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箱庭世界のきぃと僕  作者: 越波
第2章 学園クラン“奇兵隊“編
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第22話 油断

 ハクの命名から数日が過ぎ、僕らは奇兵隊の詰め所に集まっていた。


 鳶長さんと木下さんが帰ってきたのだ。


 数日の旅塵も落とさずの報告ではあったけれども、それぞれの疲労を考えるとこの後はゆっくり休んでもらう事になる。緊張の糸が切れる前に報告してもらう必要があった。


「疲れてる所スマンが、もう一息頼む」


 黒塚の言葉に、斥候メンバ達は無言で頷いた。


 まず、この学校は小高い丘の上に建っていて、近くにも森や小川が流れている他は村や民家もないらしい。環境的には攻めやすい土地と言える。


 一番近い人の住処が2日歩いたパンキッシュ配下の村で、ここには既に首魁の紫藤が僕らに敗北し捕らわれた事が伝わっていた。残党が逃げ込んでいたのだ。


 鳶長さんは慌てて逃げようとする残党を取り押さえ、僕らと紫藤が密かに手を組む事について穏やかに話し合いで解決した。(鳶長さんの談だけど)


 そこから、彼の情報を元に周辺の探索を進め、近隣にここと同じようなビルやコンクリートの建物群を発見した。


「例の騎士団領までの方がずっと遠いでござるな。よくもまあ、あれだけの距離を来たものでござるよ」


 それぞれの転移拠点は思った通り現代地球からの転移者達と共にこちらに来たもので、今もなお彼等の拠点として運用され続けていた。


 中には鳶長さんな木下さんですら気取られて拠点の遥か手前で斥候伝手に責任者と面通しとなった所もあるらしい。


「あれはちょっと厳しいかなー。防塁に空堀、見張り台まで完備。何よりキツいのが感知系の能力(skill)持ちが多すぎるのがねー」


 何と長弓と感知系能力(skill)持ちの遠距離スナイパーを多数用意して厳重な警備網を構築しているらしい。騎馬や重装歩兵の脚を止め、弓矢で削る方針か。ウチも出来れば外の敷地でこのぐらいやりたいんだよなぁ。


