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箱庭世界のきぃと僕  作者: 越波
第2章 学園クラン“奇兵隊“編
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第28話 白き月の遺跡

「ダンジョンでしたら、ここから東に行った先の森の中に遺跡がありますね」


 フリッツは机の傍らから神殿のような木彫りのオブジェを手に取り、地図上の城の東の森へ置いた。ただ、結構な距離がある。


「かなり森の深い所にあるんだな‥‥日帰りで通うには不便だね」


 僕が顎に手をやって悩む素振りを見せると、フリッツは困ったように笑う。


「私が王だった頃はモンスターの巣窟でもありましたから、余り人里に近い場所に街や村を造る訳にはいかなかったんですよ」


 でも、と今度は小さな砦のオブジェを手に取り、城と遺跡の中程に置く。


「抑えとしてこの場所には砦を建ててありました。これが今も残っているなら‥‥まずはここを拠点にするのが良いでしょうね」


 斥候隊の目的地の一つはこれで決まった。他にもかつて街だった場所やモンスターの巣窟だった場所を偵察する事にして、斥候隊を送り出す。


 程なくして、鼠人の盗賊達が最初に砦跡の発見報告を城へともたらした。


 僕らは久々にダンジョンへアタックする事になった。




 まず発見された砦にノームの修繕団を置いて、僕らは遺跡に足を運ぶ事にした。


「これがこの地方最大のダンジョン‥‥白き月の遺跡(デアパレス)です」


 それは、僕らが校舎の中で挑んでいた穴蔵とは異なる、幻想的な場所だった。


 針葉樹の森を抜けた先に白亜の神殿群が広がっていた。辺りを切り開いて建立されたのだろう。敷地のほぼ全てに石畳が敷かれ、小神殿や彫像があちこちに立ち並んでいる。


 と言うよりも、僕らの眼下から大地がごっそりと堀り抜かれ、そこに大神殿とそれを囲む都市が1つ丸々広がっているのである。


 正に圧巻と言うしかない巨大さだった。


「‥‥やはり、本命はあの大神殿?」


「恐らくは。残念ながら当時の私達は、この遺跡の中程までしか辿り着けなかったので」


 フリッツははにかむように柔らかく苦笑した。


「都市を護る古代の魔法が未だに活きているのです。後から入り込んだモンスターは特に苦になる相手ではないのですが‥‥原生物達は比較にならない程、兇悪です」


 僕はまだフリッツの戦っている姿を見た事がない。


 でもカードのレア度で言えば、フリッツはハクと同格なはずなのだ。老執事と金狼が同格であるように。


 それがここまで警戒する遺跡のモンスターとは、一体どれだけの強さを誇るのか。


 僕は唾を飲んで、「行こう」と皆を誘った。




 見上げる程に巨大な鎌が振り下ろされ、ハクが手にしたタワーシールドでこれを防ぐ。車が正面衝突したような音が響いたが、ハクは見事にこれを受けきった。


 その隙を老執事と金狼が左右から突く。


 それは巨大な機械仕掛けの蟷螂だった。下手すると三階建ての建物ぐらいあるサイズで、高所から振るわれる鋼鉄の鎌は重機のようだ。


 こんなものに襲われたら、確かに普通の騎士や魔術師では太刀打ち出来ないだろう。実際僕がハクの代わりに立っていたとしたら、あの一撃で潰されて終わりだったろう。


 とは言え、金と銀の従者達の牙と拳も並ではない。彼等の一撃は鋼の皮膚を破り、鋼線の筋を裂き、鉄の骨を砕いた。


「‥‥凄まじいですね。あの鋼の大蟷螂ヒュージアイアンティスをこんなに容易く」


「いや、あの3人があれだけ手こずってるのは初めて見たよ」


 老執事も金狼も疲れや恐れは見せていないが、いつもの退屈な運動ではなく、戦いの為の緊張を身にまとっているように見えた。


 僕らは遺跡都市の大通りを進みながら、何度もモンスターの襲撃を受けた。周辺のモンスターであれば僕も参加し、遺跡原生のさっきのような機械仕掛けのモンスターだった場合は主力3人に任せるという編成だ。


