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箱庭世界のきぃと僕  作者: 越波
第2章 学園クラン“奇兵隊“編
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第21話 白騎士の誉れ

◆柊克也◆


「‥‥何だこりゃ」


 僕が春日とダンジョンの改造計画の為に農場を訪れると、そこには僕の想像を超えた光景が広がっていた。


 以前見た覚えのない間欠泉を中心に緑が色鮮やかに咲き誇り、あれだけ冬飼がその若さに似合わない薄い頭頂を更に犠牲にして苦心していた作付けが、まるで取り放題といった感じだった。


 具体的に言うと豊作過ぎて収穫人数が完全に足りてなかった。


「‥‥昨日まで収穫サイクルの短いハーブ系で苦戦してたんだよね? 何で植えた報告のない小麦や芋や南瓜がこんな丸々収穫出来てるの?」


『ご主人様の御意向です!!』


 僕の疑問に応えたのはエルフの農家一族だった。残念ながら僕の疑問は解決していないけれども。


 まあ、恐らくアイツ等もきぃの湯煙ガチャの産物だろう。深く考えるだけ無駄なのかもしれない。


 ちなみに鍛冶場も同じような有り様で、厳ついドワーフ達が機械弩や大砲を作っていた。狭いダンジョンで籠城しながら使うと恐ろしい兵器になる気がする。


 まあ、あのガチャの産物について考えるのは止めよう。ptが余ったら自由に使っていいと言ったのは僕なんだし。ただ、アテにして引くのはガチャの本質が運試しだから間違ってる。組織運営の資金繰りを宝くじに頼るようなものだ。


 しかし生産系の課題が悩む前に解決しちゃったな‥‥となると次は要塞化か。


「土木だね」


「土木か」


 簡単に考えるなら、ダンジョンの森林エリアから木材を運んできて防柵を組むとか、空堀を掘るとかかな。


「いや、もうちょい凝れるんじゃないか。ギルドなら生産系能力(skill)採ってる奴もいるから石垣やコンクリの壁とかならイケるぜ」


 どうもまたブツブツ漏れてたらしい。しかし思ってたより強固な物は作れそうだ。


「じゃあ手の空いてる人達はそっちの手伝いに回そうか。元パンキッシュも表には出せないから裏方のがいいよね」


 となると陣地設計出来る人が要るなぁ。奇兵隊にいないか聞いてみるか。あそこなら無駄に豊富な知識を持つ軍事オタとかいてもおかしくない。


 僕は春日に建築班の編成を頼んで、思っていたより早くダンジョンを後にした。何かきぃのやらかした後を視察しただけな気もする。


 そう言えば当のきぃ達は何処に行ったんだろう?


 あんな目立つ集団見失わないと思うんだけどな。







『で、私に戦闘訓練の頼みとか?』


 所変わって奇兵隊の詰め所の傍のテニスコート。


 僕は完全装備で霊銀の騎士長と向かい合っていた。


「まあやる事もほとんど終わっちゃったんでね。後は自分達の戦力を鍛えないと」


 僕の今の装備は軽銀の鎧兜と盾の一式と、片手剣の組み合わせだ。目指しているのも壁役だし、戦い方を教わっておいて損はない、と思ったのだった。


 騎士長は腕組みしながら『ふむ』とひとりごちた。


『確かに理に叶っている。主からも奇兵隊に協力するように仰せつかっているしな‥‥良かろう、貴君に教練を施してやる』


 偉そうなカラクリ騎士だな‥‥まあ騎士長だから偉いんだろうけど。


「それじゃ宜しく頼むよ、騎士長殿」


 僕は騎士長に右手を差し出したが、騎士長は腰に手を当てて考え込んでいるようだった。カラクリ仕掛けの騎士も悩む事があるとは。OSがフリーズでもしてたりしなきゃいいんだけど。


