第62話 ハクの教練1
「へー、じゃあそのヨロイ‥‥ベルゼちゃんって、ハクさんの親戚? みたいなカンジなんですネ」
翌日の事。
ハクにクランの上位者として振る舞われるのが心底気に食わなかったベルゼは、早々にメンバーみんなに人格がある装備である事をカミングアウトしていた。
と言っても回線越しに話せるのは僕を除けばハクだけなので、取り込んだ端末のモニタとスピーカーを使って騎士手甲から会話出来るようにした形になる。
具体的に言うと手の甲辺りに液晶っぽいパーツが増え、顔文字が表示されるようになった。
『それでも相変わらずあの白いのが上位者なのは腹立たしいのですが‥‥』
ベルゼは手甲液晶に“(=∧=)“と表示している。ご不満らしい。
まあ、ハクはその包容力と人望から自然と人が慕ってるんだよな。ベルゼはまだ彼等からしたら新入りに過ぎないんだから、同じ仲間として見られるまでには時間が必要だろう。
「やたらと独り言やってるから、何かあるンだろォたぁ思ってたけどよ。しかしAI付き専用機とか、主人公感MAXだよな‥‥ズリィ、オレも欲しいっつーの!! あァ、何処かに落ちてねェかなァ‥‥」
ベルゼの話題に一番反応したのは例によって強化装甲----ハク達の世界では騎鎧と言うらしい----好きを標榜する紫藤だった。
『無駄話はその辺にして、訓練再開と行こう』
「ヘいよ」
「あー、ワタシ肉体労働するタイプじゃないんですケド‥‥アイドル志望デスし‥‥」
そういうキャラはきぃがいるからなぁ。
そしてそのきぃはと言えば、少し離れた木陰でチンチラを抱き枕にして昼寝中だ。
ベルゼのカミングアウトで一番ネガティブな反応を示したのが、きぃだった。
特に何も言わなかったけれど、責めるような、寂しそうな目をしていたのが目に焼き付いている。何か言わなくちゃとは思うのだが、何を言えばいいか答えが出て来ないままだ。
『ではまず1人ずつ順番にかかって来たまえ』
「なら、オレから行くぜ」
不敵に笑って、紫藤は盾を構えるハクに向かって駆け出した。
今日のイズナの装備は訓練用に革鎧の上下と、木刀だった。いつもの細剣でないのかと聞くと、最近の戦闘でモンスターや強敵相手に通じなかったのでスタイルを変えるらしい。
イズナは身軽さを生かして回り込みながら足や手首などを斬りつけながら様子を見ているように見えたが、一種動きが止まった所を盾で押されてコロコロと転がされて終わる。
「だあっ! くそ、やられたっ!」
『次、克也。来たまえ』
僕は黙って前に進み出た。身に付けているのは紫藤と同じ革鎧で、手には木製の片手剣と盾を選んだ。
昨日ハクに言われた“戦い方の常識“を学ぶのを意識しての事だったが、まともに剣を振るった経験なんてないからこれで正しいのかどうかの自信はない。
悠然と佇むハクに、盾を構えながらジリジリと距離を詰める。牽制に振った剣は軽く上げた盾にあっさり受け止められた。
気を取り直して角度を変えて打ちかかる。が、これも一歩も動かず盾の移動だけで止められた。
『重量のない武器でこのサイズの盾を叩いても意味はないぞ。盾のない部分を狙いたまえ』
「いや、わかってるん、だけどね‥‥」
回り込もうとしても僕が動くよりハクがその場で向きを変える方が速い。紫藤のように脚で攪乱するのは難しそうだ。
なら、こうか!
