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箱庭世界のきぃと僕  作者: 越波
第3章 天馬白月国・ベルゼ編
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第39話 少年は荒野を駆ける2

◆紫藤イズナ◆


 オレ達は脇目も振らず、見渡す限り砂だらけのクソッタレな荒れ地を走り続けていた。


 視界をチラチラと過ぎるのはバカみたいに派手な色合いの影。どうやらあの女もまだ健在らしい、と頼もしいような苛立たしいような複雑な気分になる。


 これは確実に腹立たしい気分なんだが、あのクソ女の走る速度はオレとタメを張っていた。鬱陶しい媚びだらけの猫を被る余裕もなく全力でスプリントしてるかと思うと少しだけ笑ってやりたい気もするが、残念ながらそんな余裕ブッこいた瞬間後ろでこの地響きを立てている集団にミンチにされるのは間違いない。


「ちょっとアンタ!! 紫メッシュ! クソゴキブリ!!」


 まだしばらくはこのまま逃げ続けられるだろうが、どう考えても数分後にはバテたオレかクソ女のどっちかのスピードが落ちて轢き殺される。


 そうなる前に適当な地形を使って上なり下なりに逃げたいんだが、まだしばらくオレ達にゴールもピットインも認められてないらしい。少し先に断崖みたいな高台があるが、垂直の崖を登れるような技能はオレにもクソ女にもない。


「アタシのハナシ聞いてやがらねーんデスかこのクソ紫!! ドパンクチビ!! クソ紫藤!!」


「うるッせェなデカ錠前デス彩弥サンよ!! テメー余裕か? 余裕ならちっとこの後ろの連中そのバカでけぇマイクハンマーで蹴散らしてくんね?」


 余りに煩いんで思わず反応しちまった。どう考えてもこのクソ女‥‥錠前彩弥の煽りは柊の野郎のと同じ挑発(taunt)が乗ってるとしか思えねえ。


 オレの反応に錠前は素っ頓狂な声を挙げた。


「はァ!? で、デカくないし! フツーだし! アンタがドチビなだけでしょ!! 女の子にデカいとか言うなし!!」


 いい事を聞いた。今度からコイツ煽る時は絶対身長のネタ使ってやる。絶対にだ。


「じゃなくて‥‥このままだとアタシら2人ともヤバくない? 何か‥‥何かないの!? こんなトコで死にたくないデスよ!!」


 甚だ不本意じゃあるが同感だ。走り続けても死ぬのが見えてる以上何か手を打たなきゃならない。


「おいデカ錠前」


「‥‥あやのんデス。じゃなきゃ名前で呼んでください。名字、好きじゃないんで」


 割とナーバスに答えるクソ女。弄るネタとしては、笑えねぇ雰囲気だった。


「‥‥クソ彩弥、これでいいか」


 声にもならないような反応があったので、恐らく頷いたんだろう。見えねーっての。


 オレは構わず続ける。


「いいか、今から5つカウントしたら二手に分かれるぞ。少しでも迷う奴らが出りゃ御の字だ。振り回して数が減った所で各個撃破してくしかねェ」


 異論はないようだ。


「じゃあ行くぞ‥‥5‥‥4‥‥散!!」


 唐突にほぼ直角に進路を変えたオレを、追うかどうか後続が逡巡する気配があった。嘆きだか悲鳴だか判然としない鳴き声が一際大きくなり、大きな物同士がぶつかり合う音と砂だらけの荒れ地を削る擦過音。


