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箱庭世界のきぃと僕  作者: 越波
第3章 天馬白月国・ベルゼ編
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第38話 少年は荒野を駆ける1

 翌朝、家付き樹精(ハウストレント)で一夜を過ごした僕らは再び旅路に就いた。


 今日は調査と言うよりも他の地域を回っているメンバーとの合流が目的だ。隣接エリアの調査にはあやのんと紫藤が向かっているので、今日の帰りがてらの道行きは久々に賑やかになりそうだ。


 ここ数日、きぃ以外の人間と会話らしい会話が出来ていないせいか、合流が酷く待ち遠しかった。思い浮かべるのがあやのんや紫藤とのバカ話なので、会話もだけれども、何より足りないのは“笑える事“なのだろうと思う。




 天馬白月国の季節は、一応四季を持ちながらも緯度が高い為、年間を通して乾燥した低い気温が特徴だ。更にその上で冬が長く厳しい国という事になる。


 今はちょうど初秋にあたり、目に見えて陽の温かさが失われ、冬に向かって風の冷たさが増していく変わり目の中にあった。雪もそろそろ降り出すと聞いて、僕は慌ててきぃに防寒具を用意してもらったぐらいだ。


 家付き樹精(ハウストレント)をカードに送還したきぃがこちらに駆けてくる。突き出された頭をフェルトの帽子ごとぐりぐりと撫でてやると、眠たそうな目が満足げに細められた。


「じゃあ行こうか」


 今度は僕が召喚カードをホルダーから取り出し、光と共にチンチラを呼び出す。まだ朝だからか、チンチラは召喚されたにも関わらず地面の上で丸くなって動かなかった。しょうがないので爪先で優しくマッサージしてやる。


「‥‥ご主人は本当に猫使いが荒いニャー‥‥」


「干し魚やるから働け」


 僕が鞄からエルフ仕込みの干し魚を取り出すと、チンチラは渋々索敵を始めた。わかっていた事ではあるが、周囲に敵対存在はなかった。


 この旅を始めてわかった事だが、この国で野盗や蛮族など、不特定多数を相手取る人間に襲われる事はほとんどない。


 治安がいいからではない。その証拠にモンスターは嬉々として襲ってくる。襲われない日の方が少ないぐらいだ。


 今探知に引っかからなかったのは、昨晩野営する為に選んだのがモンスターも現れないような辺鄙で毒にまみれた土地で、きぃが一時的に浄化したばかりだったから、というのに過ぎない。


 次に野盗がいないのは、単純に国も人も疲弊し過ぎて獲物にありつけないからだ。しかも、たまたま数日運良く獲物にありつけたとしても、噂を聞きつけた例の賦役キャラバンに連行されてしまう。


 奴らは文字通り“人狩り“なのだ。荒れ果てた大地を掘り起こす労働力を探すのに根気と労力は惜しまない。


 事実ブラブラ2人で歩いていた僕たちも、舌なめずりしそうな顔の監督役人に身柄の取り調べを受ける事はしばしばあった。


 結局、砦に古城の賃料を払った際の控えが証文になったが、本来はこれと合わせて滞在手形を発行してもらう必要があるらしい。


 そうそう他の探索チームの連中が捕まっているとは思えないが、無益な争い事を引き起こしている可能性は否定出来ない。自由に動き回る為にも一度合流して手形を行き渡らせる必要があったのだった。






 半日ほど歩いただろうか。不意に仏頂面で前を歩いていたチンチラが立ち止まった。耳が進行方向から少し脇に逸れた荒れ野を向いている。


「‥‥敵か?」


「敵意も混じってるニャ」


 それ以外もいるって事か。僕はストレージからいつもの盾を取り出した。


 鎧や兜はもう使っていない。代わりに左手に嵌まったままの鈍い黒鉄色の手甲を翳し、僕は呟いた。


騎士手甲(ガントレット)駆動(drive)


承認(accept)。モード駆動(drive)に移行します』


 無機質な合成音声が脳裏に響く。と同時に、手甲状態に待機させていた強化装甲(パワードスーツ)が全身を覆う。


 合成音声は暇を見て制御頭脳の設定を弄っていた時に見つけた音声ナビゲーションのものだ。出力先が僕だけになっているので、きぃ達には僕が独り言を言っているように見えるかもしれないが。


