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箱庭世界のきぃと僕  作者: 越波
第1章 校内戦編
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第6話 チャンスはピンチ

投稿を1話すっ飛ばしてました‥‥混乱された方がいらっしゃったら本当に申し訳ないです。

「はーい、並んで並んでー押さないでねー」


 きぃと湖沼に風呂提供サービスの話を持ちかけた翌日の夕方。早くもきぃの風呂バトルロイヤルには行列が出来るようになっていた。


 僕と湖沼は整理券配りとバトルロイヤルの付き添いを交互にやる事にしている。まあ、あのルールがあればきぃに危険はないと思うけど、万が一って事もあるし。個人的には護衛も兼ねてるつもり。


「ハイ、じゃここで98人で区切るよ。柊、後頼むね」


「あいよー」


 僕は湖沼から受け取った行列整理用のベルトパーティション(映画館のチケット売り場とかでジグザグに行列仕切ってるテープ状のアレ)を99人目の前で一度閉じて、そこから1人ずつ整理券を配り始めた。


 この行列整理用のベルトパーティションや整理券は生徒会から借りたものだ。


 昨日は手探りで色々やってみてたんだけど、内容と寮やクラブハウスの風呂と人数が分散出来てみんなの風呂待ち時間が解消出来る!って事で賛成やや多めの多数票で公式に下請け事業的にサポートが得られるようになったのだった。


 賛成やや多め、ってのがミソだね。


 そりゃそうだ。このきぃ風呂にはポイントに余裕のある奴しか入れない。校内戦解禁2日目とは言え、負け越してポイントが心細くなった奴は、生徒会が運営する無料の風呂行列に並んでる。


 ここに並んでるのは、ポイントに余裕があって無料行列が嫌いな中間よりやや勝ち組って所になる。


 きぃ風呂は寮の風呂より広いしコスメも充実してるらしいので(体験した女子たちによると)ポイントを払う価値は十分あるらしい。


 まあ、きぃも安定して稼げるのがわかったので逆にハードルを下げる意味も含めて対戦レートは最低まで下げている。


 普通のバトル1戦が100 ポイントで、きぃ風呂利用は1回10 ポイント。週で1回勝てればその週はずっと風呂に入ってて大丈夫なぐらいのバランスだ。


 きぃ側からするときぃ風呂1回で990ポイント儲かる。初日初見対戦者を追い回した時は40回分通常対戦で儲けたから4,000ポイントの荒稼ぎが出来たにしても、あれはほぼ丸一日かかった上に初日限定の条件つきだった。


 対してきぃ風呂は1時間で1回回せるのでその半分の時間でほぼ同じだけ安定して稼げる。人数的には昨日の利用者もそのぐらいだった。


 ただ、恐らくだけど昨日はみんな突然始めたサービスだったんで知らずにいた生徒もあったと思う。今日、明日と口コミで広がるにつれてやって来る生徒は増えるはずだ。


 何せ美味しい料理と違って風呂は毎日入るのが当たり前のもの。より短い待ち時間で、より快適な風呂を‥‥!と考えるのはごく自然な事だ。


 いやあ、銭の鳴る木ってこんな感じじゃなかろうか。


 笑いが止まりませんな、フハハハハ!!


