースチの実父を見る。ミェースチは二人の前で仁王立ちをし腕を組み。笑みを溢した。


「メアリー……お前……」


「メアリー……」


「あら? メアリー? だーれそれ? 私はミェースチよ。お父様お母様」


 血染めと言われる程に赤黒い衣装を身につけたミェースチは大きく息を吸い。吐き出す。


「ミェースチ……お前を追放したのは悪かった」


「そうです……ごめんなさい。あのときは王の処罰を恐れ……あなたを犠牲にしないと子供たちを守れなかったの」


「あっそ……そんだけ?」


 ミェースチは服を掴む。鉄臭いドレスを握りしめ。歯を見せ、我慢する。まだ殺るなと自分にいい聞かせながら。


「お父様お母様。面白いお話で血染めのように紅いドレスって言われるけれど。元は白だったんですよ~ふふ。鉄臭くなるから着たくないのですけど汚れるならね?」


「ひっ……ごめんなさい!! ごめんなさい!! ゆるして……」


 母上は嘘泣きをする。そんな泣き方が母上は得意だった。


「……ミェースチ。聞きたいが」


「なんでしょうか?」


「そのドレス。似合ってるぞ」


 母親は泣き出し騎士の視線を独り占めし。父親は笑みを溢した……そう、縛っている紐がほどけ。立ち上がり後ろの騎士の剣を抜き取って騎士に射し込こんだ……脇腹を。膝をつく騎士に同僚が剣を抜こうとし……


「動くな!!」


 ミェースチの怒声に騎士の動きが止まる。そして、騎士は同僚の傷を塞ぐため。父親を無視し……治療に動き。ミェースチは俊足を生かして実父に近付き。


「そうすることはわかってましたわ」


「な、なに!? ぐぼぁ!?」


 ボゴン!!


 その父親はミェースチに顔を全力で殴られ体勢を崩し、倒れた所を騎士は何も言わずに脇から剣を抜きミェースチに手渡した。


「父上。騎士は私含め三人だけと考えて行動しました。餌ですよ……勘が鈍りましたね」


 ザクッ


 ミェースチは倒れる父上の背中に乗り心臓当たりを突き刺す。止めを差すように。


「あぐ……ぐぐ。メアリー……お前は……」


「心臓貫かれても死なないのですか?」


 剣を捩じ込む。傷口を広げるように。


「ククク……メアリー……お前を衛る……べきだったな……全く王の甘言に惑わされた………か…………強……い……」


「……甘言ね……」


 目の前の父親が動かなくなることを確認し。立ち上がる。手を騎士に向け握り親指を下に向けた。合図を受け取った騎士が予備のナイフで肉を切る音が聞こえ、振り向くと。首を切られた母親が倒れている。救う気はサラサラなく。脇を切られた騎士も治療に専念し傷口を塞いだあとにミェースチは玉座を見た。


ぱちぱちぱちぱち


 乾いた拍手が響き。ロイドが歩く。


「いい余興であった。お前の言う通り……中々の手練れだったのだな」


「ええ……あなた。ありがとう」


「なーに。一度は親御さんに顔を見せないとな。もう二度と見ることはないが」


 ロイドが死体を横目に玉座を去り、ミェースチもロイドの後ろにつき全く気にせず玉座を去った。





 夕刻、玉座の間に再びミェースチは戻ってくる。息子たちも呼び皆が集まるなかでミェースチがその日の献立を言うような軽い口調で顛末を4人に聞かせた。


「と言うわけで。サックリ死にましたね」


((((予想通り過ぎて何もない))))


 ミカエルは苦笑を浮かべて鼻を掻く。ミェースチをどれだけ苛めていたかを聞いていたので当然の結末だと4人は理解を示し、報告を聞いていた。


 母上の婚約破棄での罰で鞭打ち爪剥ぎなど。帝国へ国外追放も全て聞いてみると。この処刑は潔く、拷問せずスパッと終わらせたのだからまだ優しいと4人は思った。相対的にミェースチの残虐性を理解しているからだろう。


