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箱庭世界のきぃと僕  作者: 越波
第2章 学園クラン“奇兵隊“編
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第23話 騎士、また騎士

 僕が覚悟した痛みは、やって来なかった。


「オイ、クソ柊。いつまでボサッとしてやがる」


 咄嗟に目を瞑っていたらしい。僕にかけられた声に、ようやく目を開く。


 そこには僕の想像を超えた光景が広がっていた。


『克也、無事か』


 昼なお暗いこの森にあって、一際美しい真珠色の全身甲冑。ハクだ。彼は静かに剣を抜き放った姿勢で、敵方の隊長格の黒騎士に向き直っていた。


 足下には一太刀で切り捨てたのだろう黒騎士が倒れている。


「こっちもいンだから感謝しやがれよ?」


 近くから聞こえて振り向くと、小柄な騎士が細剣を肩当てにパシパシと当てながら横柄な態度で進み出てくる。


 ハクや黒騎士のような重装備ではなく鎖帷子にサーコート姿だったが、頭だけフルフェイスの兜をしているので若干違和感があった。


「‥‥紫藤?」


「‥‥今は紫紺騎士団長サマだ、ヨロシク頼むぜクソ柊」


 よく見ると同じ意匠のサーコートを着た紫紺騎士達の中に見覚えのあるゴスパンク少女がいた。


 あれだ。パンキッシュ戦であやのんに顔面ヒットされて前歯を折られた紫藤の治療をしてた子だ。


 って事は正式にパンキッシュはウチの部隊として動き始めてるのか。黒塚の奴何の連絡もなく‥‥とは思うものの、助かった。パンキッシュの人員は現在この拠点で最も練度の高いプレイヤー集団だ。こういう不測の事態には心底頼もしい。


『克也はそこで待機だ。まずは治療を受けていろ』


「あァ、邪魔だ邪魔。ついでにココぁオレ達のお披露目とさせてくれや白の旦那よォ!」


『‥‥断る』


 言いながら紫藤とハクが交差して敵陣に突っ込む。黒騎士のリーダーは鎖を使わずに長剣を抜いてハクに応戦していた。


 いや、違った。


 ハクに向けて翳された右手の手甲から鎖分銅が射出され、ハクの輝く長剣に両断される。数度の斬り合いの中でそんなやり取りが繰り返された。


 あの手甲のギミックだったのか。ちょっと面白い。


 一方で紫藤は水を得た魚のように配下の黒騎士達の間を飛び回っていた。黒いゴテゴテしたゴシック調の細工がされた細剣で騎士達の足や腕を切りつけては軽いステップで相手を攪乱している。


 一見決定打に欠けるように見えたが、僕は奴の脚が光る軌跡を残しているのを見ていた。


 軌跡が一周して、黒騎士を囲む。


「あばよ」


 途端、足下から紫色の光の柱が立ち上り、呑み込まれた黒騎士が塵となって消える。


 ‥‥あれ、塵の方はシステムエフェクトじゃないんだけど。あの黒騎士は復活出来なそうな気がする。


 て言うか校内戦とは言えアレを食らいかけてたのか。ちょっとゾワッとした。


「隊長なら数人相手でも大丈夫です。まずは傷を治しますね‥‥」


 ゴスパンク少女が小声で呟きながら僕に治癒魔法をかける。鎧の上からとは言えダメージはあったらしい。鈍い痛みが取れていく。


「今の内に状況教えてくれるかな‥‥ええと」


「あ、はい。小鳥遊(たかなし)そまりです。治癒士をやらせて頂いてます」


 小鳥遊さんはそう言って治癒魔法をかけながら律儀に頭を下げた。前髪が目を隠してしまってるので表情はよくわからないが、やや緊張はしているらしい。


「まず、何でハクと紫藤が一緒に?」


「ああ、ええと‥‥最初に柊さんを探していたのはハク団長なんです。で、私達は別件で柊さんが危ないって意見になって、それで」


 まあ、ハクはきぃ経由で僕の居場所や公開ステータスがわかるらしいから、助けに来てくれてもおかしくない。


「でも、僕が危ないって‥‥どんな話からそんな事に?」


「他にもスパイが見つかったんです。それも複数」


 三枝さんだけじゃなかったのか。


 聞いてみるとスパイとして捕まったのは見覚えのない外の人間の他、pt枯渇で煮詰まった幾人かの生徒達が外部の人間に雇われてアルバイト感覚で情報や物を持ち出そうとして見つかったらしい。


