第4話 バカと勇者の運命的出会い(出会うだけ)
此処はレガリア地方の片田舎、この町に2人の人物が降り立った。
「ここって多分エイラスですよね賢者様?」
「ええ…ここが私の故郷だったんですね…」
もちろん賢者とクラウスである。
賢者はクラウスの言葉に曖昧に答えながら町の様子を見る。
辺境の町エイラス、此処の人口は1000人程度の村と呼んでもよいほど小さな町。木で作られた家に沢山の農場、そしてそこで働く人達の様子がよく見える。
「思い出してきましたね…私が生まれて2年程経った日でしょう。確か私の家はあっちですので早速向かいましょうクラウス」
「分かりました!これで賢者様のお父様やお母様を見る事が出来るですね!一体どんな人なのか楽しみです!」
賢者とクラウスは街の中心部付近に歩いて行きながら町の様子を観察する。
「流石に昔の町ですから農業とかも人が全部やっているんですね…今では田舎でも魔道具を使ってやっていますからね」
今と昔の違いをクラウスは興味深く見ていると。賢者が1つの民家の前で止まっているのを発見し、町の景色に夢中になって遅れていたことに気づき足早に賢者の元に向かった。
「すみません賢者様!つい夢中になってしまって…」
「いえ謝る必要はありませんよクラウス、むしろ知識欲が旺盛なのは君の良いところです。分からないことがあればいつでも聞いて下さい、これも授業の一環ですので」
「ありがとうございます!賢者様!」
賢者が中に入りましょうと提案しクラウスと共に民家に入ろうとすると、中から筋肉質で大柄な男が現れた。男は強面の顔に灰色の髪、少し焼けた肌をしており。背中に大きな弓とバックパックそして腰に杖を携えまるで今からどこかへ出かける風貌だった。
「オリガ!俺は狩りに行ってくる!レンを頼んだぞ!」
大柄な男がそう叫ぶと中から美しい女性が現れる。薄い緑の髪は腰まで伸びており布の服に長いスカートなど落ち着いた雰囲気を持ってる女性だった。その女性には普通の人とは明らかに違う特徴があり、耳が少し尖っており肌も雪の様に白かった。
「グレンさん、お弁当を忘れていますよ」
「おぉ!すまんすまん、ついうっかりしていた。ありがとうオリガ」
「グレンさんはいつも何かを忘れて家を出てしまいますから、やっぱり私がしっかりしていませんと」
オリガは可愛いドヤ顔をしてグレンと言う男に弁当を渡した、グレンは準備万端となり今度こそ狩りに向かうため歩き始めると、隣の家から医者の様な服装の男が飛び出し大声でこう叫んだ。
「勇者が生まれた!クラウスさんの家に勇者が生まれました!」
その言葉にグレンやオリガ、更に賢者やクラウスも驚くことになった。そのまま医者は走りながら先程の言葉を叫び回り、町中に勇者が生まれた事を知らせた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「これは驚きましたね…クラウスを見て懐かしく感じたのはこれが理由ですか」
賢者はクラウスに聞こえない声でそう呟きながら過去を振り返るが、紋章の影響で殆ど思い出せずにいた。クラウスはもしかしたらその人物が自分のご先祖様なのではないかと考え、賢者に質問した。
「賢者様、クラウスさんの家の勇者ってやっぱり…」
「えぇ貴方のご先祖様で合っていますよクラウス」
まるでクラウスの質問する内容が分かっていたかの様に直ぐに答えを返す。その後賢者はクラウスの家へと歩み始めた賢者。それに続きながらクラウスも歩くが何かまだ気になる事があったらしく難しい顔をして唸っている。
「うーん…分からん」
「まだ気になる事がある様ですねクラウス。何が気になるのか分かりませんが遠慮せず聞いていいですよ」
穏やかな表情を浮かべながらクラウスに話していると目的地である家に着いていた。賢者はそれに気づきクラウスに声をかけた。
「クラウスもう目的ですよ考えていたことは後で聞きますので今はこちらを優先して下さい」
「うーん…っは!?すみません!賢者様いま行きます!」
小走りで賢者の元に向かったクラウスは自分の先祖が住んでいた家を見る。
木で作られた二階建ての一軒家で特別大きくも小さくもなく特徴が無いのが特徴と言わんばかりの地味な外観だった。
「なんか地味ですね」
「この街では一般的です、失礼な発言は控えなさい」
全く…と賢者が怒っていると、どんどん家の周りに人が集まって来ている。どうやら勇者の顔を見にきた人とお祝いの品を持ってきた人が殆どのようだ。
その人数はほんの数分で黒山の人だかり、勝手なイメージだがそれはまさにバーゲンセールに群がる主婦の様な有様である。賢者は世界に干渉出来たら圧死するところだったと思いながら家に目を向けると、やはり家の主はとても困っている様だ。
「すみません!順番でお願いします!テリーはお見せしますので!順番でお願いします!」
「押さないで下さい!扉が壊れてしまいます!一旦離れて下さい!中の人が出られません!」
勇者の父親と母親がそう呼びかけるも全くと言っていいほど効果がなく、人はどんどん増えていきこのままでは怪我人が出てきてしまうだろう。そんな時1人の男が怒鳴った。
「止まれお前ら!!!人の話もまともに聞けんのか!!!ふざけるのも大概にしろ!!!」
その声は耳がつんざく程大きなもので、誰もがその男に従い歩みを止めた。静まり返る静寂を破ったのは家の中にいる赤ん坊の泣き声だった。
「おぎゃあ!おぎゃあ!おぎゃあ!!」
「っは!?すみませんクラウスさん…赤ん坊を泣かせてしまって」
「いえいえ謝るのこっちですよ、貴方のお陰で助かりましたアルフレッドさん」
申し訳なさそうに謝るグレンと此方の方が悪いんですよと言い合っている、その間に勇者を見ようとしていた集団の1人の青年が話しかける。
「申し訳ありませんクラウスさんそしてアルフレッドさん、今日は家に帰って頭を冷やそうと思います。みんなもそれで良いな!」
「あ、あぁ」
「えぇ、わかりました」
「ご迷惑をおかけしました!」
青年の言葉に戸惑いながらも集団はぞろぞろと家に帰っていく。そんな中青年はクラウスにお願いをする。
「また後日、落ち着いてから訪ねてもよろしいですか?」
「えぇ構いません、今度は歓迎しますよ」
ありがとうございますと青年は言い自分の家に帰っていった。
その後クラウス夫妻はアルフレッド夫妻とレンを自分の家へと招待し夕食などをご馳走した。
そしてクラウスの息子である勇者テリーとただの勘違いバカのレンが出会った。この出会いが偶然なのか必然なのかはわからない、だがこの出会いがレンの運命を大きく変えた。
次回に続きます