真実と現実
彼女はとても不思議な存在だった。
はじめは俺も怯えていたが次第に親しくなっていった。
今思えば、出会いもなかなか刺激的だったような気がする。
第一章
桜舞う四月、俺たちは出会った。
それは、入学式のことだった。俺は、始業式に遅刻しないようにいつもより早く家を後にした。
「今日から高校生か:」
カケルは、憂鬱だった。なぜなら、今日からまた退屈な学生生活の始まりだからだ。
「なんかいいことないかなぁ」
半ば諦めながらも、心のうちでは期待していた。
そんなことを思いながら学校へと急ぐ。しばらく経つと小さな丘がある。この丘は、カケルの家からも程遠くない場所にあった。そこは、四月ということもあり、桜が満開だった。
「よーし、この丘を通れば学校への近道だ」
カケルが勢いよく、木々の間を走り抜ける。春の匂いを感じながら、丘の頂上まで来た。その時、何かにぶつかった。
「え、なにが起きたんだ。」
カケルが、リアクションした時には自分が地面に倒れていた。森の中に声だけが響いていた。その場の状況が理解できずに時が流れる。何秒かして、カケルが身を起こしながら何が起きたのかをふりかえる。
「僕は、誰だ。僕は、何だ。こんなところに。見えない壁が…。」
転んで服が少し汚れながらいろいろ考えている、そのとき、後ろからこえがきこえた。
「なにを、寝ぼけているんだ君は?」
咄嗟に、カケルが振り向く。そこに、立っていたのは女子高校生だった。髪が長く、くびれがしっかりと現れた上半身に細い足、世間で言うところの美人と分類されるほど、クールで知的な感じを出していた。
「あのー、えっとぉ……。」
カケルは、おどおどしながら彼女の顔を見つめる。時が止まったかのように周りはしーんとなり風が木々を揺らす音だけになっていた。彼女もまた、つめたい視線でこちらを見つめていた。その視線とこの居心地の悪い空間がいやになったのか、カケルがひとこと口を開いた。
「あのー、そのー、あなたは、誰ですか?」
「私かぁ?私は、乙川 静葉だ。」
カケルは、その淡々とした言葉にあっけにとられていた。
なにが、私は、乙川静葉だ!じゃあねーよ、もっとほかに説明することがあるだろー確かに質問には答てたけど…。そもそも、なんでここにいるんだ?こんな、山の中でなにしているのか、いろんなことがわからねぇ。
カケルが、あれこれ考えているうちに学校のチャイムが鳴る。ふと、現実に戻されたようにあせり始める。静葉もその音に反応したのか、少しの間何かを考えていた。
やべぇー、あんなに早く家を出たのにこのままじゃ入学式初日から遅刻しちまう。あの女のことも気になるが今は、学校が優先だ。
「ぶつかって悪かったな、じゃあなー」
「あわただしいやつだな」
カケルが急いで静葉を後にする。一人取り残された静葉は、ただただ彼が遠ざかっていくのを見ていた。朝日が、まぶしく目に映る。朝のすがすがしさを感じながら、どこかへ足を運ぶ。そのころ、カケルは、息を切らしながらようやく学校に着いた。
「ようやくついたぜ」
カケルは、汗をかきながら教室に飛び込んだ。春のうららかな気持ち良さを一切感じさせず入学式の雰囲気をぶち壊すその姿に、教室内にいた全ての人間が度肝を抜かれた。
「おいおい、大丈夫か?カケル。」
「これが、大丈夫に見えるのかお前には?」
「悪りぃ、悪りぃ、オメェの姿が面白くてなぁ」
「相変わらず、性格悪いなお前は」
彼は、鮎川 カルトという俺の幼馴染だ。カルトは、オカルトと俺が冗談で言ったら、それがいつのまにか広まり、そう呼ばれている。俺とカルトは小学校の時あることで喧嘩をしたきっかけで親しくなった。そんなこともあり、一緒に野球やバスケで遊んだり、出かけたり、修学旅行などの行事でも常にと言っていいほど行動を共にしている。俺がこの私立森の丘学園に入学を決めたのも、カルトが行くと決めたからである。特に、やることやしたこともなかった。そんなことを思っていると、教室のドアがガラガラと開き、背が高い若い男が入ってきた。