 ‥‥籠城の準備は整えてたけどスパイは考えてなかったな。それもこんなにポコポコ出て来るなんて。


 でもさっきの話だと三枝さんは該当しなくなってしまう。彼女は正規のチームメンバーだからあやのんより給与はしっかり出している。正直無駄遣いしなければ相当余裕があるはずだ。


 となると、別の理由か。思想的なものなのか、怨恨なのか、もっとptが欲しかったのか。全然想像もつかない。


 戦いは紫藤とハクが優勢だった。紫藤は軽快に相手を翻弄しながら隙あらば“国比べ“で相手を塵に変えつつ鎧の隙間から傷を負わせている。


 そしてハクは文字通り黒騎士を圧倒していた。


『ぬんっ!』


 気合いと共に突き出された盾が一回り体格に優れる黒騎士を正面から打ち据え、吹き飛ばした。木に背中を打ち付けて体勢を崩した黒騎士の右手を銀光一閃、ハクの長剣が切り落とす。


 断面から血は出なかった。


 と言うよりも。


『‥‥伽藍洞‥‥“動甲冑(リビングアーマー)“か。面妖な』


 いや、お前が言うな。


 まあ、ハクの中は絡繰り仕掛けだから厳密には同じじゃないかもしれないが。


 ともあれ、形勢は決まったようだ。僕はパンキッシュ‥‥改め紫紺騎士達に囲まれながら、ハクが剣を突き立てて動きを止めた黒騎士の甲冑の下に歩み寄った。


『‥‥大事ないか、克也』


「お陰様で。ハクに教練受けてなかったら死んでたよ」


 ハクにダメージは全くなかった。相変わらずデタラメな強さだ。


「一匹捕まえといたぜ」


 見ると、紫藤も戦いを終えて配下の紫紺騎士に黒騎士を捕獲させていた。


 何とかなったか。しかし紫紺騎士をダンジョン警護と人足で配置しておいて良かった。僕の場合はハクが来てくれたけど、もし春日達が襲われていたら、と考えると恐ろしい。


「‥‥気付いてないだけで拉致とか起きてないよね‥‥」


 春日に言って点呼取らせるか。


 次はこの黒騎士達が何処から入ってきたか、だ。







 僕らが黒騎士の捕虜から聞き出したのは、更に森の奥に侵入口がある、という情報だった。


「しっかしクソ柊、オマエらしくもねェな。戦闘力ゼロな指揮官サマなんだから護衛ぐらいつけてろっつーんだよ」


「面目ない」


 紫藤は僕とは逆に面目が立って機嫌が良さそうだ。まあ、助けられたのは本当の事なので黙っておく。


 にしてもダンジョンから侵入されてたとは。穴でも空けられているのかという僕の予想は覆された。


 少し開けた木々の隙間に、それは刻まれていた。


『‥‥転移魔法陣だな』


 ハクが地面に刻まれた幾何学模様を調べながら呟く。


『まだ活きているようだ』


「まあ、スパイがあんだけいりゃ細工もカンタンか」


 どうする?とハクと紫藤は僕を振り返った。


「‥‥行ってみよう。もうちょっと情報が欲しい」


 僕らは魔法陣の先に進む事にした。







 転移の魔法陣を抜けた先は、山あいの高台に建てられた小さな砦だった。


 大きさは大した事のない物だったが、随分と歴史を感じさせる佇まいだった。あちこちに常駐の兵士が使っているのだろう炊事の跡や寝具が散見出来た。


 探索中に何体か伽藍洞の動甲冑(リビングアーマー)がいたので破壊し、僕らは砦を制圧した。生きた人間の姿は今はないようだった。


「かなり転移してるみてーだな。地形がウチの拠点やアンタらの学校とは全然違ぇ。もっと標高の高い地域みてーだ」


