表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
箱庭世界のきぃと僕  作者: 越波
第3章 天馬白月国・ベルゼ編
59/116

第58話 獣達の戦い

 僕が巨漢騎士と戦っている間、白虎と黒豹を相手取って金狼もまた熾烈な戦いを繰り広げていた。


「白雷! 黒風! そのけばけばしい魔獣を血祭りにしなさい!」


 術士風の女騎士が両刃剣の切っ先を差し向けると、距離を測っていた白虎と黒豹が呼応して金狼に襲い掛かる。


 巨体に見合わないしなやかさで白虎が突進し、丸太のような前肢を振り下ろす。白銀の爪が鋭く空を切り、金狼は素早く跳び退った。


 しかし着地と同時に回り込んでいた黒豹が背後から組み付きに掛かり、金狼は更に跳躍せざるを得なくなる。


 虎の剛力と豹の鋭い連撃。互いの隙を補い合う二頭の獣達のコンビネーションは見事なまでに噛み合い、見ていて美しいと感じる程の練度だった。


 さしものの金狼も同格以上の巨体を持つ白虎と黒豹の攻撃を受ける訳にはいかないのか防戦一方だ。


 躱し、下がり、いなし、時には組み合って力を逸らし。三頭の獣達は絡み合う蛇のように体勢を変えながら氾濫した濁流となって部屋中を荒れ狂った。


 だが、その光景は術士の女にとっても予想外だったらしい。信じられない物を見る目で三頭の組み付き合いを見つめている。


「バカな‥‥高が魔獣如きが神獣二柱と互角、だなんて」


 一瞬たじろぎ、ややあって(かぶり)を振ってその考えを否定する。彼女は胸元のポーチから黄色い紙片を抜き出した。指先で挟んだその紙片が淡い光を放つ。


「いえ、術による支援も含めれば、やはりあの魔獣に我らが劣るなど‥‥」


 なるほど。二頭の獣による攻撃と、術者による指揮と支援がこの騎士の本領のようだ。


 なら、こいつを潰すのが金狼への援護になる。


 僕は獣達の取っ組み合いに気を取られている女騎士に背後から近寄り、“鋏“をその喉頸に押し当てた。


「動くな。首を落とすぞ」


「いつの間に‥‥! ノルドは何をやって‥‥」


 言いかけて絶句する。振り向いた先で両腕を失ってくず折れる巨漢騎士の姿を目にしたからだろう。その腕を落としたのが今自分の喉元を挟み込んでいる血塗れの“鋏“だと気付いて、息を呑むのが聞こえる。


「ノルド程の騎士がこうもあっさりやられるなんて‥‥」


「あの獣共を止めてくれ」


 僕は告げると同時に“鋏“を僅かに閉じる。詰め襟の騎士服が裂けて刃に新たな赤色が伝う。


「妙な真似はするなよ。次やったら問答無用で落とす」


 僕の意思が伝わったのだろう。彼女は両手を上げて摘まんでいた紙片から指を放した。


 だがそれで終わりじゃない。


「あの獣共を止めさせろ」


「異端審問騎士が“異端者(heretic)“の脅迫に屈する物ですか」


 口調は冷淡だが、細い首筋はびっしょりと冷や汗に濡れている。


「もう一度言うよ。あの獣共を止めて降伏しろ」


 僕はもう一度“鋏“を狭める。皮膚と肉の切れる痛みに女騎士は顔を歪ませながら不敵に笑って見せた。


「無駄ですよ。白雷と黒風は確かに私の使役獣ですが、独立した個体として現世に受肉しています。私を殺しても怒り狂った彼等に食い殺されるだけですよ」


 そして、と彼女は続けた。


「“異端者(heretic)“の言葉を聞く異端審問騎士はいません‥‥死んでも言う通りになんてしてやるもんか」


「そうか」


 なら面倒な交渉に意味はないな。


 僕は素早く“鋏“を引くとその先端を剣状に戻して女騎士の腕と両脚を突き刺した。


 この“爪“の使い方も大分わかって来た。


「ああっ!!」


 女騎士は痛みに喘いで床に倒れ伏したが、その四肢は剣で刺した程度の傷に収まっている。手加減出来ずに地下道で爆発四散させてしまった時のような事はならなかった。傷付けておいて何だけど、その事に少しだけ安堵する。


 そしてその襟首を左手で引っ掴むと、叫び声を挙げる彼女を引きずりながら地響きを立てて格闘する三頭の元に歩み寄る。


 三頭は相変わらず目まぐるしく入れ替わり立ち替わりを繰り返しながら一つの生き物のように絡み合っていたが、僕と主である女騎士を認めると白虎と黒豹が散開した。


 目の前に立ちはだかった白虎が怒りの為か全身の毛を逆立てながら、咆哮を挙げる。音圧だけでなく迸る殺気も桁違いで、甲冑越しでも全身が痙攣する程だ。


操縦者(マスター)、後ろから来ます!』


(わかってる!)


