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異蟲界、倒錯の知的パラシートゥス  作者: Ann Noraaile
第7章 神に寄生する
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59: 協力の条件


 食後のコーヒーが運ばれてくる頃に「そろそろ本番ね」と塔子が言った。

「最初に波照間さんの事はお礼を言っておくわ。あなたが彼を助けに行かなかったら、波照間さんは多分殺されていた。元、警察官として同僚の命を救ってくれて感謝してる。それに波照間さんは、今度の事で私の勤めている調査会社に入社する事を決心した筈だし。」


「あの、もう一人の男性は誰だったんですか?」

「波照間さんの同僚、つまり刑事ね。波照間さんは随分その人の事を気に病んでた。悪徳警官だからって同僚を大切にしない訳じゃないのよ。」

 悪徳警官のくだりは、冗談なのか本気なのか、海には判らなかった。

「その人も皇事件の後始末に関わっていた?」

「いえ、別件よ。警察は既にこの件から手を引いている。」

「と言うことは巻き込まれたわけか、、」


「だから波照間さんも心苦しく思ってる。その刑事の方は怪我が治っても復職は難しいらしいわ。でも今度の襲撃も表沙汰にならない。まあもちろん、その成り行きには私の調査会社も関わっているんだけどね。でもその調査会社のお陰で、私も波照間さんも、少なくとも前よりは、物事に対しての落とし前が付けられるようになったって事ね。」

「警察も色々と不自由なんだ。でも日本平さんの仇は警察の狙撃隊がとったんでしょう?言わば極夜路さんの勝利だ。」


 海はおそるおそる聞いてみた。

 これで極夜路が寄生虫についてどれぐらいの認識があるのかが判る。

 まず、未だに極夜路は、自分の叔父の正体が寄生虫である事を知らないのか?

 これは今の所、半々のような気がした。

 日本平悠木の死体が解剖されていれば警察の上層部はそれに気付いている可能性はあったし、警察が気付いているなら、今はアンビュランスのメンバーである極夜路がその事を知らないはずはなかった。


 だが海は日本平悠木の殺害現場を目撃はしたが、それを最後まで確認したのではないのだ。

 もし比留間が日本平悠木の体内に潜んでいたマンイーターの身体を全て平らげていたのなら、寄生の証拠は残らないのではないか?

 等々力や皇の場合とはケースが違う、海にはそう思えた。


「私の何が勝利なの?襲撃者を仕留めたのは私じゃないわ。あの馬鹿女が私を止めたせいで!」

 やはりこの話題は、極夜路の怒りに触れたようだ。

「今の話、いとこの真希が聞いたら怒るんじゃないかな?」

「、、、ボディガードなら、私より香川杏子を守るべきじゃない。私ならそうした。」

「あの瞬間、香川杏子よりあなたの方が危ないと判断したと真希から聞いてます。」

「だから余計に腹が立つのよ。襲撃者との距離の問題じゃないの、香川杏子は只のデザイナーで、私は警官なのよ。香川杏子が意外にも勇敢だったのは認めるけれどそれは結果論だわ。」


 これで極夜路塔子は日本平悠木と香川杏子の正体については何も知らない事が判った。

 彼らの正体を知らないのなら、まして自分と煌紫の事は気付いていないだろうと海は判断した。

 それに香川杏子は自分の正体について、あの手この手の隠蔽工作を行っている筈だから、それが功を奏しているのかも知れない。

 もちろん極夜路塔子の現状把握と、アンビュランスのそれが同じだとは限らないのだが。


「部外者の僕にはなんとも言いようがないですね。ただ、今のあなたの言葉は真希に会っても伝えないでおこうと思ってます。」

 極夜路塔子はその言葉には反応しなかった。

 おそらく口ではそう言っているが、自分が黛真希に助けられた事は理解しているのだろう。


「仇は自分の手でとれなかったけれど、私は自分の責任は取るつもり。つまり日本平悠木の死を無駄にしないって事よ。それが私がこの調査会社に入った理由。あなたも波照間さんに誘われたんでしょう。その意味、判るわよね?」

『あなたは勘違いしている、日本平悠木が殺された時は既に人間じゃなかったし、アンビュランスの目的は寄生虫の力を奪取する事にあるのであって、それを人間社会の幸福の為に使うとは言ってない。しかも寄生虫を全て駆逐するのが彼らの目的とも限っていないんだ。』と海は言いかけたが、それを飲み込んだ。

 話を続けていけば「何故、お前はその事を知っている」という話になる。


「最初の頃とは違って、随分、俺を仲間扱いをしてくれるんですね。」

「あなたが不思議な力を持っているのは判っている。でも今のところ、私の調査会社はそれにはさほど興味がないみたい。こちらに力を貸すのならそれで良いというくらいのスタンスね。立ち上がったばかりの会社だから、今はあれもこれもやる余裕はないよの。私も今はアナタの正体には拘っていない。協力してくれる限りはね。」

「・・・協力。」

「人数が足りないの。その内、あっという間に増強されるされると思うけど、私はそこまで待てない。最初に言ったでしょ。警察と比べて待遇はいいけど、権威が足りないって。」

「それって暴力の事でしょ。それなら僕より真希の方が、」

「嘘仰い、私、皇事件のこと知っているんだから。それとアナタがずっと関連事件に関わってる事も。あなたがなんで関わってるのか?とか、なんで人より図抜けた戦闘能力があるのかは問わない。ただその力を私に貸してって言ってるの。」

「、、、判りました。なら限定的にって事にしましょう。後藤田美雨について教えて下さい。」



「美雨は現在失踪中、もう一人の高校生の久世ナオミもね。時期は皇事件が起こった少し前辺りね。あの春風祭辺りで二人共、様子がおかしくなり始めてたらしいわ。でも美雨の親は今でも自分の娘が久世ナオミと付き合い始めたから、美雨がおかしくなり始めたと思い込んでるみたいだけど。」

 やはり失踪か、、最悪の展開になって来たなと海は思った。

 二人共童顔というタイプではない美少女だから、メイクで年や印象などいくらでも変えられるし、第一、中身がファイ種なのだ。

 見つけ出すのに苦労するだろう。


「久世ナオミって子の方は?」

「もう調べたわ。内容は美雨とほぼ一緒。でもこっちは完全な放任家庭だから、親は何も心配していなかった。両家ともまるで絵に書いた駄目親の典型みたいで、笑ったわ。表面的には、二人共、警察の少年課が扱うような事案ね。」

 海は、襲撃前に楽しそうに喋っていた二人を思い出した。

 あれは演技にしても素地なしでは出来ないものだった。

 煌紫が、「寄生虫は、人間を言葉として使うのだ」と言った事を思い出し、痛ましい気持ちになった。


「あの二人を探し出す為の手がかりの様なものは?」

「親からは無理だったけど、彼女達の友人達から少し気になる事を聞き出したわ。ツグミって名前。どうやら彼女たちの共通の知人らしい。周りの子たちは、彼女たちの話しぶりから、ツグミっていう人物の正体は、パトロンみたいな感じがしたって言ってたわ。彼女たちが、家から逃げ出したんなら、そのツグミって言う人物の所に行く可能性はあるんじゃないからしら?私も、もう少し聞き込みをしてから、そっちを当たるつもりよ。」

 ツグミ、、奇妙な名前だと海は思った。







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