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異蟲界、倒錯の知的パラシートゥス  作者: Ann Noraaile
第7章 神に寄生する
54/67

54: 泡銭での返済


 結局、海の里帰りは三日で終わった。

 海は今、自宅に訪ねて来た慎也の顔を見て心底慰められている。

 ここには、生きている「弟」がいる。


「しかし兄貴、よくこんなの持って帰る気になりましたね。」

 海と慎也が向かい合っているテーブルの上に龍と虎のヘルメットが置いてあった。

「あの城で出来るだけ俺達のいた痕跡を消そうと努力したんだが、ヘルメットの内側を掃除しながら、こんな事で時間喰ってるより、持って帰った方が早いって気がついたんだよ。どうせ誰も皇のコレクションリストなんて持ってない筈だしな。」


「でも良かった。兄貴、殺人犯にならずに済んだんもんな。皇の奴、兄貴にやられて息吹き返したって事は、そうとうタフだったんだな。そのくせ自殺しちゃうなんて、普段言ってる事とは反対に、結構ナイーブだったんだ、あのセンセイ、、。」

 TVでは皇の死は「自殺」として伝えられていた。

 当然、慎也はそれを信じている。

 というよりも、TVの報道に合わせた海の作り話を信用しているのだ。


「殺人犯とか言うの止めろよな。あの日は話を付けに行っただけなんだ。皇が暴れ出したから、止めただけだ。弾みで自分で頭打って血を流すみたいなドラマ的展開になったけどな、、。」

「もし俺が一緒について行ってれば、それも止められたのに、なんでなんだろ?いつも肝心な時に、何かが起こる。俺って呪われてるのかな?」

 慎也が虎のヘルメットの口の部分に手を持って行って、噛まれたという風に又、手を引いた。

 慎也はあの時、海の介護疲れが出て貧血で倒れた事になっている。

 実際、慎也が疲れ切っていた事は確かだった。

 だから慎也は、海のその誤魔化しを信じている。


「呪われちゃいないさ、その証拠に、、、、お前、前の旅行で全部で幾ら使った?」

 そういうと海は立ち上がり、部屋の隅に置いてあった香川のスーツケースを持って戻ってきた。

「言えませんね。だって俺のおごりで行くって行ったんだ。」

 海はスーツケースから札束を一つ取り出してテーブルの上に置いた。


「そこから掛かった分、持ってけ。気にするな、泡銭だ。」

 慎也が目を丸くしている。

「だって兄貴、濱舞久のごろつき共から巻き上げた金は使うなって言ってたでしょう?それだって出所は怪しいもんだ。」

「確かに、これは俺にとっちゃロクでもない金だが、お前に渡した時点で、それはお前の金だ。」

「なんちゅー、身勝手な、、、でもそんな事なら有り難く頂きますよ。」

 そう言って慎也は、丸ごと札束を手に掴んだ。


「お前、100万使ったのか?」

「モチロン、最初にそう言いませんでした?あっ、こん中には兄貴への介護看護のバイト料も含まれてますからね。」

 慎也はジャケットの内ポケットに札束を大事そうにつっこんで続けて言った。

「でもこれで、兄貴がなぜ、まっとうな病院に行きたがらなかったのか判りましたけどね。拳銃の傷だ。警察に通報されたら他の余罪までばれる心配がある。図星でしょ?」

「俺が、そんな犯罪者に見えるのか?俺は只の美大生だぞ。」

「犯罪者って、思いたくはないけど、只の美大生は絶対、無理っすよ。」

「そうかな、、それは、そうだな。」


 この時、慎也のスマホがなった。

 海は頷いて、ここで喋ってもいいと、慎也に合図を送った。

 慎也の返事の端々から、電話の相手が例の探偵だという事が判った。

 探偵はこの電話で、誰かの取り次ぎをしている用だった。

 慎也は最後に頷いて、スマホを海に差し出した。


「相手は波照間って刑事だそうです。あのガセ情報を掴ませた張本人だ。兄貴に直接、話があるって。」

 海が慎也のスマホを手にする。

 慎也のスマホには、小さいが煌びやかなデコレーションシールが貼ってあった。


「波照間だ。あんた神領海かね?」

 スマホの向こうから聞き覚えのある波照間の錆び付いた声が聞こえた。

「そうだが、俺に何の用だ。」

 黛真希に変身した時の海とは、声が違う。

 当然、姿の見えない波照間には、海と黛真希は完全な別人として捉えられているだろう。


「あの探偵繋がりで電話をかけたんだ、想像はつくだろう?あんたに有用な情報を売ってやろうと思ってな。」

「あんた、悪徳刑事とかいう奴なんだろ?俺はそんな人間に用はないね。」

「これはこれは、きつい冗談だな。大学教授殺しの真犯人が何を言ってるんだ。俺の事、アンタの親戚のお嬢ちゃんから何も聞いてないのか?悪いようにはしないから、俺の話にのっとけよ。」

 波照間は直球を投げ込んで来た。


「、、、判った。何時、何処で会えばいい。」

「そっちの電話番号教えてくれよ。そこに段取りが決まったら電話する。いちいちアンタの弟分経由では邪魔くさくてな。」

 海は自分の電話番号を伝え終わると、スマホを慎也に返した。


 慎也は心配というより、何かに期待をしてるように目を輝かせていた。

 新たな冒険を求めているような顔だった。

 だが姉の失踪追求への執念は、少しずつだが静まりかけているようだ。

 以前の慎也なら、どんなことでも姉の失踪に結びつけようとしたはずだ。

 その事に、海は安堵感を覚えていた。


「残念だな。今度は慎也が出る幕のない話だよ。でも困った時は又、頼む。」

 勿論、嘘だ。

 今度こそ慎也を巻き込むつもりはない。

「そんじゃ、飯でも食いに行くか?勿論、慎也のおごりでな。今、慎也は大金持ちだもんな。」

「うぃいし!」

 二人は腰を上げた。

 部屋を出て行くそんな二人の後ろ姿を、龍と虎のヘルメットが見送っていた。





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