 黒豹がその隙を突いて背後から僕に飛びかかって来るのをベルゼの警告に従って盾で防ぐ。鋭い爪が盾の表面をガリガリと音を立てて削るが、この程度なら十分受け止められる。


 一瞬引いた盾を思い切り黒豹の顔面に叩きつける勢いでバッシュを打ち込むが、驚く程柔らかな感触で受け止め、距離を取られた。流石猫科と言うべきか。


 盾で死角をカバーしながら二頭がしっかり視野に収まるように下がり、“爪“を鋏状に変化させて女騎士の首を挟み込む。


「お前達のご主人様の命は、この通り僕が握ってる。おかしな動きをしたら即刻首を落とすからな」


 僕の脅しに白虎と黒豹が交互に怒りの咆哮を挙げる。やかましいな。


(うるさ)いぞ、ギャアギャア喚くな。手許が狂うだろ」


 言って、“鋏“の刃を僅かに狭める。女騎士が肌に刃が食い込む痛みで微かに悲鳴を挙げると、白虎と黒豹は怯んだように吠えるのを止めた。


 どうやら話は通じているようだ。流石に人に使われてる使役獣だけはある。


 僕は再び“鋏“を緩め、白虎達に話しかける。


「僕らはこれ以上争いたくない。だから取引だ。お前達のご主人様を返すのと引き換えに、お前達も退いてくれないか」


 手段として使ってるのは脅迫だが、どちらにも利があるんだから取引に違いはない。


 白虎達は唸りながらゆっくりした足取りで部屋の中を徘徊している。じっとしていないせいで、いきなり襲って来たりしないか常に気を張っていなければならない。


「取引する気があるなら、ウロウロするのを止めてあっちの穴の方に座ってくれ。ご主人様を死なせてでも僕らとやり合いたいなら、そのままウロウロしてていい」


 目障りだしこれぐらい言ってもいいだろう。苛立たしげに唸り声が大きくなったが、やがて二頭の獣は踵を返して巨漢騎士の入ってきた天井の穴の下に腰を据えた。


 さて、これで戦闘終了って方に合意は取れたと思いたいけど‥‥小説やドラマだと誘拐犯が捕まるのって身の代金の受け渡しの時が定番なんだよな。


 油断は出来ないし、人質を向こうに渡す手段を考えないと。


操縦者(マスター)、それなら簡単な首枷を生成しますのでそれを使ってください』


 そんな事も出来るの?


 僕がベルゼの提案に驚いていると、楽しげに笑う声が脳裏に響く。


『一度分解して取り込んだ資材を登録された形状に生成するのは一瞬で済みます。このような些事は本機(わたし)にお任せください』


 ベルゼが笑った。


 その事にもう一度驚かされたが、確かに彼女の言う通りストレージから取り出すのと同様のエフェクトを伴って僕の右手に首枷が現れる。


 少しスタイリッシュだが、原理は手錠と似ている。僕は女騎士の腰を膝で抑え込むと、“鋏“を緩めて首枷を代わりにセットした。電子音が鳴り、締め付けは首枷が自動化で行うようだ。


(ベルゼ、これ遠隔操作って出来る?)


『はい、可能です。遠隔操作には解錠モードと斬首モードの二つが用意されています』

 

 約束を違えられた時のペナルティーもバッチリか。ベルゼは優秀だな。優秀過ぎて恐ろしい。僕の心はどれだけ彼女に筒抜けなんだろう。


 首枷を付けた女騎士の鎧の襟首を掴み、白虎に向けて放り投げる。間抜けな悲鳴を挙げながら放物線を描いたそれは、確かに虎にキャッチされた。


(ベルゼ、首枷もう一つ出せる?)


『デモンストレーションですね』


 言うが早いか再び現れた首枷を空の状態でロックし、落ちていた死人の剣を枷の輪の中に通して見せる。


「そのご主人様の首の枷は、お前達が町から出て行ったら外してやる。戻って来たり襲って来たら‥‥」


 小気味の良い音と共に枷の輪が閉じた。切断された剣の先端が静かに床に落ちて澄んだ音を立てる。


 我ながらと言うか、我が鎧の事ながら恐ろしい切れ味だ。切った時の振動とか衝撃が全く感じなかった。


 それの意味する所を十分に理解したのだろう。己の主を咥えた白虎と黒豹は、音もなく天井の穴から姿を消した。


「さぁて、地下道じゃ捕虜作れずに全部潰しちゃったし。ようやく情報源get、かな」


 僕は巨漢騎士に歩み寄り、その首に先程の枷を装着した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