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箱庭世界のきぃと僕  作者: 越波
第3章 天馬白月国・ベルゼ編
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第48話 岐路の町3

 翌日、予定を決めた僕らは二手に分かれていた。


 片方は大道芸組としてきぃと一緒に町の外周を芸をしながら巡り歩き、片方は僕と一緒に行動している。


 具体的に言うと、町の外に巡らされた囲いの修繕を格安で請け負ったのだった。


「何か、悪いね。変な作業に巻き込んじゃって」


 僕が作業片手に視線を横に向けると、背の低いノームの少女がほほえみ返してくれる。


「いえいえ、元々町でお風呂とか噴水を造る事になるとは思ってましたから。モノを作れるなら私たちは楽しんでやりますから、大丈夫ですよ!」


 バンダナで髪をまとめ、オーバーオールに軍手という完全な作業着姿の少女は顔のあちこちに泥をこびりつかせながら向日葵のように明るかった。


 他にも彼女と同族のノーム達がこちらの作業を仕切ってくれているが、どちらかと言えば僕の方がお荷物になっているかもしれない。


 まあ、僕は現場への作業交渉が主な役割だったから、分担的には間違っちゃいないんだけど。


「こっちの内部にミスト機構を組み込んでおこうかなー。ねえ! これの有効圏って何mあるの!?」


 彼女が手にしているのは恒常的に使える浄化装置の試作品だ。後で大道芸をしながら通りかかったきぃが治癒ミストを使う為の噴出孔になるよう作られている。


 段々没頭し始めたのか口調に遠慮がなくなり始めたので後は任せる事にする。餅は餅屋だ。僕はノーム達にこの場を任せて手を動かす事に集中した。






 動きがあったのは次の日の夕方だった。


 前日のように作業場に集まった僕らは、奇妙にざわめく作業員の様子に気付いた。


「おはようございます、何かあったんですか?」


「ああ‥‥ノームちゃん達んトコの坊主か」


 僕が声をかけたのは年配の石工の男性だった。手先が器用で温和な人で、昨日からバンダナのノーム少女を気に入って手を貸してくれていたのだ。


 石工さんは困り顔で特徴的な鷲鼻をしごいた。言い辛い事があるのだろうか。唸っているのは言葉を探しているのだろう。


「俺らにも詳しい事はわからんのだけども、昨日作業した工区の場所にかんさ‥‥かんさつ?ってのが入るって棟梁達が大騒ぎでな」


 監査‥‥監察だろうか? 不正でもあったのか。或いは。


 まさか、という思いが心臓を掴む。


 昨日のノーム少女達のミスト機構が問題になっているのか? いや、それにしたって早過ぎないだろうか。


『警告。操縦者(マスター)、落ち着いてください。体温上昇、心拍数が上がっています』


 ベルゼの冷静な声に、僕は深呼吸する。確かにこれで僕が挙動不審になってしまうのは良くない。横を向くとノーム少女達も心配げに黙りこくっていたので、肩を叩いて微笑んで見せる。


(ベルゼ、頼みがある‥‥)


 僕は、何が何でもポーカーフェイスを貫ぬかなきゃならない。






 案の定と言うか、悪い予感は当たった。


 監察の役員と名乗る男が棟梁達を従えて作業場に現れる。煌びやかなサテンの長衣を纏い、きっちりと髪を油で撫でつけた如何にも役人然とした男だった。


「お騒がせしてすみませんね、私はドミニク。総督府から派遣されて参りました」


 そう言ってドミニクと名乗った監察役は胸に手を当てて軽い礼を取る。


 ニコニコと笑っているようでいて、表情が全く変化しない男だな、という印象だった。人形やCGで精巧に人の顔を造りすぎて陥ると言う“不気味の谷“を人体で体現してしまっているような感じだ。


 彼はゆっくり集まった作業員を見渡すと、僕らの所でピタリと視線を止めた。


「ああ、あなた方が報告にあった臨時作業の方ですね」


 どんな報告かは説明されない。これも思考誘導かな、とだけ考えておく。


「はい、路銀の足しにと思いまして」


「なるほど、確かにこの町は人手が足りていませんからね」


 彼は軽く頷くと、あっさり僕らから視線を外した。


『報告。観察系能力(skill)の対象になっています』


 ベルゼの声に内心で納得する。今のであからさまに安堵したり逃げ隠れするのを別の観察者が見張る、といった構成なのだろう。


 僕には初期に転移して以来、大した能力(skill)は身に付いていない。軽い火炎系が使える程度だ。


 一方でベルゼは隠蔽が凄まじく、外からはただの甲冑に見えている。今は手甲として表示されるぐらいだ。


 ドミニクは棟梁達に昨日作業を行った工区の事を確認している。


「ふむ、いい出来のようです。こちらを担当した方はどなたですか?」


「あ‥‥わ、私です」


 戸惑いながらも、自分の仕事としてバンダナのノーム少女が手を挙げる。


 彼女が名乗り出ると、ドミニクは大仰に手を広げ、殊更明るい声で「やあ!」と驚いた様子を見せた。


「これはこれは、こんな可愛いお嬢さんがあの見事な施工をなさったとは。これは驚いた」


 ドミニクは朗らかに笑いながらノーム少女の前に進み出る。彼女は褒められて嬉しいような照れ臭いような様子で頬を掻いている。


 彼はもう一度頷くと、ノーム少女の肩に手を置こうとして‥‥阻まれる。


「おや、何でしょう?」


「うちのメンバーをお褒め頂いて恐縮です。で‥‥この監察の御用向きは伺いたいですね」


 僕はノーム少女を庇って前に出ると、ドミニクに精一杯の営業スマイルを向けた。


「先程も申し上げた通り、僕らも路銀稼ぎをしなくちゃならないので。仕事がないなら探しに行かなくちゃ」


「ほう、そんなにお困りですか」


「ええ。ですので、もし僕らに出来る仕事があるならご紹介頂きたいぐらいで」


 揉み手せんばかりの僕の出方に、ドミニクは暫し考える様子を見せた。


 そして、ふむ、とひとりごちると彼は至近距離で僕の目を真っ直ぐ覗き込んだ。


 糸のように細かった目の奥に、鋼の光が輝いている。飲まれそうになる圧迫感に、腹筋に力を入れてグッと踏ん張る。


「‥‥()()()()()()()話があります。着いて来てください」


 ドスの利いた低い声で呟き、肩を叩かれる。


 ただの役人にしては分厚い、大きな掌の感触だった。


 背筋を冷たい汗が滴るのがわかった。だが、公衆の面前で暴露しないなら、まだチャンスはあるかもしれない。


 僕はノーム少女達に倉庫に戻るように伝えると、ドミニクの後を追って役場の建物へと向かった。

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