『第二の人生Ⅱ』
俺は走った、ただ全力で逃げることだけを考えながら。今の状況が夢であってほしいとどれだけ考えただろうか。しかし、今が夢ではないことを足の痛みですぐに証明させられた。
靴の有難みを改めて実感させられる。走っている場所も関係しているかもしれないが、裸足で森を走ることはとてつもなく痛い。折れた小枝が刺さり、石で足を切る。
だが、痛みで足を止めるわけにはいかない。俺が走り出したことにより、赤目の獣は獲物が逃げたと思い全力で追いかけてくる。太い足で地面を強く蹴り、距離をどんどん詰められる。さらに、足の血の匂いを嗅ぎ本能を刺激されたのか唸り声をあげる。
こんな状況こそ逃げ切れることだけを考えるべきなのだろうが、やはり嫌な想像ばかりしてしまう。
もしも獣たちに追いつかれてしまったらどうなるのだろうか。まず、走れなくするために足に噛みつくだろうか。あの牙で噛みつかれれば肉は断たれ二度と走れなくなる。下手をすれば食い千切られるかもしれない。そして、走れなくなった俺にすぐさま他の四頭も跳びかかり、体に食らいつく。四肢は食い千切られ、鋭い爪で腹を裂き内臓を抉られる。四肢を食い千切られるときにショックで死ねればいいのだが、そこで死ねないと最悪だ。逃げようと思っても腕や足はなく、内臓や体を食われる感覚を味わう。そんなもの死んでもごめんだ、考えただけでも吐き気がする。
死ぬことではなく生きることを全力で考えよう、と思った瞬間何かに足をとられた。一瞬獣に足を噛み付かれたのかと思ったが痛みはない。足をとられたものは地面から盛り上がった木の根だった。最悪だ、ここまで自分の運の無さを恨んだことは元の世界でもない。
俺は木の根に躓き転びそうになったが、なんとかバランスをとり転倒だけは防げた。だが、この好機を獣たちが逃すはずがなかった。先頭を走っていた一匹が左腕に噛み付こうと飛び掛かってきた。
獣をなんとか避けて噛み付かれずにはすんだが、避けるときに獣の鋭い爪が腕を切り裂いた。少ししか触れていないのに皮膚は裂け傷口から血が出る。さらに、獣を避けたことでまた体勢を崩し転倒してしまった。
「今度こそ終わりだ。短かったな第二の人生」
さすがに無理だ。座った状態で武器もない、終わりだ。死ぬ直前になると案外落ち着くものだな。これは俺が一度死ぬ経験をしているからだろうか。
獣たちが一斉に俺目掛けて飛び掛かってくる。俺は両腕を広げ、目をつむり天を仰ぐ。獣たちが少しでも噛み付きやすいように俺からのサービスだ。
「ありがとう、短かったが俺に第二の人生を与えてくれた誰か。心から感謝する。」
そう言った瞬間どこからか複数の爆発音が聞こえた。その音とほぼ同時に獣たちの鳴き声が聞こえた。今まで自分を追い回していた猛々しい唸り声ではなく、何かに攻撃を受けたような弱々しい鳴き声だ。状況を確認するために目を開けると、さらもう一回爆発音が森に響く。また獣たちに当たったのか弱々しい声をあげる。二回目でこの音の正体に気づいた。これは銃、銃声だ。
誰かが銃で俺を助けてくれたのだろうか。獣たちは襲いかかることを止め森の中へ逃げていく。足下には獣たちの血で濡れている。よく見ると服に血がついているし、顔も濡れている。獣たちの血を浴びたのだろう、なんとも鉄くさい。
まだ途中