「ケッ、いいご身分だなモギリ野郎」


 いきなり僕を金勘定から現実に引き戻したのは目つきの悪い短髪日焼け野郎の暴言だった。


 ユニフォーム着てるから長谷部と同じ野球部か。


「毎度どうも。整理券どうぞ」


「テメェの能力じゃねぇだろが。女の力にぶら下がってて恥ずかしくねェのかよ」


「いやぁ、うちのきぃスゴいよね? 感心しちゃうよね。お風呂堪能してってね」


 うん。きぃの風呂能力は予想の斜め上だったけどこうもハマるとは思わなかった。


 やっぱ持ってるよね、きぃは。自慢の幼なじみだよ。


「‥‥ケッ、話にならねぇな」


 悪態をつきながら、興味を失ったように視線を逸らす野球部員。


 こういうのは別に気にならない。だってちゃんとポイント払ってくれる“お客様“だからね。


 僕が許せないのは----。


「あ、柊!柊!もー水くさいじゃん、きーちゃんとこんなの初めてさァ」


 顔を上げると、そこにいたのは顔見知りのクラスメートの男女混合グループだった。


「‥‥や、木下さん」


「ちょっといきなり距離作んないでよー。傷つく~」


 そう言ってケタケタと可愛らしく笑う。あまり下品にならずに明るく雰囲気を盛り上げられるのはこの子の性格なんだろうな。


「いやいや、元々僕はこういう奴だって。今日はみんなでお風呂? 仲良いねー」


「まね。今日はケッコーいい勝負出来てさ、ポイントもヨユーあるかんね!」


 確か、彼女たちが挑戦してるのは対戦格闘じゃなく「迷宮走破(メイズオブサスケ)」の方だ。


 割とスポーツ万能な面子が揃ってるから何とかなっているらしい。いい勝負、と言うのは報酬で儲けが出る程度に難関を突破したって事だろう。


「そりゃスゴいね。疲れたろうしゆっくりしてってね」


「まあ待てよ柊。お前等に話があんだよ」


 木下さんの横から出てきたのは長身マッチョの黒塚だ。190ぐらいあるって聞いたけど、並ばれると威圧感が半端じゃない。


「今じゃなくていい。この風呂サービスが終わったら食堂のカフェテラスに来い。あのちびっちゃいのも連れてな」


 あー、ダメな気配がする。


 この命令口調とか、きぃに“ちびっちゃいの“呼ばわりとか。


「割と今日は忙しいからね。今日は難しいかもしれないよ」


「いいから来い。大事な話だ」


 有無を言わせぬ圧力。ただ、さっきの野球部員みたいなささくれた野蛮さはない。


 やだなー。こういう強引で傲岸な俺様タイプ一番苦手なんだよね。話聞いてくれないしおちょくり甲斐がないし。


「ま、行けたらね」


 返事は聞かずに、僕はその場を去った。残りの行列に整理券を配らなきゃいけないし。


 ただ、ずっと強い視線が後頭部に突き刺さる気配が居心地悪かった。


 その後も友達のよしみで、とチームに入って来ようとする知り合いをやんわり断るシーンは何度かあったけれどもこの視線のせいで大概余裕でスルー出来た。


 痛し痒しって奴かな。ちょっと違うか。




 とっぷり日も暮れて午後9 時。やっと風呂サービスの列は捌け、僕らはひと息ついていた。


 ちょうどいい。んじゃ行きますかね。


「今日はこれで解散かな。湖沼は悪いけどきぃの事頼むね」


「ん?ああ、まあそれは構わないけど‥‥」


 有り難い。僕は湖沼に後を任せて黒塚との待ち合わせの場所に向かった。


 食堂は、今はもう人が疎らだった。初日の混乱以来、こういった校内の設備は生徒会が管理して解放時間以外は施錠されている。


 ちょっと厳重すぎる気もするけど、食料を占有されたり食事の配給場所を独占されるより良い。事実、風呂の方は初日寮生たちが占拠して乱闘にまで至っている訳だし。


 黒塚に指定された食堂併設のカフェテラスは、要は食堂の外に置かれたテーブルと椅子の事だった。


 うわぁ、よく目立つ巨体だこと。


 それにしても黒塚の存在感は凄いな。きぃとはまた別の人目を惹くオーラみたいなものが確かにある。


「来たか。まあ座れ」


「はいはい。ひとりな理由は聞かなくていいんだ?」


 僕が茶化した感じで聞いてみても、黒塚は不敵に口元を歪めるだけだった。


「お前があのお姫さんを大事にしてるのはわかった。話が出来ればそれでいい」


 うっわー、試してたってか。こっちはきぃにバレて機嫌を損なわれないようにハラハラもしたし覚悟も決めて来たってのに。益々黒塚が苦手になった。


「間怠っこしいのはいい。柊、お前等、俺の下に入れ」


 来た。


 まあ、そうだろうと思った。昼に声をかけられて以来ずっとそう来られるだろうとは考えてた。


「チームの上限は5人でしょ。もう満員じゃない?」


「ああ。だから俺が作るのはその上のまとまりだ。クランってのか?ギルドでもいいが」


 確かに、システム上そういう繋がりを組織出来るのは調べた。


 このシステムの中で組織に所属するのには得られるメリットもあるが、デメリットもある、という事も。


「勧誘って考えていいのかな?ならちょっと考える時間がほしいんだけど」


「いや、柊。お前等はすぐにでも俺のクランに入るべきだ」


 隙がない。脇道にズレさせてくれないのは印象通りなんだけど‥‥入るべきだ、ね。


「‥‥()()じゃないんだ」


「あの行列じゃ何としてでもお前を話し合いの場に連れてくる必要があったからな。少し脅させてもらった」


 前言撤回。思ったより話せる奴なのかも。


 僕がそう思ってるのが伝わったのか(僕の目は考えてる事がすぐわかるらしいし)、黒塚は真面目な顔で僕の目を正面から見て口を開いた。


「お前の言う通りこれは勧誘だ。強制する訳じゃない。だが猶予は余りない」


 理由はわかってるだろ?と黒塚は言った。


「生徒会の下部組織にしてもらえないか交渉したんだって?」


 ‥‥調べられてたか。


 そう。僕は時間を作って生徒会の知り合いに話を持ちかけ、風呂サービスとそれを提供する僕らのチームを生徒会下部組織として組み込んでもらえないから頼んでみたのだ。


 結果としては断られた。


 断られたと言うより、生徒会にそんな権限は存在しない、と言う回答だった。


 生徒会は学校の校舎施設を管理し、生徒に衣食住の機能を提供している。そして、対戦義務の免除対象だ。


 競技の審判やスタッフみたいなものだよ、と生徒会の知り合いは言っていた。


 個人の解釈で与えられた権限を行使すると、自動的に権限を剥奪される事が実証済みなのだ。


 別に1生徒としてペナルティーがある訳じゃないけど、生徒会としての免責や権限は一切なくなる。


 だから僕らは生徒会の庇護は受けられなかった。


 そして僕らには、依然生徒会以外の後ろ盾が必要だった。


「昼と同じ事を言うが、今すぐじゃなくていい。俺とお前たちの利益の為に、お前等には俺の作るクランに入るべきだ」


 黒塚の目には強い光が宿っていた。一点の曇りもない、自分の信念を強く持っている奴の目だ。


「‥‥詳しい話を、聞かせてほしい」


 僕の譲歩に、黒塚の強面がニヤリとふてぶてしく笑みの形に綻んだ。


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