 とは言え、彼等とも一応の和解は出来た。パンキッシュに襲われた新しい転移拠点のメンバーだと説明すると「ああ、あの」みたいな同情をされたらしい。


「また挨拶と今後の協力の取り決めをしに出向かなきゃいけないけどねー」


 とは言うものの感触は悪くなかったとか。他の拠点も似たようなもので、よその拠点を攻撃して領地を増やそうなどと考えた不埒者はパンキッシュの連中ぐらいだったらしい。


「“ヒマタンポポ“の方はどうだったんだ?」


 と黒塚が話を振ると、別の斥候メンバーから答えが返ってきた。


 ちなみにヒマタンポポとはヒマワリとタンポポの英名をかけた獅子太陽国のあだ名だ。他にもヒマデライオンとか適当に暗喩されている。


 曰わく、壮麗な造りの何層かに分かれた立派な街だったと。城壁に囲まれ、ひっきりなしに馬車や商人たちが門を往き来し、貴族街と王城は勇壮な騎士団に護られていた。


「典型的なファンタジーの王都って奴か。繁盛はしているようだし動員出来る兵の数が気になる所だな」


 ちなみにこれもある程度は街の噂で目安があるらしい。


 それによると貴族子弟からなる騎士団は1,000人。兵団は30,000人からの兵力を持っているらしい。


「サバ読んでるにせよ、1クランがまともに相手取れる規模じゃないな。鍵屋の秘密兵器もあくまでも私兵レベルだからな」


 ふと脳裏に熊執事の爺さんと金色狼が万の大軍を前に嬉々として無双する姿が浮かんだが、僕は慌てて危険な妄想を振り払った。ファンタジー過ぎる。


「となると、やはり全面敵対は避けたいな。交渉の勝敗ラインだけは決めておくか」


「配下には入るし仕事は請け負うけど、人事は不干渉~ってのはダメなの?」


「それは国民主権の考え方がないと成り立たないよ。絶対王政の世界じゃ市民に人権はない。求められれば捧げなければならないのが王・貴族に対しての民の姿だ」


 これは鬼畜ドSメガネ先輩とテニス部の女性の先輩のやり取りだけど、確かに理屈としてはそうだろう。


「そう言えば他の拠点はどうなんです? パンキッシュの連中は賊扱いされたみたいですけど」


「例の軍備の豊かなビル群の所はウチから更に遠いからね。税を納めて小領主としてカウントされてるらしい」


 それは羨ましい。一方でパンキッシュのように賊扱いと言うかただの接収される町扱いの拠点もあるようで、代官を派遣されて渋々受け入れている所もあるみたいだった。


 秘匿事項のない拠点ならそれでも良かったんだけどね。ウチはきぃがいるから権力振りかざす代官とかもダメだな。


「やっぱり黒塚に領主になってもらって闘ってもらうしかないか。目指せ摩天楼の町、だね」


 やはりそこが落とし所になるのか。交渉については摩天楼の町に黒塚が出掛けて交渉し、獅子太陽国の内情や摩天楼の町が招聘された時の事を聴いてくる事になった。


 ただ、僕にはこのまま事がうまく運ぶようには、どうしても思えなかった。


 方針は何も変わらない。事態も好転しない。


 要塞化して籠城。ヤバくなったら野盗化と。


 しかし野盗になった爺さんとわんこを誰が討伐できると言うんだろう。


 段々考えるのに疲れてるのかもしれない。短絡的な思考がやたらとハッピーに感じてしまう。


「‥‥病んでるね」


 僕は嘆息して、ダンジョンに向かった。







 皮肉な事にダンジョン農場も鍛冶場も順調だった。ただ、それで万の大軍と戦えるのかどうかはわからない。


「旦那、次どうするよ?」


「そうだねぇ‥‥」


 僕は春日と市場で図面を広げて話し合っていた。


 市場とは呼んでいるけれども歴としたダンジョンの一部で、きぃが設置した噴水にモンスターが近づけないのを利用して素材の取引所したものが段々本格化し始めたという代物だった。


 雰囲気的には青空バザーが似ている。太陽光がないからテントはないけど。


「でも入口からここまでも防壁と関所造っちゃったしねえ。いざとなればここも防壁出せるんだよね?」


 僕が言うと春日は1つ頷いて噴水のオブジェを回転させた。途端、噴水の周囲の砂地から胸の高さ程の防壁が迫り出してきた。


 幾つかの凹みには鍛冶場謹製の大砲が設置されている。関を超えて狭い入口から零れて来た敵をここで大砲と遠距離武器で削る仕組みだ。


「‥‥ダンジョンらしく吊天井とか落とし穴も造って足止めしようか。大軍を分割しちゃう方向で」


「わかった」


 春日に後を任せて僕は農場に向かう。


 何というか、ギルド設置以来迷宮走破(メイズオブサスケ)だったこのダンジョンは肉体勝負を求められたステージがことごとく魔改造されてしまい、やたら安全なフィールドと狩り場の2つに整地されてしまった。


 恐ろしい事にこれが攻略プレイヤー達でなく工事を請け負ったギルド(と僕)に多大な攻略報酬としてptが振る舞われているので邪道ではあるけれどもシステム的にはアリな恒久攻略法らしい。


 僕は整備された“街道“を農場に向かう。これもギルド謹製だ。


「あ、裏会長チィース」


「はーい」


 時々すれ違うのはギルドの連中だ。ツナギや作業服は大抵トモダチ。しかしあの裏会長って呼び方は何とかならないんだろうか‥‥。


 ん?


 あれは、三枝さんかな。農場に彼女向けの仕事とかあったっけ。


 って言うか最近三枝さんとまともに会話した記憶がないな‥‥これ完全にあやのんの存在感に食われてるよなぁ。あやのんめ。非実在団員の癖に生意気な。


 三枝さんは街道を外れると、林の中に消えてしまった。


 ‥‥あれ?