『今はまだいいが、挟まれた時が拙いな』


 力になれないのが悔しいが、一朝一夕でどうにかなる物でもないのはわかっている。


 ‥‥今は自分の事より鍵屋全体の力を蓄える事を考えないと。


 やがて道は大神殿へと続く大階段と、複数の使用神殿へ進む為の小径に分かれる広場に行き当たった。


 だが、それよりも最も僕らの目を引いたのは、広場の中心に佇む巨大な物体だった。


「‥‥何だこれ‥‥」


 広場を埋め尽くす程に巨大な何か。俯き胡座坐になって座る人型のように見えるその表面は、風化したボロボロの布のような物で覆われ、あちこちに槍や剣が針山のように突き立てられている。


 不謹慎かもしれないが、遠目に見れば座る姿とサイズは大仏、布を掛けられた姿はマリア像のように見えなくもない。


 一方でよく見ればその膝元に埃まみれになった甲冑の残骸が山のように積み重なっていた。


「‥‥これは、我が家の騎士団の紋章です』


 フリッツが甲冑の山を静かに改めながら呟く。


「‥‥この数は、我が騎士団はここで潰えた、という事なのでしょうね」


 伏せた眼差しが胸に刺さる。僕らはかける言葉もなく彼が甲冑の残骸を優しく触れて回るのを見守るしかなかった。


 そして、フリッツは眼前に聳える山のような人型の頸もとに生えた棒状の物に目を留めた。


「やはり‥‥あれは、“金月の魔槍“。私の愛槍にして、ラインベルク王家に伝わる家宝です」


「‥‥フリッツの槍だったんだ」


 ええ、と彼は頷いた。


「私が疫病でこの世を去る時に息子に託しました。それがここにあると言う事は‥‥」


 彼の息子本人か、その子孫か。その人が槍を携えてここまで騎士団を率い、そして相討ったという事なのだろう。


 しかしフリッツが槍を手にしようと巨大な人型の膝に足を掛けた時、大きな地響きが起きた。何事かと身構える前で腕が、肩が、頭が数百年の時を剥落させて動き出す。


 僕らは咄嗟に広場の外縁まで後退したが、巨大な人型は長い両腕を地面に突き、ゆっくりと起きあがろうと身じろぎしているようだった。


 身じろぎの合間に人型に掛けられた布がめくれ、下に隠されていた人型の地肌が露わになる。


 それは、真っ黒に染まったミイラだった。胡座坐になっていた時は大仏やマリア像を彷彿としていたのを後悔するおぞましい姿だった。

 

 巨大な黒いミイラは手をつき、膝立ちになって広場に残るフリッツに覆い被さるような形で見下ろしていた。


『克也、彼奴の左膝から先がない。どうやらフリッツの子孫と騎士団は確かに武威を示したようだ』


 思うように動けない事に苛立っているのか、黒ミイラは縫い合わされた口から低い軋むような声を挙げた。


 フリッツは黒ミイラの身じろぎで起こる風に長衣をたなびかせながら、強い光を目に宿して黒ミイラの顔と、その喉に突き刺さる槍を見つめていた。


 ハクと、老執事と金狼がその横に並ぶ。


「‥‥助太刀は要るかね」


 老執事が白い手袋をはめ直しながら言う。


 フリッツは苦笑しながら頷いた。


「お願いします。流石に私1人の手には余りますね」


 でも、と片手を挙げて黒ミイラの喉に刺さる槍を指し示す。


「‥‥我が子らと国の仇、取らせてもらうぞ」


 フリッツの宣言に応えるかのように、黒ミイラが天高く咆哮した。

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