 だが僕のそんな考えはやはり杞憂だったようで、しばらくして騎士長は僕の手を取って握手出来た。







『‥‥ふむ。克也。貴君は盾はそこそこだが、剣に才はないな』


 しばし後。僕は騎士長の教練を受けて汗だくになっていた。


 と言っても別段過激な命懸けの特訓があった訳じゃなく、盾と剣を使った基本的な型を倣って繰り返しているぐらいだ。


 ただ、鎧兜に身を包んで本気の型稽古は、元々文科系の僕には結構な運動だった。


 しかし剣に才能がないってのは、男の子としては複雑だなぁ‥‥今の奇兵隊や鍵屋の戦力考えたら今更だけど。


 だから騎士長も途中から盾を中心に教えてくれるようになった。まずは取り回しやすい小型のバックラーから、中型のヒーターシールド、大型のタワーシールドまで。


『中型が無難だな。武器がロクに使えないのではただの大きな的でしかない』


 騎士長は僕が持て余したタワーシールドを腕にベルトで固定すると、手本の為に攻め手役を引き受けた配下の騎士と型を披露する。


 大槌の一撃を傾斜を付けた大盾で受け流し、盾毎の体当たりで体勢を崩してもう片手の戦鎚を振るう。


 受け流せないなら地面、腕、肩や腰も使って衝撃を分散して受け止める。この時も出来る限り真正面から受けない。


 基本はこの2つだった。


『我々白鷹騎士団であればこのような使い方もできるがな』


 これは例外だから真似しないように、と言い置いてもう一手見せてくれる。


 今度は同じように掛かる攻め手の大槌を、瞬時に屈み込んで軽く下から大盾で跳ね上げ、バックハンドで盾の金属の縁を使って相手の喉元を一撃。


『これは我々が圧倒的な膂力を誇る機械騎士だから出来る事であって、人の身の貴君に取れる選択肢ではあるまい』


 言いながら片手の指先でクルクルとイタリアンレストランのシェフがやるピザ生地回しのような軽やかさでタワーシールドを舞い踊らせる。


 指先から手の甲を回して再び指先、今度は勢いをつけて反対側の手、ときて背中に回した回転する盾を首の力で跳ね上げ、額の上で受け止める。


 何の大道芸だ。


『‥‥主には金狼・銀熊の両将がおられる。並大抵の軍ではあのお二方の守りを脅かす事はあるまい。よって、主に臣下の忠たるを示すには他と違う事をせねばならんと考えたのだ』


 貴君の教練を受けたのもそれが理由だ、と騎士長は大盾を下ろしながら言った。


 なるほど。確かにきぃは暇さえあればガチャで配下を増やしてるからな‥‥増やされる配下側からすれば毎年新卒や中途が大量に採用される大企業の社長の関心を引くようなもんか。


