第1話 空の賢者と弟子の少女
ーーーとある工房ーーー
その工房は、この世界の果ての果て。最悪の魔境を奥深く進み、人では到底進めぬ道をただひたすらに進み続けた者のみが辿り着く極地だった。
噂によるとそこに何故か、少し古ぼけた家が一軒建っているらしい。そこでは日夜世界の研究をし続ける賢者と弟子が居るそうだ。
少し埃が舞う工房の廊下で、大量の紙束を抱えている、上機嫌な少女が奥の扉を目指し歩いていた。
少女は金髪の髪を肩まで伸ばし白いYシャツと黒いスカートを着た美少女だった。
その少女が木の扉の前まで行き、勢いよくその扉を開ける。
「空の賢者様!賢者様!資料をここに置いておきますねー!」
溌剌とした声の少女が沢山の紙束を直ぐそこにある机に置きながら、奥にいる人物を呼ぶ。
パキパキと首を鳴らしながら、奥から現れた美人は埃を払いながら。少し低めの声で喋った。
「ふぅ…こっちもひと段落したところです。ちょうど良い一緒に休憩がてら、お茶会をしましょうか『クラウス』」
その姿は賢者と呼ぶには余りにも若く、言われなければ男性と気づかないほどの絶世の美人だった。
青年は白く長い髪を1つに束ね、賢者らしいローブではなく一般庶民が着るような皮を鞣した服と黒いズボンを着ていた。
「はい!賢者様!今から紅茶とお茶菓子を用意しますね!」
そう言ってクラウスと呼ばれていた少女はテキパキとお茶会の準備を進めていった。その手際は、今までもこうしてお茶会があったのだろうと分かる程だった。
「初めの頃は失敗ばかりでしたけど。流石にもう慣れてきたようですね、さて今回はどんな感じに纏めてきたのかな…」
賢者は弟子の成長を嬉しく思いつつ、椅子に腰掛け資料に目を通して始めた。
「あのクラウスこれってもしかして」
賢者はそう言いながら引きつった顔を上げ、クラウスに話しかける。
「はい!賢者様の今までの出来事をできる限り集めて纏めてみました!でも賢者様っていつ生まれなのかとか、いつ賢者になったのか全然分かりません!なので全て教えて下さい!」
満面の笑みでそう言ったクラウスは、思いっきり頭を下げた。
賢者は教えてもいいものだろうかと考えたが、クラウスにこう答えた。
「わかりました…じゃあ2つ約束して下さい、それが守れるのでしたらお話します」
「その約束は「はい!守ります!守りますので聞かせて下さい!」
約束を言う前にクラリスは賢者の言葉を遮り、まくし立てる様に喋った。
クラウスのせっかちな行動に驚きつつも、これ位のことなら彼女は言われなくても守るだろうと賢者は考えました。
「まあいいでしょう、それではクラウス。準備はよろしいですか?これから君は人の一生よりも遥かに長い時を旅するでしょう。」
「その物語はとある馬鹿の男から始まりました。その男は自分が勇者であると信じて生まれてきます。」
その言葉1つ1つを懐かしむ様に賢者は語る
「基本的に、この魔法は星の記憶を追体験するのに使いますが。人に使えばその記憶を追うことが出来ます。」
「私はもう、紋章の力のせいで殆ど覚えていませんが。この魔法ならば私と君に真実の記憶を見せる事ができるでしょう。」
「さあ、詠唱を始めましょう」
そう言った賢者は先程までいた奥に行き小さな杖を持ってきました。
そして杖をクラウスの方に振りかざし、こう唱えました。
『我 記憶ノ理ニ触レ 汝ラヲ 記憶ノ旅ヘト誘オウ 我ノ世界ガ 時間ガ 遡ッテイク サア 400年ノ旅ヲ 始めよう』
詠唱を終えた瞬間、部屋が大地震かの様に揺れ始めました。
「賢者様!不味いです!お菓子とお茶が!」
クラウスが焦りながら喋り続けますが、全くお茶菓子や紅茶が机から落ちる気配はありません。
「落ち着きなさいクラウス、これは私達が過去に向かっているからです。それに部屋が揺れているのでは無く私達の視界が揺れているのです、なので物が落ちる心配もありません。もうじきにこの場所ですらなくなるのですから、こんな所で焦ってなどいられないですよ」
賢者は落ち着いて、揺れている景色を眺めている。
すると、今度はこの部屋の景色が歪み始めていく。そして賢者はこう続ける。
「さあ、そろそろ私の記憶を追体験する事が出来ます。クラウス心の準備はしましたか?」
少し心配しながら賢者はクラウスに話しかけるが、心配など杞憂だったようで。
「ここから賢者様の記憶を見ることが出来るって訳ですね!めちゃくちゃ楽しみで待ちきれないです!」
そこには物凄く浮かれているクラウスがいて、賢者も一安心と言ったところだろう。
「クラウス、始まりますよ。空の賢者『レン・アルフレッド』のその全てが!」
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景色が一変し、ファンタジー世界から現代風な場所に賢者とクラウスは降り立った。
「何なんでしょうかここは?賢者様の所で1年くらい世界の事に調べましたけど、こんな場所は全く知らないですね」
それは当然なのである、此処はもう先程まで居たファンタジー世界ではなく、地球という星の日本という国でとある県にある中学校なのだから。
「そうか…少し思い出してきた…俺は此処に通ってたんだ…確か…2-3だったかな?」
そんなことをぶつぶつと呟き続ける賢者であったが、物凄く説明して欲しそうな顔をしているクラウスと目が合います。
「賢者様!何1人で納得しているんですか!私に説明をして下さい!」
そんな感じに怒っているクラウスを尻目にどんどん校舎の方に進んで行きます。
「クラウス、歩きながら説明をするので。ちゃんと付いて来てください」
「わかりましたけど、しっかりと説明して下さいよ!賢者様!」
こうして賢者とその弟子の記憶の旅が始まった。この物語はレン・アルフレッド、いや向上蓮の賢者になるまでの珍道中である。
次回に続きます