表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異蟲界、倒錯の知的パラシートゥス  作者: Ann Noraaile
第5章 ソウルブラザーズ
38/67

38: 開かれた日記


 煌紫と海を取り巻く様々な動きが、まるで一休みをしているような状況だった。

 香川杏子は入院したままで海はどう関わるにもままならず、比留間兄弟は射殺され、共食いの連鎖は一応止まっているようにも見えた。

 そんな夜、海のマンションのインターフォンが鳴った。


 小さなディスプレイに映し出されたのは、明らかに酔った様子の真行寺慎也だった。

 海は酔って足元まで怪しそうな慎也を追い返す訳にも行かず、自分の部屋の中に迎え入れてやった。

 慎也が土産だと言って、ケーキの入った箱を突き出し、海のベッドの上に座り込んた。

 時々そのままベッドに横になったりと、酔いに動きを任せたままだ。


「おい、こっちのソファに座れよ。」

「だってこっちの方が、兄貴の匂いがして、俺、安心するンスよ」

「お前酔ってるだろ、自分が何、喋ってるのか分かってるのか?」

「前の時だって、此処で介抱してくれたじゃないすか」

「介抱したんじゃないよ。床に転がしておいても良かったんだが、あんまりだと思ったから、ベッドに寝かしただけだ。」


「俺、姉貴しか居なかったから、兄貴も欲しいなって。」

「俺は、こんなにでかくて酔っぱらいの弟なんて欲しくないぜ。とにかくこっちにきて、座れよ。コーヒー入れてやるからさ。」

 渋々、慎也はベッドから腰を上げて、ソファに沈み込む。


「で、なんの用事だ?」

 海はキッチンで豆を引きなから慎也に問う。

「俺の所に顔を出すのに、酒の力が必要なのか?まあ、かと言って、お前はうちに気軽に遊びに来れるような俺との間柄じゃないのも確かだがな。」

 海が沸かしていた湯を、フィルターに入れたコーヒーの粉へ、ユックリと「の」の字を描くように注ぎ込む。


「、、思いきって姉貴の日記を読んだんですよ。前から、姉貴の行方を調べるのに、何かの手掛かりがある筈だと思ってたんだけど、そんなコトしてる時に、もし姉貴が帰ってきたら、俺ぶち殺されるんで。今まで我慢して来たんすよ。」

「見切りを付けたって訳だな。マトモな判断だと思うぜ。俺だって、そういう事が出来るならそうする。うちの姉の始末は事務所がしてるよ。俺は確かに姉の親族だけど、最近まで俺たちはバラバラに暮らしてたし、姉の方は天涯孤独みたいな状態で、ずっと事務所に世話になってたからな。」

「じゃ全然、遊さんの家には?」

「失踪してからは、行ってない。あそこに行くと、胸が掻きむしられる。その辺は、多分、お前と同じだろう。」

 海はコーヒーカップを、慎也の前に置いてやる。


「で、お前の話、続きがあるんだろう?」

「、、姉貴達は、等々力寛治という、おっさんと付き合ってたらしい。」

 たぶん日記には「達」ではなく、遊がメインで、と書かれている筈だろうが、慎也は海に遠慮してそう表現しているのだろう。


「、、大人の女性がやる事だからな。それにどの業界だって、綺麗な側面だけじゃないんだろう、、で慎也は、その等々力寛治ってのが、怪しいと思ってるのか?」

「いや等々力寛治は警察のお偉いさんだし、もう死んでいる。気になるのは、このおっさんがある時、、って、超高級レストランに4人で行った時らしいんだけど、、、いやホントは姉貴の日記の内容は、そのレストランの事が事細かく書いてあって、そっちがメインだったんだけどさ、、、その時のメンバーは姉貴達と等々力寛治と香川杏子。香川杏子は、兄貴も知ってるよな?」

「ああ、ついさっきもテレビに出てた。で?その時に、何かあったのか?」


「最近は色々物騒で、こちらから特に何もしなくても、厄介ごとにに巻き込まれる事があるから、君たちも気をつけろみたいな話になって、時に若い有能な人間、セレブって奴に誘いがあるんだとか、、、それ、仮面ライダーゲームっていうらしい。」

「かめんらいだーって、あのかめんらいだーか?」


「日記を読んでるかぎりはそうみたい。仮面を付けて、世の中のクズをやっつける。ルールさえ守ってれば、仮面を外した時の社会生活には、なんら影響がないから大丈夫って、、ただ、誰でも彼でもこのゲームに参加出来るんじゃなくて、選ばれた人間だけが、、みたいな誘い文句らしい。」

「それが、気になってるのか?」


「ああ、後にも先にも、日記からは姉貴達が失踪した事に繋がるような事は、何も書かれてなかった。それに何で、等々力寛治っていう警察の偉いおっさんが、姉貴達にこの話をしたんだろう?って。世間でなんとなく噂話になってるような、やばめの話なら、俺だって知ってるだろうし、そんな話、調べりゃ直ぐに判る。でもみんな知らないんだ、、等々力の言ったのって、かなりレアな話なんじゃないかな、、。」

 海は、遊達の死に、慎也の言う仮面ライダーゲームが関係ない事を知っている。

 ただし確かに、慎也が言うように、等々力寛治が遊達にわざわざこの話をしたという事実については奇異な感じがした。


「その話、俺が調べてやるよ。」

「えっ?」

「お前、仕事何してるのか知らないけど働いてるみたいだし、俺は学生だからな。だから、もう危ないことには頭を突っ込むな」


「冗談だろ。そんなの兄貴より、俺の方が向いてるに決まってるじゃん。」

「長ドス振り回してたお前を伸したのは俺だって事、もう忘れたのか?それにもし、その話、やっぱり真希ちゃんとか俺の姉貴と関係があって、俺が動くとなったら、必ずお前に連絡してやるよ。」

「いや、俺は兄貴と一緒に仇討ちがしたくて、、。」

 慎也が「仇討ち」と口を滑らせた。

 姉の日記を読んだ時点で、慎也には、自分の姉はもう死んでいると諦めが入っていたのだろう。


「判ってるさ、だから言っただろう、のけ者にするつもりはないって。」

 慎也が頭髪と同じように、金色に染めた眉をしかめる。

 海の申し出に納得していないようだ。


「、、判った、判った。だったら、こうしよう。お前、前に俺の事調べるのに、探偵を使ったって言ってたな。で、その探偵、自分がつるんでる刑事の情報をでっちあげて、お前から金を巻き上げたんだろ?そいつの落とし前、もう付けたのか?」

「まだだ。」


「だったら、その落とし前付ける時のついでで良いから、その刑事の名前と所属を聞き出してくれ。どうやら仮面ライダーゲームってのは、警察内部レベルの情報みたいだから、そっちの方面に誰か詳しい人間がいると調べやすいと思うんだよ。俺だってゼロから調べるのは、雲を掴むような話だからな。どうだ?当面、慎也がそれをやってくれるか?」

「、、、ああ、判った。」


「じゃ、機嫌直して、お前の持ってきたケーキ、喰おうぜ。」

 慎也が持参したケーキは超豪華なもので、並の若い男が、なぜそれを売っている店を知っているのが不思議な感じがした。

 いわゆる天才パティシエとかが創る、見た目が宝石のようなスイーツなのだ。

 こんな洒落た超高級なケーキを販売する店は、普通の男には縁遠い筈だ。

 もし自分がそれを買いに行くなら、それこそ、その為にだけ、遊の姿が必要ではないかと思えた程だ。

 真行寺慎也、、この若者は一体、どんな仕事をしているのだろう?と海はその愛嬌のある顔をちらりと眺めた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