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異蟲界、倒錯の知的パラシートゥス  作者: Ann Noraaile
第5章 ソウルブラザーズ
43/67

43: 名はもうない

 柱や天井には鮮烈な装飾が施され、壁面には複数の大型モニター、更に無数のライティングがその空間に別世界を造り上げていた。

 ブース前方には、立体的なダイアカットのLED照明が配置され、DJのプレイに華を添えている。

 クラブの5カ所に別れたVIPエリアの内の一つに海達は陣取っていた。

 ソファの質感もよく、これがいつもの工作活動でなければ、若い二人は音楽に酔いながら十分に寛げていた筈だ。


「へぇ~、兄貴ってこんな小箱が好きなんだ。意外以外の何ものでもないってヤツ?てか兄貴にはクラブのイメージ自体がないすもんね。休みん時は一人静かに難しげな本を読んでるって感じ?つか滝に打たれてるルパン三世の五右衛門って感じ。」

 慎也がソファで寛ぎながら嬉しそうに言った。

「ならお前は、金髪のモンキーパンチかよ」

 海が軽く返すと、慎也は自分の舌を上唇に潜らせてアカンべーをしてみせる。

 目が大きくて愛嬌のある顔立ちだから、その様子が何処までも可愛らしい。


「、、、悪かったな。確かに今夜は、お前の方が似合ってるよ。」

「でも此処で、暴れちゃうんすか?ちょっとイメージが掴めないなぁ。皆、楽しんでるみたいだし、邪魔しちゃ悪いってか、格好だけだと分かんないけど、こういうとこ来るのだけが楽しみで、毎日必死こいて生活してる連中だって大勢いるわけだし。ここは遊びだけって事にしときません?」

 そうしたいのは山々だったが、海も煌紫の頼みとあっては、ここでの仕込み、いや助太刀を断る訳には行かなかったのだ。



 深夜の出陣前の休息時間に、煌紫が珍しく自分から海の意識に浮かび上がって来た。

『海、君に頼みがあるんだが。』

「珍しいな。早く言ってくれ、一眠りしておきたいんだ。俺は慎也みたいに夜に強くない。それに煌紫にものを頼まれて、俺が断れるわけないし。」

『実は一刻も早くケリを付けたい相手がいるんだ。言っておくが人間じゃない。私の仲間だ。急な話だが、今夜、私に手を貸してくれないか?』


「仲間?それにそれって、今この街を離れるって事かい?」

『私達は、此処を動けない。しかし彼の崩壊は差し迫っている。だから彼を此処に呼び出す。ここで彼を終わらせたい。』

「終わらせるって、なんだかソイツを、殺してしまうみたいな言い方だな、」

『そうだ。果てしなく、それに近い』

 海には、まったく話が読めなかった。


『それに決着の場所を人目のある場所に設ければ、海が今やろうとしている事とも一致する。』

「おいおい、それって煌紫に取っては同種殺し、俺にとっては人殺し、そんなのを大勢の目の前でやろうって話なのか、?何時もの煌紫らしくないな。一体どう言う事情なんだ?言える範囲でいいから教えてくれよ。第一、そいつは一体誰なんだ?」


『彼の正体か?前に教えた事があるだろう。闇の守護者だよ。今の私の立場では、たとえそれが共食いを止める為であっても、ネットワークや正規の守護者を、おいそれとは利用出来ないのは分かるだろう?利用できるのは誤魔化しの効く、表面的な事柄に限られる。それでも我々は、相手の動静や、情報を深く知る必要があった。その時、手助けをしてくれたのが彼だ。いや正直に言おう、私が彼を利用したんだ。』


「利用した?、、、お前達には人間みたいな利害関係はないんだろ?・・そいつとは友達だったのか?」

『我々ネットワーク存在には人間が言うような友達関係はない。ただ彼とは昔から浅からぬ因縁があったのは確かだ。私は、彼が闇の守護者になった経緯も、更に彼が今、その闇の守護者からさえも墜ちて行こうとする理由を知っている。私はそれらを利用して、彼を動かしたんだ。だから彼が墜ちていく事に私は多くの責任がある。』


「その理由って何だよ?お前たちの世界の中で、人間が犯罪や罪に手を染めていくような動機があるとは思えないんだが?」

『例えば、私がそうだよ。海と私が此処に至った経過を思い出してくれ。全ては遊の死から始まった事だろう?知的生命が生きていく限り、どんな生態系や価値観を持っていようが、そこには必ず因果が起こる。彼の場合は、単純に言えばネットワーク的存在という生き方に彼が疑問を抱いた事が、全ての始まりだった。今、彼は、様々な因果を経て、プシー種そのものに憎しみを抱くようになっている。彼がこのまま憎しみに身を任せて、変容し続けると大変なことになる。』


