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箱庭世界のきぃと僕  作者: 越波
第3章 天馬白月国・ベルゼ編
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第49話 岐路の町4

「さて、わざわざこんな所まで来てもらってすみませんね」


 ドミニクは役場の一室に僕を招き入れた。部下らしき背の高い男が背後で戸口を塞ぐのが目に映る。


『この程度なら本機(わたし)操縦者(マスター)ならどうとでもなります。落ち着いて対処しましょう』


 そうだな。ベルゼの言う通りだ。早鐘を打とうとする鼓動を無理矢理深めの呼吸で抑えつけて、僕は奨められたソファに腰掛けた。


 早く肝心の話をしたいという気持ちは逸るばかりだったが、焦りは禁物だと自分に言い聞かせる。


 やがて給仕の女性がトレイにお茶を載せて現れ、ソファに二人分の茶器が出される。


 飲まないと失礼に当たるか‥‥毒は入れられてないと思うけど。薬なんて可能性もあるのか?


 悩んでいても答えは出なかった。ままよと腹を括ってティーカップに手を伸ばす。爽やかな果物の香りのするお茶だったが、不味くはなかった。


 僕がお茶を飲んだのを見計らって、ドミニクはソファ前のテーブルに筒状の金属を静かに置いた。


 覚悟しては来たけど、ビンゴだったか。


「あなた達は町に来られた初日、町長の屋敷に向かわれたそうですね。そこでこの町で何か活動をしたいと仰っていたとか」


 そこからバレてるのか。大した物だと内心拍手を送る。


 彼等自身の情報網があるのか、町長側との連携が密なのか。ちょっと探ってみようか。


「随分早耳ですね。やはり町長のお屋敷からずっと見張られていたんですか?」


「いえいえ。あのお屋敷の警備が厳重なのはいつもの事で」


 私は別件です、とドミニクはあっさり語った。


「あなた達は町長の屋敷で門前払いになった後、大道芸の練り歩きと町の外周工事の日雇いに参加していますね」


 路銀稼ぎと見えなくもないですが、と言葉を切って彼は僕の背後に回った。綺麗に磨かれた石張りの床に靴音のメトロノームが規則正しく鳴り響く。


 息苦しい。完全に取り調べだ。


「そこでこの筒が出て来る。最初報告して来た者は毒物か発破の類かと随分警戒したそうですよ」


 経緯だけ見ればテロ予備軍に見えなくもないのか。まあ、全くそのつもりはないし、むしろやろうとしているのはその逆なんだけど。


 僕の平静さを見て取ったのか、ドミニクは踵を返すと大仰に肩を竦めて見せた。


「何て事のない空の筒だったようですけどね。ただ‥‥昨日の夕方、大道芸の練り歩きがこの近くを通りかかった時、盛大に霧のような物を噴き出した‥‥とか」


 彼の言う通りだ。


 この装置はきぃのミストをより広範囲に効率良く拡散する為の分散装置だ。それそのものには、何の効果もない。


 ただ、そのまま認めてしまうのは危険な気がした。


「さて‥‥何の事でしょうか。僕らも昨日の現場は初めてだったので不手際はあったかもしれませんが」


 すっとぼけてドミニクの様子を見る。


 彼は相変わらず貼り付けたような笑みを微動だにさせない。


「ほう。これの事は何もご存知ない、と」


「ええ、初めて見ました」


 僕が答えると、ドミニクは軽く頷いて見せる。


 そして、僕の背後へと視線をやった。何だ?


「こちらの方はこう仰ってますが‥‥如何ですか?」


 彼は僕の背後の誰かにそう問い掛け、誰かはこう応えた。


「“虚偽(falsehood)“」


 か細いが、意思を感じる断定的な呟き。


 振り向く僕の視界に、白い長衣を纏った小柄な人影が映る。目深に被ったフードで顔は見えないが、随分幼い。


 と言うか、いつ入って来たんだ‥‥!?


『申し訳ありません、操縦者(マスター)。反応に気付けませんでした』


 ベルゼは謝っているが、見落とすのも納得しそうなぐらい存在感が希薄な人物だった。見ている間に、中身が消え失せてローブだけ床に取り残されそうな程に。


「こちらは、星辰教会から来られたシンギカンのアハト様です。アハト様、御足労恐れ入ります」


 言って、ドミニクが一礼する。


 アハトと呼ばれた白ローブの人物はゆっくり室内を横断すると、僕の対面のソファに腰を下ろした。


 フードの隙間から、色素の薄い藤色の宝玉のような瞳がじっとこちらを見つめている。


『微量ですがこのアハトという人物から魔力の流出を計測。常時発動型の感知能力(skill)保有者と推測されます』


 シンギカンと言ってたな。審議‥‥いや、僕の言葉を“虚偽“だと断定してたから、真偽か。


「虚偽を見抜く()()()、と言う事ですか」


「如何にも」


 余裕綽々といった風情でドミニクが胸を張る。アハトは表情一つ変えず、僕から視線を離さないままだ。


 嫌なタイミングの登場だった。ドミニクの準備が周到なのもあったが、切り札を切るタイミングが絶妙に嫌らしい。


 この真偽官の能力(skill)がどれだけの物かはわからないが、この先の発言での嘘はかなりリスクが跳ね上がったのは間違いない。


(もう少しトボけて、治癒能力(skill)の事は黙っていられるかと思ったけど‥‥)


 変に虚偽で逃げ道を塞がれるのもまずい。ある程度は正直に答えるしかないか。


 だが、気になるのはドミニクの思惑だ。真偽官なんて能力(skill)保有者をそうそう呼び出せるとは思えない。そこまでして、現場作業で日銭稼ぎしていた僕に何をさせたいんだ?


 僕の焦りを察してか、ドミニクは殊更笑みを深めて自身もソファに腰を下ろす。


「アハト様の御力についてはこれでおわかりでしょう。()()()()()()()()お話頂ける事を期待しています」


 にこやかに今までの僕の態度に釘を刺しつつ、ドミニクは口を開いた。


「‥‥さて、本題といきましょう」


 どうやらここからが本番らしい。


 僕は唾を飲んで、ドミニクの言葉を待ち受けた。

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