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箱庭世界のきぃと僕  作者: 越波
第4章 天馬白月国・“病の王“胎動編
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第81話 共同戦線

(‥‥“病の王“と通信?)


『はい‥‥恐らく、としか言えませんが』


 ベルゼの歯切れが悪い。珍しい事もあるもんだ、と思いながら僕はケーブルが繋がった欠片をしげしげと眺めた。


 “病の王“は、魔女(ルイーゼ)さんの所で初めて拠点を浄化しきった時に判明したクエストの名称だったはずだ。


 それと通信可能って事は、やはりクエストの打倒対象として、その名を冠した個が存在するって事か。


(わかりやすいと言えばわかりやすい‥‥けど、通信するメリットってある?)


『はい。通信と並行して探知する事で対象の位置座標が確定します』


 なるほど。事態の早期解決が可能な訳だ。とは言え、一人で決められる話じゃないな。


 僕は怠惰の欠片から視線を外し、誘拐事件の後始末に動き回る面々を見やった。その中には適度に指示を出しつつもこちらを伺い、にこやかに手を振るローズマリーの姿も勿論いる訳だ。


 さて、どう相談したもんかな。






「協力要請、ですか」


 僕の提案に、ローズマリーは珍しく無反応であるように見えた。


『いえ、あれはかなり真剣に考えているのかと。思考にリソースを食いすぎてリアクションが薄いんでしょう』


 なるほど。ベルゼは足一本とは言えローズマリーの体組織を喰っている。あれのお陰で多少なりとも考えが想像出来るのだろう。


 まあ、ともあれ少しは助け船を出しておいた方がいいかもしれない。


「要請と言うか提案、だね。強制するつもりはない。ただ、僕らも正直手が足りてないんだ」


 これは本当。ドミニクら浄化復興庁やその組織力もアテにしたかったんだが、今回の誘拐騒ぎで随分関係が悪化してしまった。


 もしベルゼの言うようにこの“病の王“クエストの最終ターゲットと戦闘が待っているなら、容易い相手ではないはずだ。


 その点、ローズマリーという女は駒として考えるなら戦闘力はかなりのものだ。


(‥‥思う通りに動いてくれれば、だけどね)


 とは言え、こちらの提示する利に乗ってくれればある程度の共闘ぐらいは可能ではないか、と僕は考えている。


「それは先程の魔導具と関係のあるお話、という事でよろしかったかしら?」


「ああ。この魔導具は、“病の王“という大規模クエストに関わる物だった。これでクエストのボスの居場所が掴めそうなんだけどね‥‥」


 僕は一息ついて肩をすくめて見せた。


「で、私に一口賭けに乗らないか、と? なるほど‥‥面白そうですわね」


 よし、興味は持ったな。だがここで焦れば逃げられるばかりか不要な警戒心まで与えてしまう。冷静にならなきゃダメだ。


「で? 協力の条件はどういった形に?」


 来た。ここからが本番だ。


 この取り決め次第で、ローズマリーが協力するかどうかが決まる。


 僕は唾を飲み込み、言葉を選びながら口を開いた。


「大した事じゃない、ボス戦の時に一緒に戦ってほしいってだけさ。別にどちらかの指揮下に入る必要もない」


「それでは連携の取りようもないですわね。ボス戦と言うからにはそれなりの強さなんでしょうが‥‥大丈夫なんですの?」


 これには首を振る。


「ボスがいるって事がわかったのがついさっきだからね。どの程度の強さなのか、取り巻きがいるのかどうか、まだわからない事だらけだ」


 僕がそう言うとローズマリーは嘲りで口元を歪めたが、ふと真顔に戻るとしばらくして今度こそ愉しそうに微笑を浮かべた。


「‥‥なるほど、欲しいのはその調査の為の時間、という事ですのね。この件に噛めば、少なくともその間は私を協力関係者として信用出来る、と」


(‥‥予想外に早くバレたか)


 その通りだ。この女は前回古城前で異端審問騎士団からの異動を(ほの)めかしていたが、元を辿れば学校側を裏切って騎士団に寝返った理由すら不明な奴だ。今度は大丈夫、とは口が裂けても言えやしない。


 だが、システム側が用意したクエストボスが先に待っているなら、少なくともそこで僕らを利用した方が利益になる。


 後はローズマリーの中でこの取り決めを忘れず、皮算用出来ると程度にボス戦報酬と僕らとの共闘価値、協力関係になる上での制約事項をバランスよく天秤に載せてやればいい。


(そういう考えだったんだけど――)


