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箱庭世界のきぃと僕  作者: 越波
第4章 天馬白月国・“病の王“胎動編
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第73話 捕らわれの鍵音1

◆瀬埜宮鍵音◆


「う‥‥‥」


 モヤモヤした意識が、霧が晴れるように浮上する。


 でも、目が覚めた後も気分は最悪だった。頭が重くてうまく起き上がれない。寝過ぎた後の目覚とは全然違う不自然な重さに、薬物の存在をハッキリ自覚出来た。


「‥‥‥“治れ“」


 集中して指令(コマンドワード)を発すると、変な抵抗があった。手を差し出したら途中でゴムの膜に遮られたみたいな、そんな感じ。


 でも、破けそう。力を込めたら、段々延びて抵抗が弱くなって来る。


「“治れ“‥‥‥!!」


 駄目押しにもう一度唱えると、今度は完全に抵抗が引きちぎれる手応えがあった。と同時に、いつもの癒やしのミストが宙に勢い良く噴き出す。


 ‥‥‥うん、気持ちいい。


 触れてるだけでも涼しいし、さっきの()()()()も、ミストで洗い流されていくのがわかる。


「ああ、やっぱりきぃさんにはそんな封印じゃ役に立たないんですね」


 突然聞こえた声に振り返ると、部屋に女の子が入って来た所だった。


 手に食事の載ったトレイを持っている。余り美味しそうには見えなかったけど、見てたらお腹が小さく鳴った。


「‥‥‥リディ」


 きぃが呟くと、魔女(ルイーゼ)さんの弟子、リディは困ったように微笑みながら「はい」と返事をした。






「どうぞ、食事です」


 差し出されたのは、町でありふれたライ麦のパンとマッシュドポテトにチーズだった。


 ‥‥‥うん、やっぱりウチの家妖精(シルキー)のが料理、上手だな‥‥‥。


 少し残念ではあるけど、食べないのも勿体ない。いただきますをして、ご飯を食べる。


 パンに混じってた小石を噛んだ時は泣きそうになったけど、何とか食べ終えられた。


 リディはそんなご飯を食べるきぃを、部屋の隅に立ってじっと見つめていた。


 わからない。


「‥‥‥きぃを、どうする気?」


 空気が固まる。


 唾を飲む音。やがて口を開いたリディの口元は笑っていたけれども、額にはうっすら汗をかいているのが見えた。


「や、やっぱり‥‥‥わかります、よね」


「屋台で買った、ジュース」


 ピクリとリディの肩が跳ねる。わかりやすい。


 ついでに、動きの止まったリディに近付いて襟首にしていたスカーフを引っ張る。


「あっ!」


「‥‥‥やっぱり」


 そこにあったのは、薄手の革で誂えられた首輪だった。それも、見てるだけでもイヤな感じのする、呪われてる感じのする物。


 多分、奴隷につける奴だ。


「‥‥‥リディ、脅されてる‥‥‥?」


 きぃがそう言うと、少し身を強ばらせた後、リディは泣き笑いのような表情を浮かべた。


 そして、ポロポロと涙を零して俯いてしまう。


 何か言ってくるかと思ったけれどそれ以上反応はなく、暫くして“言えなくされているかもしれない“という可能性にようやく思い至った。


 リディにそれとなく尋ねてみると、これには小さく頷き返される。


 言える事と言えない事があるらしい。


 誰が黒幕なのかは、言えない。


 きぃを傷つけるつもりがない、という問いには「YES」の答え。


 何をさせるつもりか、という問いには「浄化の研究への協力」との答え。


 いつ帰してくれるのかは、言えない。


 かっくん達に連絡させてほしいという希望も、答えられない。


 少しずつ少しずつ、リディから情報を引き出していくのは随分神経をすり減らされた。きぃは喋るのが得意じゃないから、余計に効率は悪かったと思う。


 やがて小さなログハウス風の物置のような部屋の戸が乱暴にノックされ、リディとの対話は中断された。


 凄く怯えていたから、多分あの向こうにいるのが誘拐の首謀者なんだろう。


 リディは急かされるように何度も続くノックに、慌ただしく食器をまとめて部屋を飛び出していった。


 分厚い扉の向こうから、誰かの怒鳴る声と、リディの悲鳴が聞こえてくる。幾つもの器や食器が床に散らばる音。


 知り合いの女の子に暴力が振るわれてる事に苛々した気持ちが沸き上がってくる。


 ‥‥‥自分1人が逃げ出すだけなら簡単だけど、リディが危ない目に遭うのはイヤだ。何か黒幕の奴を捕まえるか、リディも含めて2人で逃げられる作戦を考えなきゃ。


 手持ち無沙汰さにいつも通り召喚カードを触ろうとして、腰にポーチとカードホルダーがないのに気付く。


 それもそうか。いつもあのカードで召喚してたから、自分を攫おうなんて考える犯人なら真っ先に取り上げてしまうだろう。


(わんこがいればなぁ‥‥‥)


 金狼(わんこ)なら、リディを庇いながらこの部屋の扉を破って犯人を捕まえるのに、何の心配もないんだけど。残念ながらあの子は少し前から遠くに出掛けて行ったばかりだ。


 どうすればいいのか――。


 しかし、慣れない頭脳労働と会話の疲れで、きぃはそのまま眠りの中へ吸い込まれて行った。

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