 あっちってまだモンスターの駆除も防壁展開もされてない方だよな。何かあったっけ。


 これがあやのんなら放置で別に気にならないし、きぃ載せた金わんことかなら何の心配もないんだけど。戦闘力の余りない三枝さんってのが、ほっとけない。


 僕は一応鎧と盾を身に付けて、彼女の後を追った。


 やはり茂みが濃い。陽も余り射さない中を僕は追いかけた。端末のミニマップ機能がなかったら見失ってただろう。


 ようやく茂みを抜けて三枝さんのいる辺りに近付いた時、僕の目に飛び込んできたのは三枝さんの後ろ姿と、佇む男性の影だった。


 全身を真っ黒な甲冑で覆った、大柄な人影。


 黒騎士。


「!」


 僕が盾を構えるのと、飛来した金属塊が頭を襲ったのはほぼ同時だった。重い手応えが盾を構えた左手にかかる。


 黒騎士が手元を翻し、金属塊が宙に弧を描いて戻っていく。


 鎖だ。鎖鎌の分銅部分だけのような武器。一瞬でも遅れていたらあれで頭を砕かれていた。慌てて端末から兜を呼び出す。


 だがその間に、黒騎士も準備を整えたようだ。


 片手を挙げた黒騎士に応えるように、周囲の茂みから似たような出で立ちの黒い全身甲冑が次々に現れる。


 これは、ヤバい。


 僕の装備や技術、能力(skill)はこの所の教練やきぃからのお裾分けで充実してきているが、あくまで“鍵屋“としてのチームプレイに特化したものになっている。


 壁として耐える事は出来ても、敵が倒せない以上削り負けるのは自明の理。


 腹の底が急激に温度を失うのがわかった。


 一際大きな隊長格の黒騎士が鎖分銅を投げつけてくる。盾で受け流す隙に抜剣した配下の黒騎士が左右に散会しながら距離を詰めてくるのがわかったが、どうにもできない。


 僕が右手に構えるのは剣ではなく片手持ちのメイスだ。相手の体勢を崩し、武器を受け止める為に拳を守るナックルガードもついた取り回しの効く棒状の盾のようなもの。


 これで相手が倒せるとは思えない。


 下がるべきだ、と思った時には既に回り込んだ配下の黒騎士に退路を断たれていた。


 呼吸が荒い。視界の外に行ってしまった黒騎士の剣や分銅が盾でなく鎧兜に当たるようになってしまっている。


 痛みこそないが、激しい金属の打撃音が心を挫く。何かそんな拷問がなかったっけ。ドラム缶に閉じ込めてひたすら叩き続けるみたいな。


 遊ばれてるのか。


 そりゃそうだろう。これだけの手勢で僕1人にこんなに手間取る訳がない。弄ばれているのだ。親猫が子猫の前に死にかけた蜥蜴や昆虫を持ってきて狩りの訓練をするように。


 誰も一言も発しない。


 僕のつく荒い息だけが酷く耳についた。


 おかしい。こんな所で死ぬのか。迷宮走破(メイズオブサスケ)の中で死んだらどうなるんだっけ。校内戦の間は復活ポイントに転送されてたけど、本戦になってからルールを確認してない。


 さっきから三枝さんが見えない。


 あれは何だったんだろう。


 黒騎士に脅されてたのか?


 ‥‥まさか。そんな事自分でも信じてない。


 ()()()()()()()()()()()()()。この黒騎士達の。


 後から校内に潜入しても学内システムには載らないから、こっちに転移してから繋がりを持ってスパイになったのか。


 随分強かだ。そんな性格してるとは思わなかった。


 でも、あの妨害系能力(skill)の性質とは、合ってる。皮肉なもんだ。


 僕の動きは段々鈍り、思考だけが空回りし始めているのがわかった。さっきから盾で受ける打撃より鎧を叩いている打撃の方が多い。


 そして構え方の悪くなった盾を剣で押し下げられ、無防備になった僕の顔に向かって、大柄な黒騎士が鎖分銅を投げつけるのが見えた。

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