「一度も会わせずですか……母上」


「あってどうするの? 幼少にお世話になってませんし恩もない」


「それでも一度は見てみるのもいいと思いました」


「遺体なら。火葬前に見れるわよ」


「……いえ、結構です」


 ウリエルも苦笑いを浮かべ。まぁ何事ないのでしたらと思っていたのだが………


「ウリエル!! 騎士団長殿!!」


 玉座の間にボロスが血相を変えて現れたとき4人に緊張が走る。代表でウリエルがボロスに問う。


「何がありました?」


「無差別殺人が随所で行われている。騎士たちが一斉に治安維持に動き、冒険者も憤ってる。総出だ」


 全員がいったい何をと思い。背後のミェースチを見る。すると……深い笑みで歩き説明をする。


「王国からの意趣返し。暗殺者かしらね? それとも父上が最後に残した物かしらね。あなた」


「なんだ? 宣言するか?」


「宣言しましょう………敵が攻めてきたとね。有事移行」


 ウリエルはボロスに向き合い話をする。


「ボロス!! お前は騎士全員に2人組を作らせ市街地戦闘を伝えろ。一人で行く……」


「もう指示をやった!! ウリエル。あなたが私と組め。今は全員に自由意思で敵を殺せと言っている」


「……わかった」


 ウリエルはボロスについていく。二人で何処を見るかと言い合い。決めて走り出す。


「……魔法騎士にも同じように指令が飛ぶでしょうね。いきますか」


「ミカエル」


「ガブ姉。冒険者に依頼を出そうか?」


「いいえ、もう動いてるでしょう。いい稼ぎだからね」


 ラファエルも同じように走り出し、それにミカエルとガブリエルも動き出す。


 残った皇帝は錫杖をもってミェースチに言う。


「王国もやる気が出たようだな。お前の挑発で……まぁ厳しい衛門でもこっそり抜けるすべはある」


「あるでしょうね」


 ミェースチがドレスのスカートを破き、動きやすいようにする。そして、最初から履いていた革で作った軍靴の紐を固く結んだ。


「姉妹兄弟、知り合いに合ってきます」


「ミェースチ」


「なんでしょうか?」


 ギュウ


 ロイドはミェースチを抱き締め頭を撫でる。親子のほど離れているためか父娘のような光景であり、二人だけの玉座の間で強く抱き合う。ロイドは自分の胸につけているロケットペンタンドを取り。ミェースチの首にかける。ミェースチの胸には二つのロケットペンタンドがぶら下がった。


「持っていますわ」


「ワシの腕に帰ってこい。そしてそれを返しに来ること」


「わかった……」


 ミェースチはその意味を理解し、唇を噛み。血の味を味わい。ロイドから離れた。二つのロケットペンタンドを握りしめながら。





「はぁ……はぁ……」


 ローブで顔を隠した状態で路地裏を走りつづける。女は……指を噛んだ。動きは軽やかであり、手練れではあるが。身を隠すため軽装でローブをかぶりマントで体型をかくしていた。騎士のような防具をつけた多くの相手は出来ないため逃げ続ける。


「くっ……」


 路地裏をくまなく騎士が巡回し、容赦なく切り捨てに来る。作戦通りに事が進まず。身を隠す事も出来ない。そんな中で、女は……懐かしい女性に出会う。槍を持った相手の女性が口が裂けるほどの笑みを溢す。


「……ふふ。大当り。臭いがしたの。殺したばっかの人の臭いが。臭い臭い……くらーい臭いが。私は誰か? わかるわね?」


 女はナイフを構える。相手は誰かを知っている。紅いスカートが千切れ、吸血鬼のように紅い姿と槍を持った姿に身を震わす。勝てない逃げないと、考えた。何故ここにいるかと……愚痴を溢す。


