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箱庭世界のきぃと僕  作者: 越波
第4章 天馬白月国・“病の王“胎動編
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第70話 浄化再興庁2

 翌朝、役場に出向いた僕らは早速ドミニクに連れられて、新設されたと言う浄化再興庁とやらの本部に向かっていた。


 見た目は他の建物と大して変わり映えのしない煉瓦造りの2階建ての建物だった。所属を示すような看板も意匠も何もない。


「急遽用意した物ですので、必要な資材や機材があれば仰ってください。ある程度は融通します」


 ドミニクは言いながら扉を開けて中に踏み行っていく。


 外観同様に飾り気のないエントランスは吹き抜けになっており、一階と二階の各部屋へ繋がっている。


「この正面にセノミヤ嬢の肖像画を飾ろうという声もあったのですがね。時期尚早という理由で取り下げておきました」


 きぃが露骨に顔をしかめた。人見知りには性質の悪い嫌がらせにしか感じられないだろうな。


 ドミニクに案内されて着いたのは1階の奥まった一室だった。


「おお、噂の“セイレーン“のお出ましか! 待ちかねたぞ!!」


 乱雑に積み上げられた書物と機材のジャングルの中央で僕らを出迎えたのは、ボサボサの白髪と豊かな髭を蓄えた老人だった。


 しかし、“セイレーン“? 歌で人を惑わすギリシャ神話の魔物だっけか。きぃの徒名だろうけどそんなふうに呼ばれてるのか。


「ん? “セイレーン“だよな? ワシは“セイレーン“が来ると言うからわざわざこんな辺鄙な国まで来たんだぞ。違うのかドミニク?」


 戸惑って答えられないきぃに埒が明かないと踏んだのか、矢継ぎ早にまくし立てる矛先がドミニクに向けられる。


「いえ、間違ってませんよ。その方が浄化再興庁で最初の認定者、セノミヤ嬢です」


「おお、何だやはり“セイレーン“で合っているではないか。焦らせるな!」


 ドミニクの回答に満足した老人が大笑する。彼は何度も一人で頷くと怯えるきぃの肩と背中を骨ばった大きな掌で叩き回した。


 知らない人x大きな声+理不尽なボディランゲージの結果パニックに陥ったきぃが意味不明な悲鳴を挙げながら涙目で僕の背中に逃げ込んで来る。


「早速だが噂に聞いた治癒術のデータを取りたいんで実験をだな‥‥」


 この爺さん周り全く見てないな。大丈夫か?


 僕の懸念以上に敏感に反応したのがドミニクだった。


「ヨゼフさん! 認定治癒者への個人的関与はやめてくださいと申し上げたはずです」


 険しい表情で老人に詰め寄り、束ねられた書類を突き付ける。


「本省庁での治癒に関する研究についても、認定治癒者を関与させる場合は事前に我々監査部へ申請してもらいますからね」


「堅苦しい、いいではないか! 同じ治癒を志す仲間なんだろう? チョチョイとやってくれればだな‥‥」


「認められません。彼女は掛け替えのないこの国の希望なのです! 断じて貴方の研究材料(オモチャ)ではないのですよ!!」


 オモチャって。人の話聞かない爺さんだとは思ってたが‥‥ドミニクがここまで警戒するぐらいだ。研究の為なら人の負担や都合も一切気にしないタイプの偏屈な研究者なのかもしれない。


 老人――ヨゼフはドミニクもきぃも思い通りに動かせないとわかると、あからさまに苛立たしげに真っ白なボサボサ頭を掻き(むし)り、背中を向けた。


 話は終わり、という事なのか。戸惑っているとわざとらしく大きな音を立てながら資料の山を掻き漁り始める。


 無言の拒絶を彼の背中が語っていた。






「お見苦しい所をお見せしました」


 ヨゼフの部屋を出た僕らは、2階のドミニクの部屋に招待され、お茶をもてなされていた。


 きぃは少し落ち着いたものの、まだパニックの恐怖が覚めやらないのか僕の服にしがみついて離れていない。


 ドミニクはそんなきぃの様子を見て、深刻げに眉間の皺を指でさすった。


「彼はあんなですが、錬金術の腕は郷里でも有数でして。今回の省庁の人員募集にも積極的に参画した一人です」


 ただ、とドミニクは言葉を濁した。


「人間性には極めて問題があり、過去にも出身国の研究所や教会と度々揉め事を起こしています」


「‥‥ははあ、昨日仰ってたのはあの方を指しての事でしたか」


 ドミニクにしてはやけに熱心だと思ったが、要はそこまでやらないと危険な人物が既に身内にいたから、と言うのが真相だった訳だ。


 実にドミニクらしい。逆に納得がいった。


 むしろ急に彼が善意に溢れて理想(キレイゴト)を熱弁する方が胡散臭い。


「ですが本当に注意してください。彼はアレでも爵位持ちで、それなりに金も持っています。迂闊に協力するなんて言質を取られたら何をされるかわかりません」


「‥‥前科があると?」


 僕の問いに、ドミニクは渋面を隠そうともせずに密かに頷いた。


「相手が平民だったので罰金を支払って、研究所を排斥されて終わりですがね。正確な情報は伏せられているので定かではありませんが、違法な人体実験を行ったと言われています」


 思った以上だ。偏屈な研究者どころかマッドサインティスト‥‥ならぬマッドアルケミストかよ。


「ですから、絶対にセノミヤさんは一人にならないでください。誰かから治癒の実験や依頼、指示を受けてもその場では返答せずに私に報告してください」


 くどいぐらい繰り返す訳だ。


 つまりこの浄化再興庁、油断すると仲間に食い殺されるお化け屋敷みたいな物って事じゃないか。


 ‥‥どうしてこうなった。


 部屋の中に3人の深い嘆息がこぼれた。

不穏な老マッドアルケミスト、ヨゼフ(=ω=*)


いつもご愛読有り難うございます。

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