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異蟲界、倒錯の知的パラシートゥス  作者: Ann Noraaile
第7章 神に寄生する
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66: 混沌へ


 結果的に、アンビュランス初めての「サンプル採取」は、惨敗に終わった。

 聖ヨセフ教会教会を中心に半径2キロの位置にいた人間達は全て意識を失って昏倒しており、海が目覚めた時には、噤神父の姿も、あの女子高生二人組も、捕獲部隊に預けた筈の慎也の姿も消えてなくなっていた。

 だがこの敗北は、単なる作戦の失敗で終わる事にはならず、オメガという新たな勢力の存在の認知には繋がったようだ。

 これによって、アンビュランスとその背景にある巨大権力の集合体は、自らの知的生命体へ関りの在り方を、再検討する事を余儀なくされたのである。

 もちろんこの情報は、警察権力にも、そして香川杏子を含むキー種、煌紫のプシー種にも伝わっている。

 そんな中、煌紫は何故か海の意識の表面には浮かび上がって来ることはなく、様々な課題を抱える煌紫が、この出来事にどう対処し、どう動いていたか、海には知るよしもなかった。


 海の頭の中で疑問が渦巻く。

 いもしない神という存在に、どうやったら実体を持つ知的パラシートゥスが寄生できるというのか?

 それともオメガには、目に見えぬ神を実体として捉える力があるのか?

 確かに「神」は、人間が持つ概念の中で、最も巨大で濃密なものだ。

 煌紫らプシー種は、個が全体であり、同時に全体が個であり得るようなネットワーク的存在としてこの世にある。

 ならば人間の無意識の集合体である神に、虫たちの神と見なされるオメガが寄生する事が不可能とは言い切れまい。


 ・・・振り返れば、自分は姉の遊とこの都会で再会し夢の様な日々を過ごした、そして今、自分は世界の極北と思える場所まで流れ着いている。

 暫くの間、世界は復讐のフィールドとして明確に海の目の前に広がっていたはずだ。

 今は、世界の全てが、「謎」だった。

 そしてその謎を解いてくれる唯一の相棒が、姿を見せなくなっていた。

 煌紫が完全に自分の中から居なくなってしまったのでは?と思える程の空白を、海は感じ初めていた。



 海は慎也の喪失と姿を見せなくなった煌紫に不安を抱く日々の中で、波照間の見舞いに訪れている。

 ハイエナ族から負わされた波照間の傷は今だ癒えていなかった。

 それでも波照間の声音は、しっかりしたものだった。


「極夜路から聞いたよ。真行寺真希さんの弟さんが行方不明なんだってな。俺があのヘボ探偵に情報を売らなきゃ、その彼も酷い目に合わなかったかも知れないな。、、少し後悔してる。」

「悪い事だけじゃないですよ。お陰で、俺は慎也と出会えた。今はあいつの事を、本当の弟の様に思ってる。」


「、、、。ところで、ここで寝ながら、ずっと今までの事を考えていたんだがな。この前の極夜路の話で思い出したことが一つあるんだよ。」

「なんです、それ?」


「仮面ライダーゲームの事さ。いや最近の話じゃない。等々力警視が子飼いの部下を使って内偵させてた頃の話だ。確かあの時、噤って名前が上がってた筈なんだ。極夜路が噤の名を出したから思い出したんだ。仮面ライダーゲームは俺が直接担当した事案じゃないし、噤の名も俺が拾い集めた情報の一つにしか過ぎんのだがな。当時、噤ってのは名前の珍しさ以外はそんなに重要視されてた人物じゃなかった。だから、今の今で忘れていたとも言えるな。それに、それ以降は、噤の名前は二度と挙がってこなかった。で、仮面ライダーゲームのその後の展開は、あんたが知ってる通りだ。」


「皇と噤は知り合いだった?」

「いや、そこまでは判らない。ただ俺は、等々力警視が仮面ライダーゲームを調べてた頃に噤の名前が挙がっていた事実を、もう一度洗い直して見るべきじゃないかなってね。極夜路からその教会での捕物劇を聞いた時に、そう思ったんだ。」


 海は今初めて、等々力が仮面ライダーゲームを内々に調べさせていたと聞いた際に感じた違和感が、これで解消されたような気がした。

 キー種の等々力が、何故わざわざ仮面ライダーゲームの事を調べることに執着したのか、その理由は、オメガの台頭にありはしないか?

 オメガは知的パラシートゥス達の神なのだ。


 そしてツグミは言っていた、「オメガが遥かな過去に蒔いた種が成長し実をつけ始めた。その甘き匂いがオメガ本来の魂を目覚めさせたのだ。これからその実の味を確かめる。」と。

 煌紫さえも予見できなかった「共食い」以上の、何かもっと大きな異変が知的パラシートゥス達の世界に起こり始めているのかも知れない。

 いやひょっとしたら、あの「共食い」さえも、その異変の中の一つなのかも知れないと。


「身体が動くようになったら俺はアンビュランスに入る。そしたら慎也君も探してやるよ。あんた一人じゃない。たぶん極夜路も力を貸してくれるだろう。だから気を落とすな。」

「見舞いに来たのに、なんだか逆に励まされてしまいましたね。」


「、、ああ、あんたの前にいると、不思議な事に、なんだか普段、こっ恥しくて言えない事でも言えちまうんだよ。いつかあんた、俺にこう言ったの憶えてるか?警察の隠蔽体質のせいで自分が悪徳警官になったみたいな顔をするなって。実はアレ、半分は図星なんだよ。俺の正義は警察への忠誠心で半分は出来上がっていた。それが間違いだったと言うことだよ。、、今度の件だってそうだ。俺の相棒は虫にやられて半身不随になっちまたが、事実は闇の中だ。全てを知ってる俺も、今までの汚職の棒引きとアンビュランスへの転職を引き換えに口封じをされた。、、、もう沢山だ。それに相棒の仇を取ってやらんとな、俺はアンビュランスでやる。あんたも、一緒にどうだ?」

「、、考えときますよ。じゃ又。」

 海は、波照間の言葉に熱くなった思いを、胸に秘めてそう答えた。





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