「ミェースチ!! あなたが……何故!?」


「女王である。帝国民を殺した罪人を探すのは普通よ。ただ……運がいいわ。臭いがしたから」


 広い帝国で一人を見つけることは至難の技。しかしミェースチは何故か直感で先回りをする。


「くぅ……よくも!! よくも!! 家を!!」


「復讐で一斉に蜂起? 暴れたの? あなた若いけど?」


「全員殺すつもりだろう!! 王は言った!! 帝国の首を献上すれば!! 救ってくれると!!」


「あら……王国もそういうのに足を踏み入れたのね。でも……ナイフでは無理でしょう?」


「くっ」


 女は大きく唇を噛み。憎いと思いながらも離れる隙をうかがった。この女のせいで家は無くなり。路頭に迷った。婚約者も全て失った。憎いが復讐するのは今ではない。騒ぎを起こすのを失敗したら王国へ生き延びると決めていた。


「……まぁ私も騎士のはしくれ。この銀貨が落ちる瞬間。決着としましょう」


ピンッ


 ミェースチは空いた手で銀貨を取り出し親指で弾く。その瞬間を隙と捉えた女は背後を向いた。


「……ばーか誰がたたか……う!?」


ザグッ!!


「きゃあああああああああああああ!!」


 しかし、振り向いた瞬間に肩口に槍が刺さり。絶叫が路地裏に反響する。絶命はせず、投げつけられた勢いがそのまま体勢が崩れ、地面に倒れる。


チリーンチリーン……


 銀貨の落ちる音が路地に響き、カツカツと言う歩いてくる音が女の耳にはいる。あまりの痛みに女は泣き、唸る。そして……銀貨が落ちる瞬間まで待たなかったミェースチが倒れている女を見下ろした。


「酷いと思う? 罪人の癖に騎士道通りに決闘してあげれると思わないでね?」


「あああああああああああ!?」


 ガシッ!!


 ミェースチが槍を掴み引き抜く。再度痛みで叫び。女は罵詈雑言をミェースチに投げつけた。こいつのせいでと思いながら。吐き続ける。


「そうそう、銀貨あげるわ。渡し賃としなさい」


「覚えておけ……復讐してやる絶対に。亡霊となってでも………」


「死んだら無理よ。さようなら妹よ」


 槍を喉に向けて差し込み、絶叫と共に息が途絶える。ピクピクと女は最初は動きそして……ピクリともしなくなる。ミェースチは銀貨を拾わずその場所を立って待っていると騎士が現れた。ミェースチの姿に騎士は納得し、お辞儀をして死体を担ぐ。担ぐ騎士は方角の名をもつ騎士団であった。


「死体に関して我々が処理しますがよろしいですね? 薔薇騎士団長様」


「もちろん。好きに……ん?」


 担ぐ死体にミェースチは気になるものを見つけ、それをつかんで千切る。


 それはロケットペンタンドであり。中を見ると中の良さそうな二人が見えた。名前も彫られメアリーと書かれており、ミェースチは己の後釜だろうと予想が出来る。


 もちろん婚約者の名前もあった。メアリーの歳はウリエルと同じだろうと思い。ペンタンドを騎士に渡す。ミェースチには関係無いことだろうと切り捨てた。


「一緒に火葬しておいて」


「かしこまりました」


 そして、ミェースチはまた獲物を探しに歩き出すのだった。渇望に身を任せて。





「ラファエル様……如何しましょうか?」


「うむ……」


 ラファエルは自分の所属する騎士団内にある魔法で帝国内で起きている事件をみていた。何かがあれば地図で表示され。魔法を通じて知覚することが出来る。魔法使いの部下と共にその知覚を他の魔法使いに伝達し、対応をしていたのだが。


「……何をどうしてあそこまでしっかりと見つけられるんですかね?」


「私に聞いても無駄だ。母上はそういう生き物と思え」


 地図上に怪しい者を捉えた所で知覚するとミェースチが一人、一人と刺客を消し去っていくのが見えた。他の騎士も冒険者も平民も同じように怪しい人物を倒していくが、ミェースチは予想より早く狩る。王国の工作員を狩りつくさんばかりに。


「そうか……ウリエルは母上を直感がいいと言ってたな。こういうことか……」


 ラファエルは母上の戦いを見たことはなかった。戦場では後方での支援に徹するため。前線に出ることは少ない。


 だからこそ鬼気迫る母上の顔に引く部分もあった。目がすわり。ヨダレも垂らす。まるで魔物と変わらない姿にこれがあの母上なのかと信じられずにいる。


(ウリエルはこれを見てきたのか? これは……異常だぞ)


