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異蟲界、倒錯の知的パラシートゥス  作者: Ann Noraaile
第5章 ソウルブラザーズ
39/67

39: 刑事からの情報


 真希が鏡の前で、一部が跳ね上がったショートヘアを整える。

 手櫛で簡単に直る。

 もちろん地毛ではない。

 人の皮の形をした疑似植物生命体が作り出した髪だが、細く美しくしなやかだ。

 煌紫はその様子を見ながら海に言った。


『やはり波照間襄だったか。等々力寛治事件で特捜班が組織されたが、その中で波照間班が一番派手な動きをしていたからな。』

「すぐに判るんだな、例のネットワークからの情報か?」


『気にくわないのか?言っておくが、我々のネットワークは全能ではないよ。海や慎也の努力をあざ笑うようなものではない。』

「理解してるよ。それが判ったのは、お前のお仲間の守護者とやらが、警察の中に何人か潜り込んでいるからだろう?その事は、前の狙撃チームの件でなんとなく気付いていた。で、慎也が調べてきた情報が、ネットワークの情報を確定したわけだ。』

 海は煌紫との会話を続けながら鏡の前で、自分の顔への人工皮膚の収まり具合を確かめる。

 ゴムで作ったマスクではないから、意味のない行為だが、生きた人工皮膚ならその体調を調べるいう面もあるのではないかと海は思っている。


「ところで最近、この顔が微妙に前とは違ってきてるような気がするんだけど、どうなんだろう?」

『ああ、緩んで来てるよ。微妙にね。他の人間には判らない程度だが』

「緩んでる?」

 海は鏡の中の遊、今は黛真希の顔を、角度を変えて何度も確認する。


『言い方がまずかったな。それは中の人間と同調してるのは理解してるね。つまりデフォルトである遊の形状記憶へ、海の顔の情報が、シンクロ途中に混じり込み始めてると言う事だ。しかし元から二人は双子だから、いくらその混入が進行しても、大きな変化は起こらない。気になるなら、一度、私の中の遊の情報とシンクロさせ直して形状記憶をリセットしようか?』

「いいさ、これでいい。これから波照間に会うのは、架空の人物、黛真希だからな。」


 男姿の神領海として、この刑事に会う事は、様々なトラブルを抱え込む可能性があるのが目に見えていた。

 勿論、遊の顔も、等々力寛治事件で特捜班だった波照間は知っているだろうが、遊は既に死んでいる。

 黛真希は、遊によく似た謎の女性という事であって、波照間がその事に好奇心を起こして、真希を突き回してくれるのであれば、再び等々力寛治事件が別の角度で蒸し返される事になる。

 おそらくそれはまた、隠蔽されるのだろうが、それはそれで面白いことになると海は考えていた。


 出来るだけ多くの警察関係の人間が、知的パラシートゥスの存在を知ればよいのだ。

 あの極夜路塔子も、日本平悠木事件を本気で追って行けば、いつかはマンイーターの存在に追いつくだろう。

 それで彼らの運命は、大きく代わるだろうが彼らは「巻き込まれて」そうなる訳ではない。

 そこが、海や慎也との大きな違いだった。


 海は、鏡の横にある戸棚の中から、大きくて豪華な作りの化粧ボックスを取り出して鏡の前に置いた。

 これは香川杏子の警護をしていた時に、彼女からプレゼントされたものだ。

 「私の警護をするんだから、もっと綺麗になりなさい」との命令付きでだったが。

 化粧の仕方も、彼女専属のメイクアップアーチストから手ほどきを受けた。

 海は元から絵が描ける人間だから、瞬く間に、そのテクニックの技術は上達している。


『綺麗だな。遊とはまた別の美しさがある。』

 煌紫がそう言った。

 クリムゾンパープル族は、「美」を愛し尊ぶ寄生虫族だった。

「俺のは見かけだけさ、、、姉さんのは本物だった。さあ、そろそろ行くか。」

『銃を持っていけ』

「波照間が寄生されてる可能性があるのか?」

『あるともないとも言えない。ただ、そういう危険性のある行動を、君は再び取り始めたという事だよ。』

「銃は無理だな。慎也から没収した長ドスを持って行く、あっちの方が目立つが、ばれた時は銃よりはましだ、それより煌紫。今度の件、共食いと関係があると思うか?」

『それは判らないな。けれど、あの等々力が、わざわざ個人的に、部下を使って調べさせていたという点に引っかかる。それにそれを遊達に注意したというのもね。慎也君との関係を抜きにしても、調べてみる価値はある。』



 案の定、波照間の視線は、真希の隣の空席に立てかけてあるゴルフクラブケースに定期的に流れていく。

 ここは、駅前広場に面した喫茶店のテーブル席だ。

「その中に入ってるのは、ゴルフクラブって事はないよな。」

 波照間が浅黒い肌の中で薄く光る目を真希に向ける。


「日本刀だと言ったらどうするの?」

「逮捕すると言いたいところだか、まあいいや。それで俺に何のようだね。お嬢ちゃん。」

「遠回しな話をしてても、時間の無駄よね。私、モデルの黛遊の親戚なの、警察なら判るでしょ?未だに遊は行方不明のまま。警察に頼っていても埒が開かないから、自分で調べる事にしたの。」

