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箱庭世界のきぃと僕  作者: 越波
第2章 学園クラン“奇兵隊“編
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第24話 決断

 紫藤がくず折れる。誰かが叫ぶのが聞こえた。ゴスパンク‥‥小鳥遊さんか。


 真っ白な風が吹き抜けたかと思うと、紫藤の背後から黒騎士が飛び退くのが見えた。ハクだ。


『克也、まずは彼の治療と保護を』


 わかった、と答えようとして舌の根がもつれた。口の中がカラカラになっている。僕は首肯で応えて、紫藤を小鳥遊さんの下へ引き摺って下がる。


「手品師としては三流だったね。手の内が知れればどうという事はない」


『では、私がお相手しよう』


 ハクが長剣で虚空に銀閃を描く。恐ろしい事に黒騎士はサーベルでこれを迎え撃った。速すぎて僕には空中に火花が散ったのと連続して金属の立てる鋭い擦過音が聞こえただけだったが、数度のハクの斬撃を経ても黒騎士は健在だった。


『‥‥出来るな。名のある騎士とお見受けする。我が名はハク。白鷹騎士団の団長にして主の盾である』


木偶(デク)を騎士と認めるつもりはないよ」


 再び剣撃。今度は黒騎士の鋭い踏み込みを危なげなくハクが盾で受ける。


 全体的に力と堅さではハクが勝り、素早さでは黒騎士が勝るといった所だろうか。どちらも決定打に欠けたまま、2人の騎士は剣を交わし激しく撃ち合った。


 だが、やがて黒騎士の剣が音を上げた。


『ぬんっ!』


 膝下を狙って繰り出された黒騎士の剣を、ハクの盾が打ち払うのでなく重量を以て叩き折りにかかる。咄嗟に刃を戻せず、黒騎士のサーベルは鈍い音を立てて地面に叩きつけられ、折れ曲がった。


 それでもサーベルから手を離して飛び退いただけ大した物だろう。


「‥‥このクラスの武器じゃ分が悪いか‥‥まあ、今日の所はこれで諦めよう。‥‥柊」


 黒騎士が僕に向き直る。


 僕の名前を知っている?


 いや、さっきだってそうだった。奴は紫藤の事を“パンキッシュ“と呼んだ。面を下ろしている今の状態で。


 コイツは、誰だ。


「君に言っておく。あの女からは縁を切れ。さもなくば‥‥」


 次の瞬間、黒騎士から凄まじい威圧感が噴き出た。


「ボクがあの女を殺す」


 それが誰を指しているのか。


 言葉ではなく、直感でわかった。


 こいつは、きぃを害する敵だ。


 なら、僕は立ち向かわなきゃならない。なのに、身体は凍てつくばかりでまるで動かす事が叶わなかった。


 息が出来ない。誰かが何か軽い石のような物を小刻みに打ち鳴らす音が聞こえる。


 震えが止まらない。指先1つも持ち上がらず、僕は見えない何かに押し固められて圧死しそうだった。


 そんな時だった。


『大丈夫だ、克也。私がいる』


 ハクが盾を掲げ、緋色のマントを翻して僕の傍らに立ちはだかっていた。盾とマントによって視界が閉ざされた途端、心臓は再び脈を打ち、流れ始めた血潮が徐々に指先まで堅く強ばっていたのを溶かしていくのがわかった。


 不思議な事に、僕はこの時のハクから大きな生き物が放つ強い存在感と暖かさを同時に感じていた。


 やがて、いつの間にか黒騎士は針葉樹の森に姿を消していた。


「‥‥行った、か」


 思わず溜め息が漏れ、全身が脱力した。冷や汗で背中側どころか全身びっしょりだった。


 とは言え、こうしてはいられない。


「‥‥悪いんだけど小鳥遊さん、紫紺騎士団は紫藤を連れて先に戻って欲しい。後、頼みが1つあるんだけど」


 僕は紫藤の傷口に手を当てて治癒を続ける小鳥遊さんの悲痛な横顔を見ながら言った。


「きぃを探して、ここに来るように伝えて欲しい」






 きぃ達が到着するまでしばらく時間が必要だった。


 多分小鳥遊さん達がきぃ達を見つけるのに時間がかかったんだろう。


 陽も暮れかかって寒さをどうしようか悩み始めた頃、砦の中が明るくなったかと思うと2つの影が飛び出してきた。執事の爺さんと、金色の狼に乗ったきぃとあやのんだった。


 一瞬、あやのんについては危ないから戻そうかという考えが頭を過ぎったが、止めた。


 どういう訳だかあの金色狼はあやのんを認めてある程度の庇護を買ってくれているようだった。きぃが何かお願いしたのかもしれないし、純粋に金色狼の独断かもしれない。


 だがどちらにしても、こいつは現状鍵屋最高戦力に守られているのは間違いない。それなら下手に一人きりになるかもしれない校舎に戻るより安全だろう。


「‥‥かっくん、来たよ」


「悪い。わざわざ来てもらって。現状を説明するよ」


 僕は集まってもらった皆にこれまでの事を説明した。

獅子太陽国の事や周辺の拠点の事。三枝さんの裏切りや黒騎士達の事。紫紺騎士団と転移魔法陣でこの砦まで黒騎士の後を追った事。黒騎士の1人に紫藤が刺された事。


 聞き終わった皆の反応は、余りなかった。


「‥‥驚かないのか?」


「驚いて、るよ?」


 そうなの?まるで無反応に見えるんだけど。どう考えても爺さんと金色狼は興味なさそうだし。


「まあやっぱりきぃセンパイにはこのあやのんが相応しかったって事デスね!」


 あやのんは通常運転だな。うん、知ってた。


 何だかこうしてると頭を悩ませていた色んな事が悪い夢みたいだ。鍵之湯でみんなを驚かせながら笑顔を振りまいて荒稼ぎしていた時のままで。


 ‥‥やっぱり、僕らはこうでないとね。


 僕は軽く頬をたたいて、皆に向き直った。


「聞いて欲しい事があるんだ」


 僕は、僕の決めた事を皆に告げた。

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