第15話 悪魔の腕
間に合った!
~駆け込み乗車は大変危険ですのでおやめください~
「まったく...思ってた状況よりも悪いじゃねぇか。誰が焚いたかは知らんが洞窟内で焚き火かよ、空気が薄くなって動けなくなるぞ。それに相手はミノタウルスか...」
悪態を吐きながらもコツコツと歩みを進める、そして腰から剣を引き抜き戦闘体制に入る。その後ろから新たな侵入者がアレンの上を飛び越え現れた、身長は190を超えているであろう男は筋肉達磨であり目立った場所に武器を持っていないことから格闘家だとわかる。
「ガイ遅いぞ、ちんたらするな」
「うるさいぞ、俺より少し速いだけで調子に乗るな。それで俺はどっちをやればいい、でかいのか?小物か?」
「小物を頼む、ミノタウロスはおれがやる。後、出来るなら冒険者の世話も頼むまだ息はしているから回収してくれ。なんならポーションも使って回復させてくれていい」
「冒険者の回収もか、少し面倒だがわかった」
とガイと呼ばれた男が言った瞬間、一瞬にしてボガードの集団に近づき回し蹴りを放つ。その攻撃はセラとエリンに群がっていたボガードを瞬く間に吹き飛ばし、その隙にガイは二人を掴み救出した。
「ンン?..マタジャマカ...キョウハホントウニ...オオイ」
ミノタウロスは侵入者を一瞥する、しかし。
「お前の相手は俺だぞ、てかお前人語を話せるのかよ」
「!?」
ミノタウロスは驚愕した、新たな獲物はさっきまで入り口付近にいたはずなのに。自分の目の前にその新しい獲物がいることに、こんなことは初めてだった。
果てしない努力をし、人語を覚え、知恵を付け、戦術を知り、部下も作った。ここが弱い冒険者しか訪れることが無いのも調べて拠点にした。定期的に冒険者を殺すことで警戒心を薄めていた。ここまでして自分の生活は安泰だとそう思ったが違った、理不尽はいつも起こる、さっきの敏捷力は明らかに自分よりも上。そしてなまじ他の魔物より頭が良いから理解してしまった、ボガードを蹴り飛ばしたあの男と今自分の目の前にいる人間が連携をしたら間違いなく自分は死ぬと。
「ナラ...ソウナルマエ二...コイツヲ!」
「見え見えの攻撃...そいつは囮だな」
「クソッ!?」
ミノタウロスは右腕で起動の軌道の丸分かりな攻撃をした。本命は避けられた後の回し蹴りだったが完全に読まれてしまっていた。だが術中に嵌っていないと教えてくれたなら、狙いを変更すればいい、ミノタウロスは回し蹴りではなく左腕でのジャブ、変則ワンツーをアレンに放った。
「悪くない攻撃だが、俺には通用しないな。ウィンドスラッシュ!」
図体の大きさが仇となった。アレンはそのジャブを容易く掻い潜りロングソードによる攻撃をした、振り下ろしたロングソードはスキルにより強化され、普通ならば刃を入れることさえ拒むミノタウロスの右足の腱を切り裂いた。その時この洞窟全体に聞こえるのではと思うほどの爆音が響いた。
「グオオ!?オマエ...ナニシタ!」
「お前の足の腱を風の剣で切り裂いた」
「ソンナコトハ...ワカッテイル!ダガナゼオレハタテナイ!」
「なんだそっちか、分かりやすく言うと。お前の足についている強固な支えを俺が切り落とした。それが答えさ」
それはミノタウロスが知りえない情報だった、しかしそんな衝撃の中自分の状態と周りを確認しはじめる。
(確かに右足は動かないが左足は動く、まだ逃げられる。だがボガードはもう終わりだな。今しがた残りの一匹が倒された、あの男も相当強いぞ。しかしこの絶望的な状況の中、今俺はここから逃げることの出来る逃走経路を思いついた。そのためには...)
「そっちも終わったかガイ。また俺のほうが速かったな」
「馬鹿が油断はするなよ、目を見れば分かる奴はまだ何かするぞ」
「分かってる」
「あ、あの。ありがとうございました!」
エリンがアレンたちにお礼を言った。その感極まった顔を見てガイとアレンの表情が少し緩んだ、その時だミノタウロスはその油断した一瞬を見逃さなかった。右腕で皮の腰巻にしまってあったショートアクスを取り出しエリンに勢い良く投擲した。
「オオォォォ!!」
「!?」
「っ間に合え!」
アレンは咄嗟にエリンを左腕で庇った。ガイはその攻撃に合わせてミノタウロスの顔面に右フックをお見舞いした。その一撃は巨体であるはずのミノタウロスを容易に焚き火方向の壁まで吹き飛ばした。
「ぐぅ!」
「グボォ!...ダガコレモ、ケイサンドオリ!!」
ガイは逃げ出すのを阻止するため出口側へと向かった。だが殴り飛ばされ壁に激突したミノタウルスは逆にこの空間で最も出口から遠い場所に腕の勢いだけで体を移動させた。そしていきなりその巨体が奥の壁の中に入っていった。
「何だと!?」
「逃げられたのか...」
アレンとガイは驚いたがすぐに理解できた、どうやらミノタウロスはこの空間の奥に逃走用の穴を作っていたようだ。いまさら追いかけてももう遅いそう思った二人はエリン達の傷を癒すため、まずさっきの攻撃で腰が抜けているエリンに近づいた。
「大丈夫か?確かエリンでよかったよな」
「は、はい。あの質問いいですか」
「ん?なんだ」
「その左腕っていったい何なんですか...」
ショートアクスによって篭手が破損しその中から見える、アレンの左腕であろうそれは明らかに人間の腕ではなかった。腕全体を赤黒い色をした鱗と甲殻が覆っており、爪は人をいとも容易く切り裂くことができそうな程鋭利であり。まるで化け物の様であった。
「うーん...ガイ、どうしようこれ」
アレンは決め顔そう言った。
「お前が蒔いた種だろ!!自分でどうにかしろ、俺は他の奴らにポーションを飲ませてくる。その間に説明しておけ!いいな!」
「へーいわかったよ...はぁ」
「別に答えにくいことなら答えていただかなくても!」
「いや見られちまったんだから構わないさ、ただし!聞いたなら他言はするなこれが条件だ」
わかりました!と元気な返事をして、本当に腰を抜かしているのかと怪しくなったアレン。一旦深呼吸をしゆっくりと、腕とそれに関する説明をし始めた。
「さてまずはどこから話そうか...
次回に続きます
次回はなんで生きているのかの過去編です。