表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
箱庭世界のきぃと僕  作者: 越波
第1章 校内戦編
8/116

第7話 敗北

「‥‥て事があったんだ」


 翌朝、配給の朝ご飯を食べながら僕は昨日の顛末を話して聞かせた。


「そんな事が‥‥」


「かっくん、眠そう」


 まあね。寝る前にある程度方針絞れるように情報まとめたりさてたし。


 クラン黒塚に所属するメリットとデメリットは次のような感じかな、と考えている。


◆メリット:

①外からの攻撃に対する庇護が得られる

 クランランキングの報酬分配がある

②バトルに関して情報交換先・相談先が得られる

 黒塚の看板が使える

③クランからバックアップが得られる(人物金)


◆デメリット:

①クランの方針に拘束を受ける

②きぃのスキルや能力を黒塚たちに公開する必要がある

 黒塚への敵意にきぃ組も晒される

③きぃの能力の稼ぎを分配する必要がある


 この中で僕らに取って重要なのは①と②のそれぞれのメリット、デメリットだろう。


 メリットは生徒会に対して当初考えていた内容より多いから問題ない。


 組織に所属する以上は会費じゃないけど支出があるのも仕方ない。後はバランス次第かな。

 

 一番は、デメリットにある“(一部とは言え)きぃの情報公開“とクランにどれだけ拘束されて自由を奪われるか、が悩みどころだと思う。


「‥‥拘束のされ方と稼いだ時の取り分の取り決めがネックかな‥‥」


 湖沼が唇を親指でなぞりながら考え考え呟く。


 ‥‥何かセクシーだな。とか思ってたらテーブルの下で思い切りきぃに小指を踏まれた。踵で。


「詳細は今日詰める事になってる。取り分からの上納は1-2割ってとこかな。最悪3割までなら譲歩してもいいけど代わりの優遇はもぎ取りたいな」


 基本的にただこの校内でその日を暮らすのに生活費はかからないから、今まで支出を意識する事はなかった。


 だから収入がそのままきぃの資産になっている。これからも需要は減らないだろうから安定した収入ではあるんだけど‥‥黙って搾取されるつもりはない。


「今回のはいいきっかけになったよ。きぃ、湖沼。こっからポイントを定期的に僕らの強化に使おう」


 十分安全マージンは取れた。今後の安全を勝ち取る為にはもっと僕ら自身が強くなる必要がある。


「後は拘束条件かな。迷宮走破(メイズオブサスケ)にはきぃのスキルは適用されないから‥‥対戦格闘のチーム戦への参加オファーなら頻度次第か。1日3戦、週3までぐらいならOKかな?」


「うん‥‥パン屋のバイト、ぐらいなら」


 これは昔近所のパン屋できぃがバイト出来た実績値から考えた。今は更に風呂サービスあるしね。


 大体決まったかな。僕は塩パンの最後の一かけを口に放り込んで、テーブルを立った。


「んじゃ行ってくるよ。条件がこじれたら他を探そう」


 さて‥‥どうなる事やら。黒塚の自信に溢れる表情を思い出しながら、僕は唇を舐めた。




「わかった。俺達はそれで構わない」


 昨日と同じカフェテラスで、話し合った結果を黒塚に告げた後。返ってきたのは拍子抜けするような快諾だった。


「‥‥もう少しふっかけた方が良かったかな?」


「適性な落とし所だから受けただけだ。ムチャな条件ならこっちも叩いてたろうよ」


 言って黒塚は楽しそうに口元を歪ませる。


「じゃあこれで決まりだな。今日からお前等も俺達のクラン“奇兵隊“の仲間だ」


 高杉晋作ですか‥‥と思っていたら「“海援隊“とも悩んだんだけどな。先に取られたし、主旨も利益よりは戦って勝ち抜くのが俺達のクランだからな」と返された。


 海援隊もあるのかよ‥‥。


 そこから先はクランのルールと今週の予定を確認して会談はあっさり終わった。


「柊。お前もわかってると思うがこれからは強くなる事と稼ぐ事の両方が必要になる。どちらか片方じゃ、本戦で絶対に行き詰まる」


 そう言って、黒塚は獰猛に笑った。


「その点、お前は初日から風呂屋なんぞで誰も思いつかなかった奇抜な稼ぎ方を編み出した。実に奇抜だ。奇兵隊の面子に相応しい」


 俺はお前を買ってる。だからお前の目的に俺達を存分に利用しろ、と。


 正直僕は黒塚を舐めていた。


 もっと単細胞で自分の欲のままきぃごと僕らを奴隷のように搾取する奴かと思っていた。


 だけど僕の目の前で犬歯を剥いて嗤うこの巨体は、僕の想像もつかないような事を企んでるのかもしれない。


 ‥‥完敗だ。器の大きさじゃ僕は黒塚には敵わない。


 僕は黒塚の差し出した大きな掌をゆっくり取って握手を交わした。




 これで僕らのチームに起きた危機は何とか回避出来た。


 なんて、愚かしくも僕はこの時、そう思い込んでいた。




「柊!大変なんだ!」


 朝食を取った溜まり場に戻ると、出迎えたのは血相を変えた湖沼だった。


 その向こうではきぃが地べたにへたり込んだまま力無くうなだれている。


「‥‥鍵音くんが、サシの対戦で負けたんだ」


 僕らの前に、新たな脅威が立ちはだかろうとしていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