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箱庭世界のきぃと僕  作者: 越波
第4章 天馬白月国・“病の王“胎動編
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第74話 藤色の継承者1

◆柊克也◆


 浄化再興庁の長官室を後にした僕らは、魔女のルイーゼさんにだけ事情を説明して町外れの倉庫に戻っていた。


 倉庫中央の卓には地図が広げられ、きぃとリディさんの目撃情報などのメモをピンで幾つも固定している。


「まず、最後に嬢ちゃんとリディが目撃されてンのァ昨日の昼過ぎ。市場の屋台で果物のジュースを買ったって奴だな」


 町の目抜き通りから、少し奥まった細工通りに入る手前の屋台だ。


 残念ながらこの先は小さな店舗は多い物の、屋台や門戸を開いたオープン型の店が少なく、いつ失踪したのか誰も目撃していない。


「ただ、人2人デスよね。さすがに抱えて移動なんてしたら目立ちマスし、荷車か馬車には載せてると思うんデスけど‥‥‥」


『長距離ならばな。短距離‥‥‥建物に連れ込む程度なら、2人いれば1人ずつ抱えるのはそう難しい事ではなかろう』


 加えて、僕は目撃情報のメモから指を離し、地図の離れた位置にまとめられた大きめのメモに移動させる。


「‥‥‥門衛からの聞き込みによれば、昨日から荷馬車の類が町を出た記録はなし」


 ただ、監視カメラがある世界じゃない。あくまで門衛の人の証言だし、僕らに対して強制力がある訳でもないから偽証されたら気付きようもない。


 手持ちの情報だけなら、犯人もきぃも、まだ町の中にいるように思える。


 だが本当にそうなのか? 自分の知らない所で狡猾に町を離脱し、高飛びしようとしているのではないか? そんな疑念の声がひっきりなしに胸の奥に焦りを生み出していた。


 ハクに機馬(マシンホース)を出せるだけ出してもらって、街道に検問を張るべきじゃないのか。


 だが町の中にまだ潜伏しているなら、外に出る事で逆に隙が出来てしまうのではないか――。


 思考が熱を持ち、こめかみに幾筋も汗が伝うのを感じる。


 落ち着けと思えば思う程、鼓動が跳ね上がる。悪循環だ。熱が焦りを誘発し、焦りが思考の空回りを助長する。


「なーんだ。すぐ追い掛けて行くかと思ってたけど、これならもっとゆっくりでも良かったかなー?」


 妙に場違いな、舌っ足らずの高い子供の声に場が固まる。


 上だ。


 全員の視線が倉庫の梁の上に集まる。


「やっと気付いたねぇ。遅いよー?」


 無邪気な声で、しかし油断なくいつでも動き回れるような体勢――剣道の蹲踞(そんきょ)のようだ――で梁に座っていたのは、華奢な体格の少女だった。


 いや、より正しく描写するなら、華奢と呼ばわるのも(はばか)られる程に痩せこけた少女らしき小柄な人影、と言うべきだろう。


 そしてその髪と瞳の色に、僕は見覚えがあった。


「‥‥‥藤色」


 そうだ。


 確かあれは、ローズマリーに襲撃を受けた日に治癒の実験台として連れてこられ、脱走した少女の特徴ではなかったか。


 僕が目に映る色からそんな記憶を思い起こしていると、痩せぎすの少女は耳障りな声で笑い声を挙げた。


「あん時ゃ世話になったね! そういや礼も言ってなかったっけ。あんがとさん! お陰であのクソ狭苦しい穴蔵から出られたよー」


 言って、軽く飛び跳ねると猿のような身のこなしで梁を使って彼女はくるりと宙に弧を描いた。


 音もなく軽やかに倉庫の中央に降り立つと、細長さばかりが目立つ節くれた腕を広げて一礼して見せる。とは言え、ローズマリーのような洗練された淑女の跪礼(カーテシー)ではなく、胸に手を当てる紳士の礼を形だけ真似た不格好な代物だ。テナガザルに芸を披露されたような滑稽さしか感じられなかった。


 即座にハクと紫藤が退路を塞ぐが、目の端でそれを捕らえたまま、藤色の少女は蓮っ葉に顎を上げて挑発的な視線でこちらを睥睨した。


「あたいはヒルダってんだ。ま、今はチンケなシノギでその日暮らしの盗人(シーフ)だよ。よろしくね、おにーさん」


「‥‥‥能書きはいい。僕らに何の用だ」


 少し威圧的に睨みつけても、ヒルダは小揺るぎもしない。ギラギラと光る大きな目は瞬きもせず睨み返してくる。


 だが、ふと彼女は何かを思い出すように発していた気迫を萎ませると、視線を外して頭を乱暴に掻き毟った。


「‥‥‥銀髪のおねーちゃんには、助けてもらったからね。お礼替わりに助けてやってもいいかなって、そー思ったのさ」


「何か知ってるのか?」


 僕の問いに、ヒルダはニヤリと口元を歪めて笑って見せる。


「うん、だって()()()()()()


「「『何だと!!』」」


 挑発的な態度と確信犯的な言動に、僕らの怒りがヒートアップする。


 さすがにこれにはヒルダも怖じ気づいたのか、怯えてたじろいだ。


「ちょ、おにーさんたち怖いってば‥‥‥別に見逃したとかじゃないからね? こんな子供に誘拐犯をどーこー出来る訳ないじゃん?」


「でも、きぃセンパイの攫われた先はわかるんデスよね!?」


 詰め寄ったのがあやのんだからか、今度はヒルダも小狡げな笑みで答えてみせる。


「うん、もちろん。だから‥‥‥取引しようよ、おにーさん?」


「‥‥‥金か?」


 僕が胡乱げに尋ねると、ヒルダは真顔で(かぶり)を振る。


「助けてもらったお礼で、攫われるのを見た馬車は無償で教えるよ。で、今監禁されてる馬車について交渉したいんだ」


 舌っ足らずな高い子供の声で、しかし藤色の瞳に真剣な光りを強く宿してヒルダは続ける。


「こっちが求めたいのは‥‥‥あたい達の保護。あたい達を、助けて欲しいんだ」


「‥‥‥ヒルダ達、って‥‥‥盗人(シーフ)の仲間って事か?」


 僕が確認の為に口にすると、ヒルダは再び(かぶり)を振った。


「おにーさん達に助けて欲しいのは、あたいと同じ髪と目を持つ能力(skill)保有者、“継承者(オーバーライダー)“の仲間なんだよ」


 ヒルダは語り出した。


 “継承者(オーバーライダー)“と、それを取り巻くこの世界の歪な構造について。


 そしてそれは、僕ら鍵屋クランに取って因縁浅からぬ逸話だったのである。

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