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箱庭世界のきぃと僕  作者: 越波
第3章 天馬白月国・ベルゼ編
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第45話 旅支度

「出来たぞっ!」


 古城の半地下にある工房で、ドワーフ老は歓喜の雄叫びと共に手にしていた物を高々と掲げた。


「これで出先でも鍵音嬢ちゃんの風呂が使えるワケじゃな」


 ドワーフ老が掲げていたのは金属製のカプセルだった。ただ、カプセルはカプセルでも日焼けマシーンのような全身が入るようなサイズの代物だった。よくあんな金属塊を頭の上まで持ち上げられるな。


 紫藤は眉根に皺を寄せたまま胡散臭そうにカプセルを眺め回していた。


「これぶっちゃけ金属の筒だろォ? 肝になンのは“浄化装置“であってガワは関係ねーんじゃね?」


「やかましい(わっぱ)!! 外で使うんじゃから治療が済むまで身体を保護する外殻は必須じゃろうが!?」


 ドワーフ老はお冠みたいだが、確かに紫藤の言う通りこの装置の肝はきぃ謹製の“浄化装置“だった。


 “浄化装置“と言っても、それは金属のカプセルに空いたスリットにカードを差しただけだ。仕組みは何も難しくはない。


 僕はきぃから手渡されたカードに視線を落とす。僕のストレージやきぃのホルダーにも入っている召喚カードと同系統で、少しだけ意匠(デザイン)の異なるカード。


能力(skill)カードか。そりゃ、やっぱあるよね‥‥」


 ハイファンタジー系のRPGで言うなら巻物(スクロール)って感じだろう。込められた能力(skill)を誰でも使用可能な使い捨ての道具だ。


 どうも紫藤がかつてパンキッシュを率いて僕らを襲撃した際に使っていた“武人の誉れ“や、途中で増援を呼んだのもこういった使い捨て能力(skill)だったらしい。


「バカイズナ、あの時仲間呼んだのって瞬間移動的な能力(skill)デスよね? あるなら今すぐ出しやがれデスよ」


 隠すと為にならねぇぞ的なジト目でマイクハンマーを手のひらに打ち付け始めるあやのんに、紫藤は露骨に後ずさる。


「バカはテメェだ。このカードどんだけ高価ェかわかってンのか? 下手な武器の10や20じゃ効かねーぞ」


 大体、と紫藤は僕の影に隠れながらボソボソと呟いた。


「‥‥あン時使ったのは転移系じゃなくタダの“姿眩まし“だっての。転移カードなんか一介の賊クランが買える訳ねェだろが」


 なるほど。確かに自由に転移出来るならそれこそ奇襲・暗殺に使い放題だろうしな。僕は納得いって頷いたが、あやのんは相変わらず胡乱げに紫藤を睨んでいる。


「幾ら高価でも蛮族なんだから盗るとか奪うとか色々手はあったんじゃないデス?」


「オレらが狩れる程度の連中が運良く持ってりゃな。ちっと考えりゃわかるだろーがデカ亜弥。栄養カラダに回しすぎじゃねェか? もちっとアタマの方にー」


 刹那、快音が景気よく工房に響き渡った。


 いいスイングでマイクハンマーを振り抜いたあやのんが、彼方を手で作った目庇し越しに見つめている。やがて小さな固い音が見つめる先の天井から届き、あやのんは片手でグッと小さくガッツポーズを取る。


「右上7番、工房天井にホームラン‥‥っと」


「何しやがるこのクソ女!! また奥歯吹っ飛んだだろが!!」


 今あやのん、どの歯飛ばすか当ててなかった?


 狙って折り飛ばせるようになったんだろうか‥‥。僕は恐怖に二の腕をさすった。


 一方であやのんは胸の下で自分の身体を抱くように組むと、小さく舌を出して「セクハラ!」と(のたま)った。


「そーゆーイミで言ったンじゃねー! 身長だ身長! 大体、そーゆーイミだったとしても歯ァ折るのがセクハラの代価って罰が重すぎだろ‥‥?」


「目には目を、歯には歯をデスよ」


 何処の国のハムラビ法典だ。


 と、僕が心の中で突っ込むと「鍵屋デス」とすかさず追撃が来た。やめろ。ウチのクランをそんな情け容赦のない世紀末でバイオレンスな集団にするんじゃない。


 ちなみに紫藤の折れた歯はきぃによって綺麗に再生されたが、治す時に興味深そうな顔であやのんも一緒に口内を覗き込んでいるのが妙に記憶に残った。


「あ、虫歯みっけ」


「止めろ! オレに近付くな!!」






『申し訳ありません、操縦者(マスター)


 ややあって、あやのんと紫藤のどつき漫才から離れて廊下に出た僕に、ベルゼが語りかけてくる。


(やっぱり、ダメだったか)


『はい、エネルギーは吸収出来ましたが能力(skill)の獲得には至りませんでした』


 僕は脳裏の端末をスクロールさせる。ストレージからは、さっき格納したはずの“浄化“の能力(skill)カードが確かに無くなっていた。


 さっきのやり取りの間に、僕はベルゼに“暴食“で“浄化“を取り込めないか試してもらっていたのだった。


 結果は失敗だったみたいだけど、僕はそんなに落胆していなかった。


 何しろ僕はベルゼの事も“暴食“の事もまだほとんど知らないのだ。色々やって特徴も限界も早く掴む必要がある。


 そういう意味で、チートの極みであるきぃの能力(skill)を一度試しておきたかったのだ。


(まあ、まだまだ古城(ココ)には資材も武具も眠ってる。色々試してみよう)


『はい、操縦者(マスター)


 ベルゼは素直に返事をする。


 さて、次の遠征がうまく行くかどうかは、どれだけ準備出来るかにかかってる。


「‥‥まずは、“浄化“のカードをきぃにまた作ってもらわないとなぁ」


 僕は倉庫に向かいながら、どうやって言い訳するか頭を悩ませた。

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