「ラファエル隊長……どうしましょうか?」


「ウリエルとボロスに繋ぎ。ミェースチ騎士団長の位置を逐次教え、正気を戻させろ。このままだと共食いを行いそうだ」


「………ですね。わかりました」


 魔法使いが耳に手をやり魔法を唱え、話を始める。連絡が行き届き。母上の目の前にウリエル達が向かう。


(ウリエルなら……止められるだろうか……)


 一抹の不安を圧し殺し。ラファエルは兄に母上をお任せした。





「母上」


 ウリエルはボロスと共に言われた場所へ向かう。顔に返り血がつき、手にも付着しているだろうが紅のドレスでわかりづらくなっている。所々破れたドレスに白い肌が見え、ウリエルは近付く。歩を止めたミェースチはウリエルを見続ける。空虚な目で。


 ウリエルはボロスに下がるように言い。待機してもらう。


「あら? ウリエル……どうしたの? 首級は自分でとりなさい。母にねだる事はダメよ」


「母上……騒ぎはもう。収束しております。王国側の工作員は全て死に絶えたでしょう」


「……まだよ。まだ終わってない……まだよ」


「母上!!…………ミェースチお母さん」


「!?」


 ミェースチがウリエルのお母さん呼びで少しビクッとする。そして……槍を落とした。


「………ウリエル。そう。終わったのね。民に被害は?」


「迅速な全ての騎士の情報伝達のお陰で……被害は大きくはなりませんでした」


 ゆっくりとウリエルはミェースチに近付く。少し項垂れている彼女の腰に手を回し。強く抱き締める。


「母上。安心してください。賊は全て倒しました」


「………」


「父上にそのロケットペンタンドをお返ししなければいけませんね。歩けますか母上」


「大丈夫……歩ける。そうね……返さないと」


 ミェースチは自分のロケットペンタンドを見る。幸せそうに笑う4人の肖像画がはめられ。それを見ながら穏やかな表情をした。ウリエルはボロスを招き。ボロスもミェースチに近付く。


「流石ですね。騎士団長」


「ふふ。ありがとう。そうね……護れたかしら……」


 そう言い。ミェースチはウリエルに体を預ける。気を失った母を姫様のように持ち上げ。ウリエルはボロスにお願いをした。


「ボロス。後は任せてもいいかい?」


「ええ、それよりも早く。騎士団長を安静に……相当頑張られたでしょう」


「……怒りで我を忘れるのは久しぶりに見ましたね」


「そうですね」


 ウリエルとボロスは頷きあい。自分のやるべき事を行うため別れたのだった。





 ウリエルが母上を抱き締めるのを見た。そこでやっと母上の目に光が見える。


 バーサーカーのような状態からいつもの喰えなさそうな人柄の母上が視覚に映りラファエルは胸を撫で下ろした。


「落ち着きましたね。流石我らのウリエル様……恐れ知らずだ」


「ええ、父上でもいいが……父上は国民に説明義務がある」


「そうですね……ラファエル様。一つ質問いいですか?」


「なんだ?」


「今回の件から……王国への悪感情は生まれます。同じように王国から帝国への悪感情もあるでしょう。この先……あるのでしょうか?」


 不安そうに問う部下にラファエルは笑みを向けて安心させるように言う。


「帝国を護る気があるなら。今まで通りに仕事が出来るように訓練する。それだけだが………身を引き締めるために言うならば………ある。心の準備をしといてください」


「……はい」


「この場は君たちに任せる。私は騎士団長に報告しにいくよ」


 ラファエルはその地図状の魔法陣から離れ。家族の元へ向かうのだった。そう一番心配になるのは母上。過去のトラウマのような母上に戻って欲しくはないとラファエルは思う。そして……ふと。兄の事を思い出した。


 母上のあの姿をウリエルは見てきた。見てきたのに……母上を異常に慕うのかと。


(兄も少し……歪んでるかもしないな)


 そう、ラファエルは兄を再評価するのだった。


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