「今日からお前たちの担任になる芹沢 雄二だ。三年間という長いようで短い間だが、適当に、指導していく。決して、面倒だからとかじゃないぞ。この適当は適しているって意味の方だぞ。勘違いするなよ。」
「嘘つけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇー!」
クラス全員そう思った。先生のバレバレの嘘に若者の総ツッコミが炸裂した。
「バレたか。」
「バレるわぁぁぁぁぁぁー」
芹沢先生の口走りの嘘により、カケルを含めクラスが一致団結した初めての瞬間だった。先生は、生徒たちがそう思っているのを尻目に今日の日程を説明し始めた。生徒達は、先ほどの一件で、ざわざわとしているが先生との距離がわずかに近づき警戒心がうすれた。
「とりあえず、体育館にいけよー」
「はっ、はーい」
生徒たちは、先生のやる気のない発言に若干の違和感をぬぐいきれなかった。それでもみな、体育館へと向かい、在校生の拍手と共に入学式が始まった。
「あーあ、めんどくせぇぇー」
「右に同じく、よくみんなこんな堅苦しいのに耐えられるな」
カケルとカルトがそんなことを言い合っているうちに入学式はどんどん進んでいく。教頭先生の退場の合図と同時に体育館をみなあとにし。教室へ向かっている時、カケルは、中庭の木陰の辺りに人影を見つけた。その姿は、今朝ぶつかった静葉に似ていた。
「まさかな、あいつがいるわけない、ただの見間違いだ」
「どうした?カケル」
「べっべっ別に、なんでもない」
「なんで動揺してるの?怪しいー」
「なんでもねぇよ」
俺は自分が遭遇した現実味のない出来事に動揺を隠せなかった。しかし、そのことに対する違和感とは裏腹に、胸の内から込み上げる好奇心を抑えられずにいた。そして、どうしても気になった俺はカルトにさりげなく聞いて見ることにした。
「ちなみにカルト、あそこの人影見えるか?」
「人影?誰もいないけど……」
「だだっだよなぁ、悪い、変なこと聞いたな」
カルトには見えないのか?そうだとしたら、静葉は幽、幽霊なのか?わからねぇー。たすけて、ド○エモンーーー。
カケルの心の叫びとは逆に周りの、カルトの反応は冷たい視線をカケルに浴びせるものだった。一瞬、時が止まったかのようにその場が凍りつく。
俺は、何を聞いてんだぁぁぁぁぁぁ。とりあえず、おちつけぇぇぇぇー。明らかにカルトが死んだような魚の目で悲しさをかもしながらこちらを見ている。なんとか話を変えなくては……。
「なぁ、今日はいい天気だな。」
「なんだ?突然。」
「いやー、太陽が気持ちいいなぁと思って。」
「さっきから変だぞ。大丈夫か?」
「う……うん、問題ない……。」
カルトは、カケルの反応に釈然としないもののこれ以上ぎくしゃくした空気が続くのを嫌いこれ以上の追求をやめた。一方、カケルは、動揺を隠そうとすればするほどタヌキがのたうち回るように空回りしていく。一瞬、見えた静葉のことが気になったがこれ以上カルトに不信感を与えてしまうことは面倒だ。互いに相手との関係を考え、普段の会話に戻る。カケル達に春の温かい日差しが差す中、二人は廊下を後にした。教室に戻った二人はHRを終え、家に帰ることにした。夕日が、世界を包み込む帰り道、何気ない会話をしながら二人がいつもの通り歩いていると、俺はふと背後に何かの気配を感じた。
誰かに見られてる?と後ろを振り向くが誰もいない。気のせいかと思いながらもう一度周りをキョロキョロと見回してみるが、特に変わりはない。そんな様子を横で見ていたカルトが声を掛けた。
「なんだ、女子でもいるのか?」
「いねぇよ変態。いたらお前のほうが先に気づいてるだろ」
「それもそうだな、俺みたいなイケメンには美女センサーがあるからな」
「変態は否定しないか……」
「男はみな変態だからな」
「一緒にするな」
「まったく、冗談が通じないなかけるは」
そんな、内容のない会話をしているといつのまにやら、カケルは背後の気配のことを忘れ途中でカルトと別れ家に帰った。
このままうまく暮らしていけるのか・・・
そんな心配を余所に時間は進んでいく。