 ヘルメット内部に投影された外部映像の上に、補助情報で周辺マップが映し出される。が、この強化装甲(パワードスーツ)のセンサーにはまだ何の姿も映し出されてはいなかった。


 しょうがない。僕は左手を伸ばしてチンチラの頭の上に乗せた。


「ニャ?」


「制御頭脳、コイツの能力を使ってマップに反映出来る?」


『提案検討中‥‥‥‥‥完了。可能です。外部生体モジュールに汎用接続端子で接続を確立します』


 言うが早いか、強化装甲(パワードスーツ)の手甲の、手首に当たる装甲の隙間がスライドして金属製のワイヤーが蛇のようにしなり出て来る。ワイヤーは手を伝うと、チンチラの首筋に滑り降りてその先端を垂直に突き立てた。


「ア“ニ“ャ“ッ!!!」


 チンチラの体が硬直し、全身の毛がブラシのように逆立った。特にアンテナのように直立した尻尾に関しては数倍の太さに膨れ上がったようにも見えた。


『‥‥外部生体モジュールからの拡張センサー情報を確認。バイザーモニターに反映します』


 ややあって、砂時計(インジケーター)のアイコンが消えると同時にマップが数倍遠くまで拡大され、細かな生体反応のアイコンがマップ上にバラ撒かれた。


 中立を示す生体反応の白い○アイコンと、既知の友軍反応を示す青い○アイコン。それに、チンチラが感知した敵意ある生体反応を示す赤い○アイコン。


 そう。今や物理的にチンチラと繋がった僕の強化装甲(パワードスーツ)は、チンチラの感知能力を間接的に使えるようになったと言ってもいい。


「な、何か刺さってるニャ!ご主人!ご主人何かしたかニャ!?」


 ケーブルに咬まれたチンチラがやかましいが、この索敵能力の優秀さだけは認めざるを得ない。


 ‥‥もう喧しくないように能力だけ吸収とか出来ないものだろうか。このケーブルで吸い取るとか何とかで。とか考えていると、良からぬ気配を感じたのかチンチラがジタバタもがき始めたので左手に込めた力を増して大人しく(ぐったり)させる。


 ようやく静かに探知情報に集中出来る。


 マップの中ではこちらに向かって幾つもの生体反応が移動していた。まだ肉眼では見えない距離だが、このまま行けば早々に巻き込まれる進路である。


『接敵予想は300秒後です』


 それなりに間はあるようだ。逃げるなら十分今からでも間に合うだろう。しかし、その選択肢は最初から考慮に入っていない。


 赤いアイコン群の先頭の更に先を、2つの青いアイコンが移動しているのだ。


「きぃ、少し予定より早いけど紫藤達がこっちに向かってるみたいだ」


「‥‥敵、も?」


 僕は頷いた。きぃも戦闘準備としてホルダーから護身用の小竜達を召喚する。舞い散る光のエフェクトと共に猫サイズの三色の小飛竜が呼び出され、思い思いにきぃの頭と肩、手の甲に居場所を定めて羽を休める。


「みんな、今日もよろしく、ね」


 きぃの頼みに三匹が期限良さげに喉を鳴らす。鳴き声は鸚鵡(オウム)や南国の鳥類に近い。爬虫類と鳥類のの両方の特徴を奴らは持っていた。


 ともあれ、奴らの火力は古城の掃討戦で証明済みだ。物量に正面から向き合うような形にさえならなければ敵をしとめるのに不足はないはずだ。


 何しろ、この小飛竜達もハクやフリッツと同じランクの召喚カードなのだ。少なくともハクが苦戦する姿は、僕にはまだ想像もつかない。


 僕は周辺マップから、こちらに向かっている敵性集団を見下ろせる高台にきぃを向かわせる事にした。小竜達が一方的に打ち下ろせる地形だ。高さも軽く3,4階建て程の高さがあるから反撃される心配もないだろう。


 少しだけ心細げに逡巡したきぃも、小竜達に促されて高台へ走り出していく。


 さぁ、僕も出迎えの準備をするとしよう。


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