「それはそれは、勇ましい事だね。お嬢ちゃんが怪我さえしなければ、そうするのが正解だろう。言っちゃなんだが、この件に関しては警察は宛にならないからな」

 波照間は、今回の出会いの意味のおおよそを、理解し始めているようだった。


「黛遊と一緒に行方不明になった真行寺真希が残した日記から、仮面ライダーゲームに気を付けろって、文章が出てきたわ。これについて、あなた何か知ってる?」

「何故、俺が知ってるって思うんだい?お嬢ちゃん。」

「私は真行寺慎也が雇った探偵の筋から、あなたに会ってるの。それで判るでしょ?」

「確かに、等々力寛治事件の事なら多少は知っているがね。しかしそれは秘匿事項だ。」

「その情報をお金で売ってるくせに、、。」


 海は側に立てかけてあったクラブケースに手を掛けて、ジッパーを開き、その中に手を突っ込む。

 物に動じないと思えた筈の波照間の顔が少し引きつった。

 瞬間、正面に座っているこの女がクラブケースの中から、長ドスを抜き出すのではないかと思ったからだ。

 相手がヤクザ関係の人間なら、太々しくその様子を見ていたのかも知れない。

 素人は何をしでかすか判ったものではない。

 しかし目の前の女が、クラブケースから引きずり出したのはビニール袋に無造作に包まれた札束だった。


「100万あるわ。あんたなんかには、きっと払い過ぎね。これは、行方不明になってる二人の女性達への私の思いだと思って頂戴。知ってる事を教えて。その情報の金額分を、自分で決めて、ここから取ってけばいい。」

 そう言うと、海は口の開いたままのクラブケースを横に寝かせて、隣の椅子に置き、又、そのケースの中に手を突っ込んだ。

 その手の先は長ドスの柄を握っている。

 当然、波照間はそれが判っている。

「あなたは今、試されてるのよ。どうせあなたは、後で私のこと調べるだろうから手間を省いてあげる。私はこの前、香川杏子が大学で襲われた時、彼女をボディガードしてた女なの。詳しいことは、お仲間の極夜路塔子刑事に聞けばいいわ。」


「大したもんだな。お嬢ちゃんは、言った事はなんでも実行しそうだ。、、仮面ライダーゲームってのは、人間狩りゲームの事だよ。ほら、オヤジ狩りとかあるだろう。あれと同じだな。ただし金銭を狙ったりはしないし、狩られる相手は一応、悪人って事になってる。そのゲーム自体を、企画し運営してる人間がいるんだ。奴らは狩る方、つまり仮面を付けた正義の味方になりたい人間を、一般から募集してる。そして狩るべき相手を、教えてやるわけだ。そのゲームでは、不思議な事に、何をやっても警察には捕まらない。そんな馬鹿なと思うだろ?それがあるんだ。当然、そこには色々な、からくりがあるんだろう。それを等々力寛治警視の肝いりで、何人かが捜査に入っていた。だがそれも、等々力寛治警視の死で立ち消えになった。俺は、最初、等々力寛治警視の死は、この仮面ライダーゲームと関係があるんだと睨んでいたんだが、そうでもなかった。」


「その口ぶりだと、あなたは仮面ライダーゲームの捜査には、直接携わったわけじゃないのね。」

「そうだ。俺がこの話を知ったのは、等々力寛治警視の死の究明について特別捜査班が組まれ、俺が一つの班を任された後だ。色々調べていく内に、この話を聞いた。」

「じゃ、その担当刑事に聞いたら、詳しいことが判るって事ね。」


「それは無理だろうな。今、警察の中では、等々力寛治と日本平悠木、、ああそれとお嬢ちゃんが関わってたっていう香川杏子襲撃の件については、全て、済んだことになっていて誰もがもうアンタッチャブル状態だ。それにそいつらは、俺みたいに情報を売ったりはせんよ。皆、真面目だからな。」

「なんで、あんたみたいな人が、特別班の班長になれたわけ?」

「それは腕が良いからだろう。あの時は、臨界体制だった。灰色であろうがなんであろうが、早急に成果を出す事が必要だったんだよ。あの時はな。」


「途中で、すべてをうやむやにされて、悔しくないの?」

 波照間の顔が奇妙に歪んだ。

 悔しさではなく、大笑いしかけたのだ。


「この俺が、警察の隠蔽体質に怒りを抱くってか、、冗談はよしてくれ。」

「もういいわ。好きなだけ、お金を取って、私の前から消えて、全部でもいいわよ。」

「って、俺が全部戴こうとしたら、その長ドスで俺の手首を切り落としてやるって目つきしてるぜ。」

「、、、、。」


「は、冗談だよ。今日は銭はいらねえ。仮面ライダーゲームについての具体的な事は俺が聞き出しておいてやるよ。お嬢ちゃんじゃ、調べるのはどうやっても無理だ。たとえ、その素敵な身体を使ってもな。なんせ奴ら、仕事から来るストレスで、ほとんどインポらしいぜ。信じられんよな、、、。 その時に、それ相応の金はもらうさ。でも、此処のお茶代くらいは、今日のネタで、おごってくれよな。」

 波照間はそう言って、喫茶店を出て行った。








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