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異蟲界、倒錯の知的パラシートゥス  作者: Ann Noraaile
第2章 パラシートゥス 虫たちの世界
15/67

15: 操縦系

「、、、ハラガヘッタ。」

 この前、人間を殺したのは何時だったろうと、監察医の比留間健一は思った。


 ・・・


 我々が宿主に出来る人間の数は限られているから、その数を将来に渡って確保し続ける意味でも、人間を無闇やたらに殺してはいけないのは解っているのだが、生き物の中で、殺して一番面白いのはやはり人間と言う事になる。 

 ただし味の方は、もう一つだ。

 食って美味いのは鰐だが、見世物の鰐公園や、動物園に何回も忍び込んで、わざわざ危険を冒す程の味かと言われれば、そうでもない。

 鰐のテール肉などは、分厚くゴツゴツした外皮からは想像できないような、脂が乗った鶏のササミようだ。

 いくら淡泊な味が好きな私でも、あれは少し頼りない。

 それに、鰐クラスの獲物に対する飢餓感なら、猫や犬を適当に喰いちぎって於けば、その飢えは収まる。

 やはりトータルすると、色々な意味で喰い殺す対象としては、人間が一番面白いのだ。


 だが、食うのに一番厄介なのも人間だ。

 人間の世界には警察と言うものがある。

 監察医である私にとっては、警察は身近なものだったから、その面倒さはよく判っている。

 警察に、宿主の身体を抑えられると、又、次を探さなければならないし、宿主を失うとなると、次は適合の問題があって、誰でもいいという訳には行かないのだ。


 出来れば、この比留間という身体を使えるだけ使いたい。

 ・・・そうだ、だからあの時は「熊」に、変化したのだ。

 変化する為に用いた熊の設計図は、「KOMAKOME動物園飼育ツアー」とやらに参加した時に、宿主の手首から発射した極細の採取管で、ツキノワグマから頂いたものを使った。


 その設計図を使って、わざわざ熊の冬眠明けの時期を狙い、しかも過疎地の山里に行って、熊に変身してから人を襲い喰い殺した。

 鉤爪で張り倒して老人の頭を囓った時は、それなりの満足感を得たが、もっと美味しくても良い筈なのにという不満が残ったのを思い出した。

 それとツキノワグマの体長は、宿主の比留間の身長よりも短いので、その骨格を大きく変化させるのに、かなり苦労をしたのも覚えている。


 だが我々は、知的寄生虫の中でも「操縦系」と呼ばれる寄生の仕方をするから、人間の身体にビッシリ自分の神経枝を伸ばすクリムゾンパープルの「居座り型」や、マンイーターの「半居座り型」とは違って、宿主の肉体的なダメージを共感する事が少ない。

 だから宿主の身体を無理矢理変身させても、我々はその痛みを感じる事はない。

 その代わりデメリットとして、宿主が感じる良性の感覚も余り深く共有出来ないのも確かだ。


 この点について、弟はクリムゾンやマンイーターの仕組みが羨ましいと言ったが、私はそれ以上に、我々が宿主の身体の中を線虫形態で自由に移動するあの肉の中を泳いでいる感覚が好きなので、特にこの「操縦系」の寄生の仕方に不満は抱いていない。


 しかしそれでも、我々と同じように人を食うマンイーターが同じ人間を食っても、宿主との共感率が違うという理由で、人喰いから引き出してくる味覚に差があるという事実には、大きな苛立ちを覚えている。

 奴らが膨大な手間暇を掛けて人間を喰うのは、それだけ、人間が美味いという事なのだろう。

 我々は、同じ物を喰いながら、その味を味わい尽くし切れていないという事だ。


 別にマンイーターの真似などしようとは思わないが、この生命に溢れる星には、もっと美味いものがあると私は思っているし、いつかはそれを口にしたいと常々考えている。

 そして、そのチャンスは意外にも早く、しかも身近な所に訪れてくれそうだった。

 とても美味そうな匂いが、私の受け持つ現場に漂っているのだ。




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