絶対悪役令嬢だった母(今も)
負けたと言う事がわかったのは……憎い田舎娘に婚約者の王子を取られた事よりも断罪されているこの状況に陥った時のことで理解した。若くても理解できる。
田舎娘とバカにし、弱々しい彼女にヘドが出た。そんな彼女を苛めていた。そんな苛める私と対照的に金髪の王子は私を差し置いて仲良くしている。
彼女を庇い私を指差して。行ってきた悪事を全て暴露されていた。
そう……政略としての婚約者として終わりを迎えている。王子と政略で戦い……そのくそったれのアマを中心に戦い……負けたのだ。
多くの大衆に私は晒され罵倒され。そして……怒りに震え取り押さえられるのがわかった。
そこからは……堕ちるに堕ちた。
華やかな令嬢ではない。家族や親族に腫れ物扱いされいつしか私は捨てられる。
そう……捨てられるのだ。
婚約者としての恩情はない。死よりも非道を選ばれた。国に捨てられ。身分剥奪。そして……帝国への売り渡し。
転落した人生。しかし、私は……あのアマに許しを乞わない。復讐してやると心に決めて胸を燃やすのだった。
*
口に詰め物を詰められ。手足を縛られ、目の前を布で隠された状態で私はある場所に連れてこられた。どうせ娼婦か、肉奴隷と思っている。自分の容姿に自信はあった。しかし、あの女にか弱さで負けたのだ。それを思い出すだけで……別に娼婦ぐらいと思うほどに怒りが沸き上がる。
ドンッ!!
「ぐっ……」
地面に投げ出され……何処かわからない場所に捨てられたのだろう。スルスルと目隠しを取り。口も自由になる。
「優しく扱っていただきありがとうございます!!」
皮肉たっぷりに使用人の女性にキバを剥く。
「ククク……元気がいい奴じゃないか」
「ん?」
「陛下……失礼します」
ガチャ……カチッ
使用人がそそくさと逃げるように扉を閉め鍵をかけた。陛下と言っていたため……私は目の前のおじさんを見る。老けているのかわからないが鋭い目付きの男だ。
「やぁやぁ……ここが何処だかわかるかな? メアリー」
「……わかるわけないわ。ずっと何も言われず連れてこられたのですものね。屋敷監禁からずっと目隠しよ。まぁーなーんか食べさせられてたけどね」
「ふむ。では……俺の名を知ったら驚くだろう。バルバロッサ。ロイド・バルバロッサだ」
「それはそれは……赤い髭に赤い髪。大きな体に燃えるような男ですこと」
私は驚いたがそれを表に出さずに相手を見つめる。とにかく赤い中年男はバルバロッサと名乗った。部屋は豪華な内装なため……貴族だろうとは思っていたが……皇帝陛下とは思ってもいなかった。動揺しているのだろう……赤い髪を見てピンっと来ないのだから。やはり……疲れている。
「抜け目のない目をしている。バルバロッサと聞いた者は皆……許しを乞うのだがな」
「赤帝………征服王、虐殺王と言われていますからね」
「そうか知っているのだな!!」
「北東方から諸外国を食い散らかす帝国の名は私の元にも届いております。ええ、国境を面しておらずまだ何も言われずにおりましたが日に日にその赤帝国は名を示していましたからね」
「そうだろう、そうだろう。いつしか喰ってくれる」
「…………」
私はどうやら。王国から帝国に国外追放。それも何もかも正反対の国に売られたらしい。国境さえ面しておらず完全に縁を切ると言う意思が見てとれた。
グイッ!!
「クク……顔は幼さが残るが素晴らしく整っているな」
近付き顎を持ち上げる。中年の強面が迫る。有名な色情狂としてこの人は有名だ。何故なら………
「どうだ? これからの生活は?」
「………噂は噂でしょう?」
「いいや……2人殺ったぞ、それも最近な」
「へぇ~」
孕ました姫を男を産めば母を。女を産めば子と母を殺すと明言しているのだ。それも……他国を攻めて手に入れた姫をだ。ただの姫でもダメである。綺麗なと噂される姫のみが対象だ。だからこそ……周辺国の姫は影武者は不細工に……生まれる姫は捨てられる場合もあり。
そう……女一つで国が滅ぶほどに色情狂として有名であり。王国ではそれを非難していた。
「……泣かないな?」
「悔し泣きなら渇れ、残ったのは怨恨のみ」
「婚約者を奪われたのだったな。ぜーんぶ知っている。知っているからこそ興味がわいた」
「興味がわくことありました?」
「若いからこそ。無邪気に分別がつかない苛めはさも激しかったのだろう?」
「……ええ。嫌いな奴が悲しむ姿は心が踊りました。メソメソしい姿を嫌いながらもね」
王子に近付き、王子が心酔し、愛を見せる弱々しい姿に苛立ちを覚えて苛め。弱々しい姿にさせるように苛めた。そしてまた苛立ちを覚えた。その無限のループに辟易しながらも苛め続け。最後は断罪。死刑は家柄のため回避出来たが……死刑同然の所まで堕ちた。
「まぁ、負けたのは私の力不足でしたから……彼女は人柄がいいので味方が多かったですね。そう考えますと………負けて当然かしら?」
「自分が悪いとは思わないのか?」
「力強くなければ令嬢ではない。その意思を曲げるほど……教育は捨ててませんわ。劣等感もある」
「クククク!! ハハハハハハ!! 面白い面白い。同じ赤い髪同士。仲良くしようじゃないか!!」
大柄な男が笑いながら私の拘束を解く。そして、抱き抱えてベットに連れ込んだ。
「どんな気分だ? 格好いいあの若い王子とまぐわえる日の約束を破られ。知らない中年に犯される気分は!!」
「知ってますわよ? 孕ませて殺すんでしょう? まぁ負けたのですから当然。死にたくなければ戦わなければいい。覚悟してましたわ。それに泣き叫び嫌がる方が好きなら……申し訳ないですが。そこら辺のメイドを捕まえてください」
「死が恐くないのか?」
「王子と彼女を巡って死刑になるのは普通と考えてました。そこまで嫌ってこそでしょう。いいえ……何でかそこまで大嫌いでした」
「では……その女が今のお前を笑っていると考えると?」
「むぐぐぐぐ」
下唇を噛む。
「いい表情だ。お前のこの境遇はアイツのせいだ……恨めよ刻んでやる。クククク」
「………ちっ」
私は初めての痛みを体に刻まれる。あの、アマの笑みを想像し悔しげに悔しげ痛みを覚えたのだった。
*
「俺から言わせるとお前が悪い」
「父上と同じく、僕もそう思います」
「ウリエルと同じ」
「ミカエルと同じ」
「母さん、その納得いかない顔をするけど。それただの弱いもの苛めと自分に持ってない才能の劣等感での苛めと王子を奪われた敗北感から来る苛めと若いから無邪気の手加減を知らないだけの子供だよ」
「………そうね。若かったの」
((((認めた!?))))
「まぁ復讐するけど」
((((ダメだった))))