「大変ってなんだよ!俺達は今、共食いの脅威と戦ってるんだろ。それ以上の事があるのか?」

『そう指摘されれば、ある意味、これは人間の海には関係のない危機かも知れない。多分、他種の知的パラシートゥスにも類は及ばないだろう。、、私が回避したいのは、人間の概念にはない危機だ。言葉で説明するのは難しい。ネットワーク的存在であるプシー種だから起こる危機だとも言える。まあ敢えて言えば、セキュリティの問題で放棄された古いOSが、その体内にウイルスを抱えたままネットワークに接続されようとしている、ようなものだ。そのOSが彼なんだ。放って置くと、プシー種の構築した世界に大きな穴が開く。』


「やっぱりよく判らないな。、、、でも友達なら助けてやれよ。」

『だからそうしょうとしている。私が彼を終わらせる。それが一番良いし、私にはそうする責任がある。』

「責任、責任って、、、煌紫はいつもそうだ、、。」


『もう直ぐ彼の事は、ネットワークに知れる事になるだろう。そうなれば彼は闇の守護者達に狩られる事になり、見せしめの為の不名誉な死を与えられるだろう。しかし彼もただでは死なない。徹底抗戦をする。つまり無理矢理ネットワークに自らを接続し、致死ウィルスをばらまくだろう。不完全な攻撃でも、プシー種のダメージは大きい筈だ。』


「、、煌紫になら、そいつは簡単に殺されようとするってか?良くある、ホントはそいつ自身が死にたがってるって、みたいな話なのか?」

『我々の世界にそんな安いドラマはないよ。彼は、私とも徹底的に闘うだろう。私に彼を終わらせる目算があるのは、いつかこの日が来るだろうと思って、私が研究を重ねて来たからだ。私は随分前から、彼の変質を知っていたからね。ただそれをネットワークに報告するには忍びなかった。、、、それに加えて、私はそんな彼を利用していた。』


「ふう、、なんだかな、、。俺は煌紫達は他の虫どもとは違って、平和的で紳士な奴らばかりが揃ってて、全員でユートピアを目指してるんだとばかり思ってた。だから、今の煌紫の話を聞いて、なんだかがっかりしたよ。」

『、、馬鹿を言うな。今だって、我々プシーはユートピアを目指して全力で生きているさ。だがお花畑で浮かれている訳じゃないんだ。君はどう捉えているか知らないが、我々プシーが理想を追うという事はそういう事なんだよ。そして、そんな我々を外側から支えてくれているのが守護者達だ。下支えをしてくれている守護者。汚れ役をこなしてくれる闇の守護者、彼らの現実は、もっと厳しい。、、彼が変質に追い込まれたのも、それが一つの原因だった。』

 ・・・マンイーターやハイエナの事は、ずっと考えてきた。

 しかし自分は一番、身近にいたクリムゾンパープルの事を殆ど知らない。

 そう海は、改めて思った。


「、、俺が協力するとして、その場所は、何とかならないのか?目立つ場所だって事は認めるけど、周囲を巻き込んでしまうぞ。別に一石二鳥に拘らなくてもいいんじゃないのか?」

『今回は、拳銃を持っていくな、彼相手では持って行っても役には立たないだろうしな。、、心配するな、彼は幾ら壊れても、決して人間を傷つけない。それが我々、プシー種としての最後の矜持だ。そして彼の死が、結果的に知的パラシートゥス全体の役に立つ、その事が、彼への手向けになる。いつの日になるか判らないが、私は、いつか彼の名誉も回復させてやりたいと思っている。』


 煌紫にとっては、自分の友達の始末よりも、「共食い」を止める事の方が重要なのかも知れない。

 好き好んで一石二鳥を狙っている訳ではないのだ。

 しかも、必ずしも仮面ライダーゲームの真相を暴く事が「共食い」阻止に繋がるとは限っていない。

 「共食い」に関しては、何を置いてでも、少しの可能性があれば潰して行く、煌紫はそういう覚悟でいるのだ。

 海は煌紫が、この「共食い」を自らの手で本気で食い止めようとしてるのだと改めて思った。


『それに海の手は汚させないよ。これは私がやるべきことだ。』

「決心は固そうだな。でもその話を聞いて、俺が嫌だと言ったらどうする積りだったんだ?タイミング的にはその守護者って奴を、もう呼び出してる筈だよな?」

『もし君が断ったら、やっては行けない事だが、私は君を暫くの間、乗っ取る決心でいた。』

 この煌紫なら本当にやるだろう。


「怖ぇな、、、、。で、そいつの名前は?」

『暮神斉彬。歩く死体だ。プシー種としての名はもうとっくの昔にない。』

「奴がその場所に来たら、何時もの様に教えてくれるんだな?」

『そうするが、今の海なら斉彬の事は教えなくても直ぐにわかるだろう。』




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