第42話 キャリーオーバー
投稿ミスで本話の前に1話魔女との交渉話が抜けていました。
未読のかたはそちらを先にお読みください。
混乱させてしまって申し訳ないです。
さて、いよいよ治験だ。
まずは定番のミスト噴霧だ。場所は魔女さんに工房の一角を借りて、大釜から出す形を取っている。
きぃが軽いかけ声をあげると、空の大釜から勢いよくミストが噴き出始める。
元々綺麗に掃除の行き届いた室内ではあったが、目に見えてくすみが取れると言うか、“浄化“されたのだとわかる効果はあった。
魔女さんはゆったりした室内用のローブに肩掛けをした姿のまま、目をまん丸に見開いて硬直していた。
「‥‥えっと、これがあなたの治癒術、なのかしら」
「そう。治癒のミスト。定番」
きぃは胸を張っているが、対称的に魔女さんは額に手を当てて悩んでいるようだった。
「水属性なのかしら‥‥でも水で治癒すると言うより、ただ霧は媒体として使われているだけで治癒そのものとは無関係みたいにも見えるわね‥‥」
専門家からすると、やはりきぃの治癒術は非常識らしい。
まあ、原理はともかくまずは効果だ。
「あの、それで効果はどうでしょう?」
「え? ああ‥‥そうね、喉の痛みと‥‥目が腫れぼったかったのは、治ってるみたいね」
「あ、わたしも治ってます!」
お弟子さんも自覚症状があったらしい。
しかし、聞いているメインの症状はそれではなかったはずだ。
「伺っていたのは、胸の痛みと、腰の痛みでしたよね」
僕が魔女さんに確認すると、彼女は我に返ったように頷いた。
「ええ、少し楽な気もするけど‥‥そちらは治ってないみたいね」
まあ、ミストで全部治せるとは僕らも思ってない。
「じゃあ、第2弾はきぃのお風呂~」
「なので、男性陣はさっさと部屋から出てくださいデスよー」
本当ならここからが本番なんだけど、にこやかな笑顔のあやのんによって僕らは部屋から追い出されたのだった。
一時間ほどして、僕らは呼びに来たお弟子さんの案内で再び工房に戻った。
魔女さんは椅子に腰掛けながら額に手を当てて苦悩するような表情だったが、顔色はさっきとは見違える程に良くなっていた。
「‥‥まさか自分が大釜で煮られる事になるとは思わなかったわ‥‥」
「湯船がないんだから、しょうが、ない」
あの大釜を湯船代わりにしたのか。そりゃ魔女さんも困惑するわ。五右衛門風呂じゃないか。
「でも、効果はあったようですね?」
僕が尋ねると、魔女さんはまだ納得がいかないような風情ながら、肯定の首肯を返してくる。
「あれだけ痛かった胸の痛みも腰の痛みも、綺麗になくなったわ。原理についてはさっぱりわからないけれどね」
そう言ってお手上げのポーズを取る。何だか痛みから開放されたせいか、口数と感情表現が豊かになったみたいだ。
そんな魔女さんにきぃは身を乗り出して大釜を指差す。
「お風呂、作らなきゃ、ダメ。この釜お風呂にしちゃっていいなら、するけど」
「ま、待って待って。その釜は薬の調合に使う物だからやめてちょうだい! それに病気は治ったんじゃないの?」
慌てた様子の魔女さんに、きぃは首を振った。
「今の病気は治ってる。でも、この国全体が病に満ちてるから、また別の病にかかっちゃう。予防しなきゃ、ダメ」
きぃが言ってるのは、昼食の時にミストで僕らを浄化したのと同じ事だ。僕らはきぃがそばにいるからいいが、僕らが帰った後に症状が多少悪化しても浄化出来るようにしたいのだろう。
真剣な様子で詰め寄るきぃに、魔女さんが折れる形で倉庫になっていた部屋を使わせてもらう事になった。
倉庫の荷物を運び出して風呂の設営が終わると、ちょうど日が暮れた所だった。
「まったく‥‥ただ水源を設置するだけならこんなに本格的にやる必要はなかったんじゃないの?」
「ダメ。お風呂に妥協は、許され、ない‥‥!」
魔女さんは病み上がりに翻弄されたせいか、すっかりグロッキーなようだ。一方で身内以外で初の風呂施工となるきぃは端から見ていてもわかる程に絶好調だった。
そんな様子を見ながら夕食の準備を手伝う僕の耳に、制御頭脳のアナウンスが響いた。
『通知。マスターの端末にシステムよりメッセージ。
国家規模試練“病の王“に対して攻略が認められました。
初回攻略の為、未攻略の蓄積年数に応じて経験点ボーナスが支払われます』
一瞬、理解が追いつかずに硬直する。
制御頭脳にログを出してもらおうとして、強化装甲を展開していない事に気付いた。慌ててポケットから端末を取り出す。
システムメッセージのログを手繰って、目当ての通知を見つけ出す。
何度読み返しても表示されている文字の意味は飲み込めなかったが、それに続く数字の意味だけはわかった。
国家規模試練“病の王“
初回攻略ボーナス10,000,000pt
それは、鋼の大蟷螂に換算して30匹強。奇しくも白き月の遺跡で遭遇したあの黒い巨大ミイラの討伐報酬に等しい額だった。
合わせて2千万pt。古城の買い取り額の1億ptまではまだまだ遠いけれども、確実に一歩踏み出したという実感だけは、朧気に僕の中に刻まれたのだった。
書き溜めていた分はこれでラストとなります。
またある程度の区切りがつき次第の更新となります。




