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箱庭世界のきぃと僕  作者: 越波
第4章 天馬白月国・“病の王“胎動編
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第69話 浄化再興庁1

「これが岐路の町ですか‥‥」


 馬車から降り立ち、フリッツは感慨深げに目抜き通りの雑踏を見渡した。


 数日ぶりではあるものの、古城の豊かながらも落ち着いた静けさとは随分と違う。


「私も連れて行ってください」


 そうフリッツが告げたのは、例の青年団長フリードリヒの奇襲の翌朝の事だった。


 きぃに諭されて一晩考えた末、まずは現代のこの国の生の様子をその目で見る事が必要だと感じたらしい。その表情にやや物憂い陰は消えきらないものの、果断速決する様はかつての為政者の片鱗を彷彿とさせる。


「ひとまず、僕らはドミニクさんに借りてた馬車を返しに行こうか」


 まあ、十中八九それだけじゃ済まないだろうけど。


 この町の浄化が終わった以上、次の予定も組まなきゃならない。浄化は僕らの目的でもあるが、過密スケジュールや見世物度合いが強すぎるのは少し憂鬱だ。


「では、私はこの町で情報を集めてみます。また、夜に倉庫でお会いしましょう」


 フリッツはと言うとあっさりしたもので、僕らに別れを告げると早々に町中へと姿を消して行った。


「完全に馬車が一緒だったってだけだね‥‥」


「まァ、倉庫で毎晩顔は合わせんだろ。それよりさっさと用事済ませようぜ! 訓練の時間がなくなっちまう!」


 いつの間にこんなに訓練を真面目にやるようになったのか、紫藤が肩を掴みながら役場に僕を急かす。


 わかったから服を引っ張るのは止めて欲しい。生地が伸びてしまう。






「浄化再興庁?」


 役場でドミニクに面会すると、彼は挨拶もそこそこに耳なじみのない名前で僕らを出迎えた。


 相変わらず内心の読みにくい貼り付けたような笑みだが、今日その下には随分緊張を押し隠しているようだ。久々に汗が薄く額に滲んで撫でつけた髪を乱している。


「そうです。我々総督府と教会の合意の元、今後の浄化を新規に創設する省庁にてまとめて執り行う事になりました」


 その言いようを耳にした途端、胸の中に小さな反感が沸き上がるのを感じた。


 僕の表情の変化に、慌ててドミニクが釈明を始める。


「あ、いや誤解しないで頂きたい。この国で閉じられていた治癒の権利を広く解放しよう、というのは我々の行動指針ですから。そこを変えるつもりはありません」


 ただ、と彼は続ける。


「無秩序に門戸を開いてこれ以上に土地の病状を悪化させる訳にはいかないのです。ある程度の実力の有無を選考する必要はあるでしょうね」


「まあ‥‥わからないではないですが」


 僕の若干(いぶか)しげな目に、ドミニクが苦い笑いを浮かべる。


「‥‥空々しく聞こえるのは自覚しています。残念ながら、前教会派が使っていた建て前は間違いではなかった。それだけに筋が通り、誰もが逆らい難かったのですから」


 ドミニクはチラリと僕の隣のきぃに視線をやりながら言葉を繋ぐ。


「セノミヤ嬢にばかり頼る構造は、長くは保たないでしょう。出来れば早々に、第二線でも良いので交替要員は確保したいと考えています」


 確かに。古城に帰る前のきぃはオーバーワークで目が死んでたもんな。交替出来るだけでも有り難い。


「省庁の件はわかりましたが、僕らの扱いはどうなります?」


「ヒイラギさん達には主要な請負先、として随時依頼を出してご協力頂く形を取りたいと考えています。今の形は、セノミヤ嬢に注目が集まり過ぎてしまっていますから」


 ドミニクは再び視線を僕に向けると、熱意を籠めて語り始めた。


「正直な所、味方側の陣営ですらセノミヤ嬢に良からぬ興味を持っている者もいる状態です。省庁内に拘束する意見もあったぐらいで」


 そんな話まで出たのか。思わず不愉快さに顔が歪む。


「平民を便利な備品ぐらいに考えている連中は何処にでもおりまして‥‥前教会の実働部隊から黒の盾剣(デスブリンガー)と呼ばれる方を怒らせるのがどれだけ危険か理解していないのです」


 呟いたドミニクが身震いする。その脳裏にはローズマリーとの戦いでもフラッシュバックしているのだろう。今思えば、ハクに諭されたように無知故にやり過ぎた記憶だけれど。


「指示系統は必ず、私か私の部下を通します。ヒイラギさん、セノミヤさんもそれ以外の方から変な指示を受けたら全て私に回してください」


「全て、ですか?」


「はい、全てです」


 ドミニクは引き締まった表情で断言する。


「面倒かもしれませんが、皆さんを守る為です。今皆さんを馬鹿な権利闘争で失う訳にはいきません。その為なら幾らでも私が防波堤になります」


 驚いた。


 ドミニクは功利主義者で、僕とは利害の繋がりしかないと思っていたんだけど。思った以上に寄せられる期待が篤い。


 彼の目はいつになく真っ直ぐで、熱い情熱と子供のような純粋さに輝いていた。


 これは、騙されたと思って乗ってもいいかもしれない。そう思いながらチラリときぃを見やると、琥珀色の瞳がこちらを見返して一つ頷いた。決まりだね。


「わかりました、ドミニクさんを信じますよ」


「有り難い。それでは今後の浄化のスケジュールと進め方を決めていきましょう」


 差し出された手を取り、固く握手を交わす。


 そして、応接用のソファにて具体的な浄化再興庁でのスケジュールと作業の取り決めが行われた。


 結局この話し合いはかなり事細かに行われ、僕は紫藤に食事を奢る羽目になった。

いつもご愛読有り難うございます。

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