第25話 城探しの旅
「フンッ!」
老執事の拳が振るわれた瞬間、黒い動甲冑の一団から成る包囲網が扇状にひしゃげて吹き飛んだ。
直撃を受けた甲冑は中から破裂した風船のように細かな破片になって砕け散っている。どういう殴り方したらあんな風になるのか理解出来ないが、相変わらず見ていて爽快なぐらいの破壊力だ。
砦の麓の村は予想通り黒騎士と動甲冑の駐屯地になっていたが、今まさに僕らの手で制圧されようとしていた。
金色狼が稲妻のように敵陣を食い破り、裂け目を老執事の鉄腕が打ち砕いて傷を広げ、白鷹騎士団が蹂躙する。戦闘と言うよりも地均しのような光景だった。
「あっちはもう終わるな。周辺に反応は?」
僕が語りかけると、傍に佇んでいた二足歩行のチンチラが不細工なしかめ面のまま、片手で顔を洗った。
ふざけているように見えるけれども、これがコイツの特殊能力の発動アクションなのだから仕方ない。
チンチラはしばらくじっと虚空を見つめいたかと思うと、ペロリと鼻をなめた。
「‥‥もう敵意は感じないですニャ。もう帰って良いかですニャ」
「いいよ、帰ってくれ」
僕が認めた途端、チンチラはやれやれと吐息をついて白いエフェクトを残したかと思うや一枚の召喚カードに姿を変えた。
これが、僕の提案だった。
つまりもう遠慮しないという事。
元から余りに僕らは異質過ぎた。周りに合わせようと色々考えて苦しんでいたけれども、スパイはいるわ脅しは来るわで正直もう限界だった。
無理に合わせるからおかしくなるんだ。
僕らだけならヒマタンポポの国から攻められないぐらい離れた拠点を新たに作って領地開拓すればいいんだ。
ある程度素地のある土地なら、きぃの能力で開発出来るのはギルドのダンジョン魔改造で立証済みだ。風呂屋で定期的なpt回収は見込めなくなるけれども、戦力がこれだけ揃ってるなら普通にダンジョンを攻略すればいいだけの話だ。
全力で後顧の憂いを絶って、この遠距離転移を利用して僕らの拠点を造る。
「鍵屋の城を建てよう」
これが僕の提案であり、皆の選択だった。
「さて、ここは片付いたようだが。これからどうするのかね?」
全力全開になった彼等に村一つ分の動甲冑の掃除は本当に準備運動にもならなかったようだ。老執事は物足りなさそうに虚空にシャドーボクシングのような拳を放ちつつ尋ねてきた。一発撃つ毎に雷みたいな轟音と震動が来るので離れてやってほしい。1kmぐらい。
ちなみに金色狼の方はきぃとあやのんの前で寝そべって腹と首筋を撫でられては尻尾をバサバサ振っていた。これも人がよろめく程の風圧が来るので向きを変えて欲しい。
「綺麗に掃除したとは言え、敵の拠点だった所は使いたくないね。何か仕掛けられてても嫌だし。周辺を探索しながら拠点に出来そうな場所を探そうか」
幸いチンチラのレーダーがあれば不案内な土地でも人のいる場所もわかるし敵意の察知も容易だ。
「ンー、せっかくデスし、新居に求める条件は先に決めておきマセンかぁ?」
あやのんが金色の絨毯を優しく撫でさすりながら言う。きぃはいつの間にか金色狼の首もとのフサフサに頭からダイブして上半身が見えなくなっていた。
しかし新拠点の条件か。
「‥‥面倒な国から離れてて、ダンジョンが近くて、まだ人が住んでない所かな」
「川とか池とかなくて大丈夫なんデス?」
「きぃが水源を設置出来るから大丈夫」
実際校舎のダンジョン農場に設置した水源は虚空から滾々と大量の水を湧き出し続け、今も衰える事がない。
しかもその辺りの水より美味く、清潔で、何処にも繋がらないが故に籠城しても水を絶たれない最高のオプション付きだ。使わない理由があるだろうか?いや、ない。
『攻めにくい土地の方が良くはないか?幾ら雑魚を蹴散らすのが苦にならないとは言っても、あちこち走り回るのは面倒だろう』
「まあ、囲まれたりするのは嫌だね」
背後に山か崖でも背負ってれば最高だね。ダンジョンと鉱山が両立してたらまたドワーフ達を呼んで鍛冶工房でもやってもらおうか。
条件も決まり、そうしていよいよ僕らは旅に出た。
周辺を旅して回って気付いたのは、やはり標高が高く気温もかなり低い地域なのだという事と、近隣を統治しているのが天馬白月国だという事だった。
とは言っても獅子太陽国と違って領土が狭い上に高山の峻険と深林に囲まれ、人の住む領域はごく一部の平野や山の裾野に限られた小国というのが実情のようだ。
僕らはそんな情報を立ち寄った村々で交易商の真似事をやりながら小耳に挟んでいた。
森や山に入ると覿面に野生のモンスターに襲われて撃退する羽目になって肉や毛皮が余るので、見つけた村で宿を借りる替わりに格安で振る舞ったのだ。
「冬になると雪で真っ白になるって言ってマシたよっ!」
いや、この環境で雪だと本当に身動き取れなくなるんじゃないかな。
村々を回っていても、余り大規模に農業や酪農をやってる様子がない。こぢんまりと畑を耕したり山羊や羊を飼う程度に見えた。
なので、僕らがもちこむ毛皮や肉は喜んでptに替えてもらえたのだった。どうも農家の人達はお金以上にptの使い道が余りないらしい。
何だか淡々と、強固で静かな忍耐でこのまま何かが終わるのをひたすら待ち続けているような、そんな印象が何処に行っても付きまとう土地だ。
「ちょっと息苦しいデスよね。ワタシなんかあーゆーのみてると歌って踊ってパーッと盛り上げたくなっちゃいマス」
そうすれば、きっとさぞかし喜ばれる事だろう。
そして恐らく、その潤いを糧にまた永い辛抱の時を黙って耐え忍んでいくのではないか。
余り感情を動かさずゆっくり静かに生きる人々。彼らの住む土地を、僕らは新天地を求めて彷徨い歩いた。
そうして一月余りが過ぎた頃だろうか。
僕らは湖と断崖に囲まれた古城にたどり着いた。




