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義高様と大冒険[4]

そこから目的地はすぐ其処だった。

どうもゴールが近づいてから姫を起こすように倖氏さんが予め計らってくれていたみたい。

道は開ける。

馬の歩調が緩やかになる。

風が強さを増す。

風が運んでくる匂いは塩辛く、

風が孕む水気が増えて、少しベタベタする。

耳に囁きかけてくるのは浪の音。

引いては押して。

押しては引く。

木々は進むほどに、その数を減らし、

天井には空が、どこまでも、どこまでも両手いっぱいに広がる。

そして眼下を見渡せば、

そこには姫が目指した「海」があった。

ザパンっ、ザパンっ、と音がする。

浮いては沈み、

沈んでは浮いて。

潮水が絶え間なく、うねっていく。

先は遠く遠く、

手を伸ばしても人の手では全然足りなくて、

軽く円を描きながら空の青を映し、

日の光を反射してキラキラと輝く。

ここには果てというものがない。

ここには永遠がある。

そんな気がする。

姫はそれだけでウキウキする。ワクワクする。

この先には何があるんだろう、って。

だからきっと義高様もそうだと思って振り向いたら、

義高様はポカンと口を開けて目を見開いてらして、

ピクリとも動いてくださらなくて、

もしかして義高様はそうじゃなかったのかなぁって。

木曾という所には、やっぱり此処よりきれいな海があって、

それで義高様は見あきてしまっていて、

つまらなかったのかなぁと思って不安になって、

「あの…義高様は海は好きじゃなかった?」

って聞いたら、

義高様はポカンと開いたままの口をゆっくり動かして言った。

「これは…海って言うのか……広いな。」

って、ずっとずっと海の先の方を見て、

そして姫の方にゆっくり視線をお合わせになって、

「この先は…どこまで続いてるんだ? 陸が見えないが…」

って聞くから姫が、

「海には果てがないのよ。」

って以前、お母様から教えてもらったことをそのまま話したら、

「果てがない……?」

義高様はますます目を見開かれて、

「これは…池や湖じゃないのか…?」

って問われて、

今度はそれに姫の方が驚いてしまって、

「え? え? え? これは「海」よ。「池」とも「湖」とも違うわ。水が潮水だもの。」

って答えたら、

もう義高様は、目をこれ以上開けられないってくらい開けて瞳を丸くされて、

「水に塩が……」

そして、また海に目を戻して、

「水が独りでに動いてるぞ…」

って呟かれるから、

姫は何だか、お教えするのが楽しくなって、

「はい。あの水は留まることがないんです。絶えず動いているんです。」

ってニコニコして答えた。

すると義高様は呆けたように言った。

「そうか……海と言うのは、すごいな。」

其処にめいいっぱいの驚きと感動を読み取って、

「はいっ!」

姫は胸を喜びで一杯にして返事をした。

後ろから倖氏さんが、付け加えるみたいに言った、

「木曾には海がありませんからねぇ。」

という声にも、また感じ入ったところがあって、

姫は義高様と、じっと海と空の境を見つめながら思ったのよ。

よかった、って。

来て良かった。

頑張って良かったな、って。

きっと、この日の海と空は消えない。

一生覚えているわ。

そんな、

そんな予感がした。


ちなみに夕刻、家に帰ってみると、やっぱり騒ぎになっていて、

姫はこっ酷く、お父様とお母様に叱られてしまったけど、

義高様が罪に問われることはなくて、

やっぱり倖氏さんの言っていた「ご褒美」は本当だったんだなぁと思った。

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