 紫藤が砦の屋上から周囲を眺めて呟く。確かに空気も冷たく、少し薄く感じる。周りの植生も背の低い針葉樹が疎らに生えていて、あのダンジョンの森とは随分雰囲気が違う。


 砦からは少し離れた場所に村落らしきものが見えた。これだけの近さで全く無関係とも思えないので、僕らは村落に向かってみる事にした。


 だが、砦から村落に向かう峠道に差し掛かった辺りで、ハクが僕らを制した。


『‥‥集団が近づいて来る。規模は小隊程度だが、あの物音は全身甲冑だな』


「騎士また騎士ってか。ま、こっちも体裁だけは騎士ばっかだけどよ。安売りにも程があるぜ」


 紫藤は可笑しそうに嘯いて面を下ろした。まあ、まだしばらくパンキッシュの頭領の顔は晒さない方がいい。


「砦に戻る手もあるけど、まずは待ち伏せで行こう」


「そりゃやり過ごすって意味で?」


「いや、側背から奇襲しよう。援軍を呼ばれると面倒だし」


 砦の中を見られたら動く甲冑の残骸で侵入はバレる。


 僕らは坂を登りきる手前の茂みに隠れて待ち伏せた。咄嗟に砦に逃げるには距離があるし、隊列も狭いので縦に延びるだろう、といえ考えで。


 やがて息を潜める僕達の前に、金属製の甲冑一式が立てる賑やかな物音が近付いて来る。視界が狭く全体が見渡せないが、10人弱はいるんじゃないだろうか。


 最初に襲いかかったのは紫藤だった。


 声も発さず細剣で手当たり次第に装甲の薄い関節や首元を突く、突く、突く。


『白鷹騎士団よ、勲を立てよ!』


 ハクのときの声に応えて何もない空間から何体もの白銀の甲冑騎士が飛び出してくる。彼等は凄まじい雄叫びを挙げながら黒騎士達に突進した。


 まるで信号を無視したトレーラーが起こす衝突事故の瞬間のような光景だった。中身の入った物も伽藍洞な物も等しく白鷹騎士団によって跳ね飛ばされる。


 一瞬にして黒騎士達の戦列は瓦解した。


 だがたった1人、生き残った姿があった。


「こんな僻地に敵襲とは恐れ入る‥‥だが惜しかったね、その程度でやられるボクではないよ」


 言いながら手にしたサーベルで紫藤の細剣の連撃を迎え撃つ。どちらも細身の刀身だが、やや腕力はあちらに歩があるようだった。紫藤が次第に押され始める。


「お‥‥このッ、やるじゃねェか‥‥ッ」


 押されながらも体を入れ替え、紫藤と黒騎士の一騎打ちは華麗な決闘の様子を呈していた。


 だが、それはフェイクだ。


 僕は紫藤の残した蹴り脚が徐々に黒騎士を囲んでいるのがハッキリわかった。


 剣の腕は紫藤の表面的な強さに過ぎない。“国比べ“で与えるダメージは相手の甲冑を無視して与えられるのだから。


 紫藤も相手が術中にはまった事を確信したのだろう。


 押し負ける振りをして円を描ききった。


「あばよ黒騎士!!」


 描かれた円環が激しい紫色の光を発し、中に閉じ込められた物を塵芥に変える。


「やれやれ。なかなか歯応えのある奴もいるみてェだな。オレも何か鎧通しみてーな武器用意した方がいいかね?」


 紫藤は面を上げると、ゴシック調の細工がされた細剣を鞘に納めながら呟いた。


 確かに相手に甲冑騎士が多いなら細剣では厳しいだろう。


「クロスボウでも用意した方が‥‥」


 僕の言葉は言い切られなかった。


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 紫藤の肩口から、サーベルの切っ先がズルリと生えたのだ。

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