 何だ。思ってたよりこのカラクリ騎士長、面白い奴じゃないか。


『‥‥克也、さっきから貴君のいう“カラクリ騎士長“と言うのは私の事だろうか』


 あ、やべ。また自動で心の声が漏れてた。


 だって機械騎士って聞いて最初に頭に浮かんだのが、江戸時代の発明家をご先祖に持つ少年の作ったカラクリ武者だったんだよ‥‥。


 とか思ったのが更に漏れてたようで、僕は疲労の極致の中、国民的少年漫画のあらすじを解説させられる事になった。‥‥訓練どこいった。







『‥‥そのコロちゃんと言うのはなかなか見所のある奴だな。幼い故の浅慮はあるようだが、どうも憎めん』


 結局もう騎士長が話の続きを気にし過ぎて訓練にならなかったので、時間も遅いし僕らは訓練を切り上げてカフェテリアのいつもの席で夕食を食べながら漫画談義を続けていた。


『まあ、どうもその少年達は皆その傾向があるようだがな。皆を良識的に窘め憧れられるマドンナの少女もまた、実に少女らしい所で子供らしさを失っていないのが面白い』


 言ってクックッと騎士長は笑った。


「騎士長は漫画を楽しむ素養があるねぇ。こんなに剽軽な奴だとは思わなかったよ」


『そうか。私達の造られた世界に“マンガ“とやらはなかったからな‥‥だが、要は物語と言う事だろう? であるなら、劇役者や吟遊詩人はいたからな』


「役者はともかく、吟遊詩人って実際にあった事を伝えるものじゃないの?」


 僕が夕食のハンバーグを切り分けながら聞くと、騎士長は大仰に肩を竦めて見せた。


『奴等が歌にするのは金になる“本当にあったかもしれない面白い出来事“だ。重要なのは面白おかしい事で、真実かどうかは余り気にされないな』


 そう言えばそうか。結局娯楽なんだ、フィクションもアリならテレビと変わらないのかもしれない。


「‥‥騎士長、今度図書室行こうか。オススメのマンガを紹介するよ」


『ほう、なかなか興味深い。それならば是非‥‥』


「かっくん、ただいま‥‥」


 と、そこに現れたのはやたらとデカい金色の狼と、それに乗ったきぃ、熊執事の爺さんに‥‥あれ、あやのんか? 何であやのんがきぃの後ろに乗ってるんだ。て言うかこの狼よくあやのん乗せてくれたな。


「おかえり、きぃ。あやのんも一緒だったんだ?」


「ん‥‥ダンジョンで一緒、した」


 きぃは席の近くに屈んだ狼から飛び降りると、僕の隣の席に座った。あやのんも反対側に座り、テーブルが全て埋まる。


「‥‥騎士長?」


『主殿、ご機嫌麗しく‥‥』


 騎士長はいかにも困っているようだった。まあ、上司ポジの狼と爺さんが後ろに控えてる会長が突然漫画談義してた後輩の隣に座ったんだもんね。どう対応していいか冷や汗止まらないだろうな。


 ここは出来る後輩をアピールして恩を売っとくか。


「騎士長は僕の訓練に付き合ってくれてたんだよ。で、僕が疲れちゃったから晩御飯がてら色々雑談してたんだ」


 騎士長凄いんだよ~と持ち上げると予想通りきぃとあやのんは感心し、狼と爺さんは僅かに胡乱そうな目を騎士長に向けた。


「‥‥そうなんだ、騎士長‥‥お疲れ様‥‥」


『‥‥勿体ない御言葉にございます。この霊銀の機械騎士長、これからも‥‥』


「騎士長、御名前‥‥は?」


 きぃがこてん、と首を傾げる。そう言えば召喚カードにもなかったな。


 僕も騎士長に視線をやると、彼はやや情けなさそうに居住まいを正した。


『‥‥私には個体識別名はございません。名を得るのは、武功を立てた勇者や賢者など、一握りの物の栄誉にございますれば』


 名前付き(ネームド)って奴か。でもあれは所謂二つ名的な要素だったと思ったんだけど。まあカード世界のルールみたいな奴かもしれない。


 でもきぃは再びうーん、と唸った。


「‥‥よく、わかんない。お名前なかったら、きぃが呼びにくい」


 だろうね。きぃ、金狼の事「わんこ」って呼び続けてるもんね。むしろ徒名付けられた狼の方が誇らしげに爺さんに自慢してる感じすらするし。


 そうか。


「きぃ、提案なんだけどさ」


「ん?」


「この際だし騎士長に呼び名付けてあげたら? 僕も騎士長騎士長って呼んでるけど、最近お隣さんの所の騎士とかも来て紛らわしいし」


 僕がそう言った瞬間、きぃの背後から凄まじいプレッシャーが放たれた。ああ、これ「余計な事言ってんじゃねーぞ」オーラだ。


 まあ、これは僕にも利のある事なんで無視。


 きぃは少し悩んだ後


「‥‥白くて綺麗だから、ハクちゃん」


 と呟いた。


 途端、きぃから騎士長に何かが飛んだ。騎士長の全身に淡い蛍のような光が包まれる。


 それが治まった後、騎士長‥‥ハクは呆然とした様子だったが、徐に席を立ってきぃに跪いた。


『‥‥望外の栄誉に、感謝を。騎士長ハク、拝命致します』


「‥‥かっくんの事、よろしく、ね」


『は。克也は‥‥我が友でもあれば』


 こうして、騎士長ハクは僕の友達になったのだった。


 余談だったけど熊執事の爺さんには後で呼び出されて説教されたり、他の名無しのキャラ共にきぃに仲介を頼まれたりと色々面倒くさかったのを愚痴っとく。


 でもまあ、ハクは喜んでくれたようだし、良かったんだろう。教練は相変わらず厳しいけど、僕らは仲良く体と技を鍛え、時に漫画や小説、それに視聴覚室で映画を観たりと充実した生活を過ごした。

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