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異蟲界、倒錯の知的パラシートゥス  作者: Ann Noraaile
第2章 パラシートゥス 虫たちの世界
11/67

11: 彼らの正体


 二人のモデルの死は、一向にニュースとして流れてこない。

 それどころか、まだ正式に失踪扱いにもなっていないようだ。

 海個人の捜索願程度では、等々力の影響下にある警察に動きが起こらないのは予想できた事だが、遊の所属事務所は企業としては最大手だ。

 事務所が動けば、多少は動きが変わってくる筈なのだが。


 海は、事務所の佐山に何度か連絡を入れている。

 姉の復讐を思いついてからは、目立った行動を控えるように用心深くなっていたが、姉の事を心配する弟の役割を演ずる事に問題はない。

 真希の家族については、可哀想に思ったが、海からは接触できなかった。

 だがいずれ、仇は真希の分も取るつもりでいた

 そんな海の思惑も知らぬまま、佐山の返答は、毎回、微妙に変わりつつあった。

 おそらく何処から、何かの指示なり、圧力があるのだろう。

 「今は香山先生と連絡が取れなくて」等と、海の問い合わせに、いつもの如く適当な理由をつけて誤魔化してくる。

 そのうち、『二人が事務所に連絡もなく行方を眩ませた』等と言い出すのだろうと思いながら、海はスマホの通話スィッチを切って、イーゼルにかけた数本の革ベルトを眺めた。


 幅広の革ベルトは、縦の位置関係で所々が繋がっていて、人がそれを着用すれば全身を包むボンデージサックになる。

 姉の「抜け殻」の方は、大切にクローゼットに保管してある。

 だがこちらの革ベルトについては、そんな気にならなかった。

 同じ姉の形見と言っても意味が違う。


『それが気になるかね?』

 煌紫が浮かび上がってきた。

「これって何だ?只のなめし革じゃないだろ?それに姉貴をやった奴らの本当の正体ってなんだ?単純にお前の仲間ってことじゃないんだろう?」

 海は今まで口にしなかった事を、思い切って煌紫に聞いた。


『ようやく、我々の存在を本気で受け入れる準備が出来たようだね、、私は君の無茶な身体改造については反対だったが、ある意味あれは、我々の世界を受け入れる為の君なりの準備期間だったのかも知れない。君は、破滅的なほど思い切りが良いかと思えば、用心深かったりと、複雑な性格をしてるからな。』

「俺の性格分析なんてどうでもいい。寄生虫のことなんて知りたくもないが、お前の言葉を信じるんなら、そいつらの数匹を殺す事になるんだ。しかも相手は、お前とは種類が違う感じだ。少しは情報を知っておく必要がある。」

『・・・・。しかたがないな。私の種の事ならともかく、他種の情報を詳しく喋るのは不本意だが、私には君に情報を開示する義務があるしな。』

 この反応に海は、もったいぶった野郎だと思っていたが、この時の煌紫が大きな分岐点にいた事を、後に知ることになる。


『、、まず、イーゼルに掛かっているそれだ。今、君の見ているのは、彼らの抜け殻を加工したものだ。』

「彼ら?」

『ここではっきりさせておこう。彼らとは、遊達を殺した人間達に寄生していた他種のことだ、。こんな言葉に意味はないが、君の整理の為に言っておこう。私たちは、この世界のもう一つの生命系に存在する知的パラシートゥス属の生命体で、我々がプシー種、彼らはキー種だ。他にファイ、ユプシロンと続く。全て知的パラシートゥスだ。因みに界・門・網・目・科はない。それは人間の分類方法であり、我々には当てはまらない。」

「パラシートゥス?ラテン語だな。俺の仇は、知的寄生虫属キー種ってわけか、、吐き気がするな、、。」

『それぞれの種は、独自の進化を遂げてきた。中でもキー種は特異だ。彼らは一度、人間への寄生を止めようとして、独自にこの生命界に適用しようとした歴史を持っている。彼らの現在の形状と習性は、その時代のなごりだ。その抜け殻がそうだね。彼らの姿を見せてやろう。』


 海の意識が煌紫によって、突然ブラックアウトさせれられ、次に人体内部を覗き込む事になる。

 食道から大腸に繋がる長い肉の筒にギッチリと詰まった動く影があって、更にその影の側面からはいくつもの尖った突起があり・・。

 見えた!

 人間の体内にいるオオムカデだ!

「もういい!止めろ!」


『・・・寄生虫に対する君たち人間の反応は仕方がない、、とは思うのだが、すこし傷つくな。我々の見た目と、組成はまったく違うモノだよ。知的パラシートゥスという呼び名も、本当は受け入れ難いが、何人かの人間には、説明の為に必要だった。考えてみたまえ。君が思い浮かべるような下等生物が、人間の身体に操作干渉したり、高等な思考を共有する事が可能かね、、?第一、あの革ベルトの感触、昆虫の皮のそれか?ほ乳類の温血動物のものだろう?』

 次の瞬間に、海の意識は元の世界に戻っている。

 相変わらず、キー種の抜け殻だという革ベルトはイーゼルの上に掛かったままだ。


「キー種ってのは、オオムカデの形をした、ほ乳類だと言いたいのか!」

『そうではない。君達の分類方法で言えば、私の身体など見た目は派手なサナダムシだが、その正体は金属シリコンに近いという事になる。』

 金属?シリコン?意味が解らない。

 真希によれば、彼女達が見たと言うサナダムシは光り輝いていて体表面に模様の様な文字が描かれていたというが。


『やはり、まだ早かったか、、』

「・・・みたいだな。正直、俺の理解を超えている。だがキー種とやらの正体は我慢して聞く。仇の相手なんだからな。続けてくれ。」

『、、そうだな、まだこの事は、君にとっての戦略的な情報という形で伝えた方が良さそうだ。キー種は、生命体の操作に熟達している、いや固執と言っていいな。遊たちに投与した神経剤もそうだし、あの革ベルトもそうだ。すべては、苦痛とその緩和、破壊と保持、それらを上手く操作するために、彼らが考え作り上げたものだ。全ての生命体に関して、共通して言えるのは、壊すのは簡単、作るのは難しいという事だ。だが彼らの生命への操作術は、その難関を突破し次のレベルに到達している。』

「その力ってお前達、プシーより上なのか?、お前は俺を、ここ迄作り変えた。それどころか一度死んだものを再生させるのも可能だという、それよりも凄いのか?」

『技術的には、我々は彼らと同レベルにはあると思うのだが、、我々には相互間の不干渉というルールがあるからね。彼らの実力の本当の所はよく判らない。』

「あの革ベルトは、一体、何の為に作ったんだ?」

『激しく傷めつけても、肉体が直ぐに壊れてしまわないように、関節を保護する為だ。それと。あまり言いたくないが、彼らの口に合うように、人間の肉を熟成させる。真希は選ばれなかった。彼らは美食家だからね。』

「クソ!!」


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