僕は回り込んで盾の影から脚を切りつける。当然下げられた盾が割り込んで来るが、その瞬間を狙って左半身で盾ごと体当たりをぶちかます。
『おっと、そう来るか』
流石に盾で受け止めるのは間に合わず、ハクは足を止めて体でこれを迎え撃った。自分の騎鎧を纏っていれば話は違ったのだろうが、身長も体格も勝る全身甲冑ならぬ全身騎鎧のハクが相手だ。衝突して打ち負けるのは自明の理。
だが、わかってるなら心構えが出来る。僕は衝撃で詰まる息を堪えながら、反動で射程距離から離れる寸前に兜に向かって剣を振り下ろす。
入る、と思った瞬間、しかし下から伸びてきたハクの木剣がこれを遮った。
『なるほど考えたな。しかし体重の乗らない剣は軽すぎる。腕だけでなく身体全体を使わないと甲冑を着た相手には通じんぞ』
「ダメかぁ」
普通にやっても入らないと思ったから策を練ったんだけどな。
残念さから嘆息していると、しかしハクは『いや、今のは良かったぞ?』と僕の肩に手を置く。機械仕掛けで全体騎鎧とは思えない優しい仕草だった。
『基本的に克也の本質はその“策を練る“所にあると、私は思う。己の強みと弱みを自覚し、強みを生かす戦法を組む。これは戦い方の“王道“だ』
ハクは強く首肯する。
それは、先日のベルゼとハクの相対の時に口にしていたこの教練の主眼と一致している、という事だ。
失敗したはずなのに、妙に口許が緩んでしまう。
『とは言え‥‥今のままでは折角の策が生かせていないのが課題だな。まずは基本的な剣の振り方や型をしっかり身に付けるのが良かろう』
まあ、そうだろうな。
ベルゼと盾蟹の爪鋏の組み合わせは型や身体の動かし方を知らなくても敵を倒せてしまっていた。
だから今の僕もまた、剣の振り方がわかってない。
そんな風に考えていたのだが。
『全くもって非効率的ですね』
順調に進みそうだったハクと僕のやり取りは、ベルゼが口を挟んだ事でぶち壊しになった。
ベルゼは相変わらず“(=∧=)“の不機嫌顔のままだ。
『特に型の稽古など実戦で何の効果があるのか甚だ疑問です』
「そりゃ‥‥身体の動かし方を身体に記憶させる為じゃないの?」
自分もまだこれからなので確信がある訳じゃないけど。
そう思っていると、ベルゼは可笑しそうにクスクスと笑った。
『決まったパターンに身体を記憶させるだけなら、こういう手もあ りますよ?』
「うっ!? い、いだだだだ!!」
そういうが早いか、頭が鋭い痛みを発する。脳に猛烈な量の情報誌が送り込まれているのだ、と脳裏に様々な剣術の型の映像や文章がフラッシュバックする事で理解は出来たが、痛みが全てを超越して上回った。
何だこれ何だこれ何だこれ!!
痛い痛い痛い!!
『ベルゼ! 貴様何をしている!!』
『別段変わった事は何も。操縦者が基礎訓練などという無駄な行為に時間を割かずに済むよう手助けしているだけで』
『む‥‥これは、能力データのインストールか!? バカな、私や貴様ならともかく克也は生身の人間だぞ!』
驚愕し取り乱すハクをよそにベルゼは涼しい顔。
『本機は操縦者の端末を取り込んでいますからね。端末機能を通してこういった強化も可能なのです』
『‥‥ベルゼ、何度も言うが主である克也の許可を取れ。貴様の独断で克也を振り回すその傍若無人ぶりは我慢ならん』
『‥‥ぐっ』
ハクの声に力が籠もる。それは取りも直さずハクが上位者として指示を出したと言う事だ。その強制力にベルゼが悔しげな声を挙げる。
やがて徐々に流れてくる情報が緩やかになり、頭痛も治まってくる。
『‥‥せっかくデータベースにある全剣術データをインストールして操縦者を当代最高の剣士にして差し上げる予定だったのですが‥‥』
『馬鹿者が。一体どれだけの情報を詰め込むつもりだったのだ』
ハクの強い語調に『100万人×1000年分です』とサラリと答えるベルゼ。何それ怖い。
ちなみに彼女によると既に数%のデータはインストールされてしまったらしい。しかし、当の僕はと言えばベルゼの強制インストールでフラフラだ。
ハクは僕とベルゼを交互に見やると、ふむ、と頷いた。
『では実地で試してみるといい。データだけで何が出来て、何が出来ないのか』
教練、続きます(=ω=*)