 よし、どうやら多少は撒けたみたいだ。


 一瞬だけ振り返ると、スプリントの姿勢のまま信じられない物を見る目で彩弥がこちらを呆然と見ているのが見えた。


 そしてオレの方へ方向転換して追随して来るモンスターの量は目に見えて少なくなっていた。


「今の感じでやりゃ大丈夫だ! 生きてたらまた会おうぜェ!」


 この程度なら後もう一度ぐらいフェイントをかければ“国比べ“の陣取りを使う余裕も出て来るだろう。


 ほくそ笑むオレに、彩弥の「バカメッシュー!!」と叫ぶ泣き声が投げかけられた。しばしの別れだ。運が良ければ、だが。




◆柊克也◆


「‥‥あれ、分かれたのか?」


 僕は敵性集団を物陰で待ち構えながら、不意にマップを見て驚きの声を挙げた。マップ上一塊になっていた集団が二手に(と言うか片方が一方的に)進路を変えて分裂したのだ。


 鋭角にこちらから見て左手に逸れた友軍信号は咄嗟に追随した何割かの後続を引き連れて尚逃走を続けている。


 いや。更にもう一度鋭角にターンする。後続が反応出来ずに追突を起こした所で、青色のアイコンが反転した。


 反撃に打って出たのだ、と思った。この動きからして紫藤だろう。隙をついて“国比べ“でもぶちかましたのかもしれない。


 まあ、紫藤ならあのぐらいの数は何とかするだろう。


 問題はもう片方の未だに大群に追いかけられている友軍信号だ。向こうが紫藤と言う事はこちらはあやのんだろう。


 あやのんもLVが上がり戦闘力は向上したものの、その能力(skill)は物理攻撃力にガン振りしているので足を止めての殴り合いには向いてない。


 可愛い少女の外見に油断した所を巨大鈍器で不意打ち必殺と言う詐欺師紛いのビルドスタイルになっていたはずだ。


 ‥‥今までチームでフォローしていたから何とかなっていたんだが、どう考えても育てる方向が間違っている。今度ちゃんと説教しよう。


 ともあれ、説教するにはあやのんに生き残ってもらう必要がある。


 最早迫る集団の土煙が肉眼でもはっきり見える距離になった。先頭を見事なスプリントスタイルのフォームであやのんが全力疾走している。


 制御頭脳があやのんの顔を認識してサブウィンドウに照合した彼女のパーソナルデータと共に涙目で懸命に走るあやのんの形相を拡大する。余りの必死さが笑いのツボにハマりかけたので僕はサブウィンドウをそっと閉じた。


「制御頭脳、今あの集団の暴走をとめるのに効果的な攻撃方法は?」


『検討中‥‥完了。該当兵装を提示します』


 僕の問いに制御頭脳が効果的な案として提示して来たのは、実に単純極まりない手段だった。


 制御頭脳が僕のストレージへのアクセス許可を求めてくるので、許可を出すと同時に強化装甲(パワードスーツ)の左手甲に確かな重みが加わってくる。


 それは人の背丈よりもやや大きな鉄塊だった。比喩ではなく、形状も単純な角柱と言うか直方体である。その先端に接続された頑丈な鉄鎖が緩やかに弧を描いて左手甲に繋がれている。


 僕は右手で鎖の中程を掴むと、強化装甲(パワードスーツ)のアシストを受けながら巨大な角柱を引き寄せる。先端が引き寄せられた事で角柱が倒れてくるが、その力を利用して横向きに回転する。力を込めると角柱が浮き上がり、ずっしりとした重みが手甲と鎖にかかる。砲丸投げやジャイアントスイングの要領だ。


 段々速度が上がり、遠心力が強まるのに合わせて左手の鎖を握る位置を手甲側にずらす。次第に角柱が空中に描く弧が大きくなっていく。


 回転は更に速度を増し、タイミング見計らって制御頭脳がバイザーモニターにカウントダウンを映し出す。3‥‥2‥‥1‥‥ここだ!


 僕は回転の最後に大きく踏み込みつつ、鎖ごと背負い投げめいた縦向きの軌道で角柱を放り投げた。猛烈な遠心力のかかった角柱はややバランスを崩しながら正面の暴走群に向かって飛んでいき、ある地点を超えた所で眩い噴射光を放ちながら更にもう一段階加速した。


 角柱の加速と共に鎖のロックが解除されて地面に落ちたので自動的にウインチが手甲内に鎖を巻き取って行く。


 一方、青白い噴射光を曳きながら暴走群に突っ込んだ角柱は、着弾と同時に内側から爆ぜた。いや、正確には内部からの爆圧によって敵群に接触した天辺に繋がる四面が超高速で展開したのだ。


 展開した四面は後端程分厚く重量がある形状をしているので、天辺を中心に加速しながらそれぞれ弧を描いて裏返る形になる。


 それはあたかも、敵軍に向かって補食行動を取るクリオネの姿に似ていた。


 鋼鉄のクリオネはその速度と重量を持って敵軍に食らいついた。広げられた四つの腕が真っ直ぐこちらに走り続けていたモンスター達を正面から薙ぎ倒していく。先頭集団が叩き潰され、立ち止まった先頭に後続が次々と押し寄せて玉突き事故の様相を呈し出す。


 荒野に阿鼻叫喚の嵐が吹き荒れた。


 さて、大分片付いたがまだとっさに横合いに逃げた奴らが残っている。掃討戦と行こう。



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