 汗が兜の中をつるりと伝う。騎鎧(キャバルリィ)の中は空調が効いているので、これは緊張からいつの間にかかいた冷や汗か。


 僕の目論見はあっさり看破されてしまった。多少は時間が稼げるかと思ったのに、まさかこの場で見破られるとは。甘い相手と侮ったつもりは毛頭ないが、それでも見積もりを誤ったかもしれない。


 しかし、僕が内心の焦りを隠そうと苦心する一方、ローズマリーは実に機嫌よさげに笑みを浮かべている。


「なるほどなるほど。では、報酬の取り分と連絡の取り決めはどうするか、伺ってもよろしくて?」


 内容がぐっと具体的になったな。その分利害も目に見えやすい。迂闊な事を口にすればローズマリーは即態度を翻しかねない。


「‥‥報酬は、クエストに対する貢献度合いによってシステム側から自動的にpt(ポイント)配分が行われる。連絡は‥‥そうだな。定期的に打ち合わせを行うよ」


「足りませんわね。先輩が仰ってるのは直接的なクエストボスへの戦闘貢献だけが対象でしょう? 例えば、作戦行動の邪魔になる教会関係者や他国組織への調整や根回しも立派な貢献ではないかしら」


 正論だ。


 だが、僕はやり返された事よりも、ローズマリーが建設的な意見を出した事の方に新鮮な驚きを覚えていた。


「そんなに驚かなくてもいいのではなくて? 先輩の提案が一考に値すると判断したまでですわ」


 そう言って微笑みかけるローズマリーはひどく愉しそうだ。どうにもあの紫水晶(アメジスト)の瞳にじっと見つめられると尻の据わりが悪いと言うか、落ち着かない。


 しかし交渉自体は順調に進み、気が付けば自分が考えていたよりも即応性が高く、それぞれの陣営に取ってメリットのある合意内容が形成されていった。


 定期的な打ち合わせは勿論、緊急用の連絡手段として――少々高価だったが――使い捨ての魔道具を僕とローズマリーが一つずつ持つ事になったり。


 次回までにボス情報と、地形や敵陣営と、それぞれの戦闘選抜メンバーの内訳と役割分担などを持ち寄って話し合う事になったり。


 対してローズマリー側は、この戦闘に際して邪魔になりそうな教会・他国組織の情報を調べる事になったり。


「‥‥まあ、今ここで決められるのはこの辺りですかしらね」


「ああ、そうだな‥‥」


 正直な所、こう上手くいくとは思っていなかっただけに想定外の部分を考えるのに頭をフル回転させなければならず、かなり疲れていた。


 交渉を何とか目標地点に着地出来て、気が緩んでいたのかもしれない。


 すっと差し出された手が余りに自然で他意を感じなかったので、僕は合意を喜ぶつもりで握り返そうと手を伸ばした。


 だがローズマリーはそんな僕の手をすり抜けて目と鼻の距離まで密着すると、無言のまま顔を近付け――って、近っ!?


「かっくん!」


 僕の窮地を救ったのはきぃだった。


 即座に僕の膝裏に遠慮呵責のない水面蹴りを放ってくれたお陰でローズマリーとの顔面接触は間一髪回避出来た。


「あら、残念」


「あ痛っ!?」


 しかし当然の帰結として支えを失った僕の後頭部は床板に叩きつけられる。結構いい音がした。騎鎧(キャバルリィ)の兜がなかったら悶絶していたかもしれない。


 逆に言えばあのままでも直接粘膜が接触する事にはならなかったんだし、きぃの蹴りはやり過ぎだったんじゃないかとも思うんだけど。


『‥‥操縦者(マスター)、ここは素直に鍵音嬢に感謝しておくべきかと』


「センパイも脇が甘いデスねー」


 何か女性陣からの評価が散々な事になってる‥‥。


 一方できぃに鋭く睨みつけられながら、ローズマリーはどこ吹く風といった様子で嫣然と微笑んでいる。


「あら怖い。でも、協力体制になった以上は柊先輩は私を邪険には扱えませんものね。仲良くなる分には問題ないでしょう?」


「問題、ある!!」


 きぃが吼えるが、ローズマリーの笑顔に拍車がかかるだけで全く応える様子がない。


 結局奴はスキップでもしそうな浮かれた足取りで退出して行き、僕は涙目できぃに睨まれる事になった。


「‥‥かっくん!」

「センパーイ」

操縦者(マスター)‥‥』


 いや、もう勘弁してよ‥‥。

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