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異蟲界、倒錯の知的パラシートゥス  作者: Ann Noraaile
第7章 神に寄生する
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64: 発見救出


 聖ヨセフ教会教会から午後の礼拝が終わった人々が出てくると、それと入れ替わるように極夜路塔子と猪飼が教会に入って行った。

 彼女たちは、後藤田美雨の両親から娘の捜索を依頼された探偵事務所の調査員という触れ込みだった。

 既に、教会からの脱出経路となりそうなポイントには、玉兎と呼ばれる捕獲隊員達が配置され終わっていた。

 その捕獲隊員達は、APAと大きいロゴが入った濃紺のレイドジャケットを羽織っていたから奇襲捕獲の態勢にあるのだろう。


 一方、海は教会の屋根に登っていた。

 屋根伝いに移動しながら、その時々の要所で、逆懸垂の要領で教会の高窓から内部を見て回っている。

 海は、建物表面上、数ミリの段差さえあれば、それを使って上下左右どこにでも移動が出来たのだ。

 だからといって、そんな方法だけで建物内部を細かく観察することは無理だった。

 例えば地下室があって、そこに慎也が囚われていたら、全くの無意味だ。

 それでも海がコレを、やっているのは煌紫の為だった。

 海は移動式のレーダー代わりだったのだ。

 慎也の側には、ファイ種がいる可能性が高い。

 つまり慎也の居場所を確定するには、ファイ種の気配を特定すればいいのだ。


「どうだ煌紫?お前の言う通り、これでこの教会全体を円錐形状に包む感じで、一周したことになるぞ」

「ファイ種はいる。間違いない。もう少し待ってくれ。それともう移動はしなくていい。ここでじっとしていてくれ。」

 海は頭の中で、煌紫がやっている事を、漁船がソナーで魚影を探っているようなイメージにダブらせてみた。

 そして煌紫は以前、ファイ種が最近、自分たちの気配を隠す術を覚えたと言っていたのを思い出した。

 ならば今は二人のファイ種が、ツグミという保護者の元で安心しきっているのか、あるいは煌紫が自分の探査能力を上げたかのいずれかなのだろうと思った。



 煌紫が探し当てた場所は、教会の裏庭にある地下壕のような空間だ。

 そこは極夜路から見せられた設計図には、記載されていなかったから、最近、教会側の母屋から拡張された施設なのだろう。

 教会の裏庭に面した一階部分まで、壁を伝い降りる手間を省く為に、海は屋根から飛び降りた。

 普通のマンションなら4階くらいの高さだったが、海にはなんの問題もない。

 着地した後、内部に侵入する為に、海は教会の裏手にある窓の一つを壊そうかと思ったが、何気なく試しにと引いてみた勝手口と思われるドアが、意外にも簡単に開いた。


 罠か?と一瞬、海は考えたが、今はそれを吟味している暇はなかった。

 むしろファイ種たちは、今回の襲撃を予想していないと考える方が、自然なのかも知れない。

 海は煌紫に導かれて、拡張された地下室に侵入して行った。



 とうとう見つけた!

 慎也は、部屋の中央の祭壇のような長テーブルの上に横たえられていた。

 その側には修道女姿の後藤田美雨がいる。

 なにやら慎也の様子を熱心に観察しているようだ。


『その忌まわしい拳銃を使え。狙いを外さない事だ。人間が作った薬など、我々には一度しか効かないと思った方がいい。』

 海はベルトに挟んでおいた麻酔銃を抜き取ろうとした。


 その瞬間、慎也の側にいた美雨が羽根を広げて海に飛びかかって来た。

 羽根の背中での広がりは、丘の上での逃亡で見せた展開より圧倒的に早く、その羽ばたきは力強かった。

 突然巻き起こる風に押されて、海はその姿勢を大きく崩し、美雨の両腕に捕らわれてしまった。


 ただ海にとって幸いだったのは、彼らの戦闘の場所が、狭苦しい地下室の中だったという事だ。

 海は美雨の指先から飛び出したかぎ爪に身体を引っ掛けられ、回転式ドラムの中の洗濯物のように、空中でクルクルと回転させながらも、辛うじて致命傷となる相手の攻撃だけは避け続ける事ができた。


 だがその攻防も、空中戦では不利な海が押され初めて、とうとう海の肩口を美雨の牙の生えた口が襲った。

 海に激痛が走る。

 ファイ種の攻撃が生じさせる痛みを、煌紫は効率よく半減させる事が出来ない。

 海は苦痛に顔を歪めながら麻酔銃の引き金を引き続ける。

 海の首の肉が正に噛み千切られるという寸前に、美雨の脇腹に撃ち込んだ麻酔銃の効果が現れ、美雨はついに床に落ちた。

 海は美雨を自分の身体から引きはがすと、慎也に駆け寄った。


「慎也!慎也!大丈夫か?」

 呼びかける海の声に、慎也の意識がうっすらと戻ったのか、その瞼が半分開いた。

「、、、兄貴。、、、嬉しい。」

 だがその目は直ぐに閉じられた。

 まるで眠ってしまったかのようだ。


 海は慎也の身体を抱き上げ、教会裏口のドアに走り出した。

 打ち合わせでは、教会裏手の道路に面したポイントに捕獲部隊員の何人かが配置されている筈だった。

 自らを「金烏」と名乗れば、彼らはその指示に従うという。

 金烏玉兎が合い言葉になっている、、太陽と月を現す言葉だ。

 「金烏」は太陽に棲むとされた3本足の烏で、「玉兎」は月に棲むとされた兎だ。

 それに津久見警備総合会社の選りすぐりの警備員なら、あの李の訓練を受けている可能性もある、それなら心強い。

 とにかく今は、慎也の身体を彼らに預けるのが先決だった。




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