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箱庭世界のきぃと僕  作者: 越波
第2章 学園クラン“奇兵隊“編
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第20話 喚び声

お待たせしました、第2章完結まで日刊でいきます。

◆瀬之宮鍵音◆


「‥‥かっくん、忙し‥‥そ」


 少し寂しい。わたしは金色のフサフサに体を投げ出した。暖かくて柔らかい。


 くぅん?と金色のわんこが心配そうに鳴く。‥‥大丈夫だよ。ちょっとだけ、寂しいだけだから。


「お嬢様、もうじき昼にございます。お食事になさいますか?」


「うん‥‥少しでいいよ」


「畏まりました」


 カイもわんこも、とても優しい。この子達はわたしが“湯煙ガチャ“で引いた召喚カードから出て来た。カイは人だけど、人間とは違うらしい。よくわからないけど、カイが自分で言ってた。


 かっくんが忙しくて遊んでくれないので、わたしはカイとわんこを連れてダンジョンに遊びに来ていた。


 前にかっくんと2人で来た時は全然先に進めなくて、かっくんがわたしを背負って逃げ回ってたっけ。何だかよくわかんなかったけど、楽しかった。かっくんは「二度と来るか!」って泣きかけだったけど。


 あの時と比べるとカイもわんこも凄く強いから、何処でも好きな所に遊びに行ける。


 人の匂いをわんこが嗅ぎつけて農場ってとこと鉱山ってとこも行った。


 農場で、前にかっくんが一緒にお仕事してた冬飼って人がうまく野菜が育たないって困ってたんで、お水を出してあげた。


 わたしのお風呂を出す能力(skill)は最近成長して、お湯や水だけ出す事も出来るようになった。わたしが水を撒いたら物凄い勢いで野菜が育ったから、多分冬飼さんは困らなくて済むと思う。


 わたしはお野菜とか家庭菜園ってやった事がないから、カイに相談して詳しい子を何人かお手伝いで残していく事にする。


 みんなお仕事したかったんだって、カイは喜んでた。


 鍛冶場も夏厩ってお馬さんみたいな顔の人が困ってたから、お手伝いの出来る子を残してきた。


 しばらく奥に進んだら、湖に出た。洞窟の中だから地底湖って言うらしい。でも何だか光っててキレイだから、ここでお昼にする事にした。


 ‥‥かっくんとご飯食べたかったな。


 サンドイッチはいつもの奴だと思うけど、あんまり美味しくなかった。


 しばらく湖の傍の丘でボーっとして過ごした。わんこのお腹が暖かくて気持ちいい。







「あれ? きぃセンパイだ」


 ん?


 気がついたらあやのんが丘を登って来るとこだった。わたしは寝てたみたい。


「どしたんデス? こんなとこで。柊センパイは?」


「かっくんお仕事‥‥きぃは、お散歩」


 まだちょっと眠い。


 あやのんは前に紫のメッシュの人と戦ってた時の服を着ていた。ちょっとアイドルっぽい衣装。可愛くて好き。


 あやのんは、カイやわんこが怖くないのかな。みんな、この子たちをちょっと怖がってるのはわかってた。だからあんまり学校の中をウロウロしてたら良くないのも。


 でもあやのんはいつもの感じでわんこと挨拶してる。カイも、わたしの事を嫌ってる人には物凄く怒るけどあやのんには普通に挨拶していた。


 何だか不思議。かっくんとは違うけど、あやのんの事は前から気になってた。


「あやのんは‥‥何してるの?」


 わたしが尋ねると、あやのんはわんこの毛並みに顔から突っ込んでワシャワシャしてたのを止めて振り返った。スゴいなぁ、あれでわんこが怒らないんだもん。


「ワタシですか? ワタシなら決まってるじゃないデスか!level上げですよ!!」


 言って、ニッコリ笑う。


 ‥‥可愛い。和む。


 それから、色々お話しした。


 あやのんがアイドルになりたがってる事とか、歌とダンスが得意な事とか。


「でもホントラッキーでしたぁ、鍵屋できぃセンパイと同じチームになれて!ずっと憧れてたんデスよぉ」


「‥‥きぃ、に?」


「そうデス!」


 知らなかった。わたしはかっくんとずっと一緒で、かっくん以外のお友達がいない。後輩の事も知らないから、自分が知られてるなんて思いもしなかった。


 ちょっと恥ずかしいけど、あやのんにこうして好意を向けられるのは、嫌いじゃない。


 そうして他愛もない話をしていた時だった。




 ----ah--------la--------




 何か、聞こえた。


 わたしが気を取られていると、あやのんも湖の方を見つめて耳を澄ましているようだった。


「‥‥何か聞こえマシタね」


「‥‥うん」




 ----ah--------la--------




 まただ。


「LaLaAh----LaLaLaLaAh------」


 あやのんが聞こえた音を辿ってハミングする。


 確かにそのメロディーだ。あやのんスゴいね。


 でも何度か繰り返して、声は聞こえなくなった。


「‥‥アレみたいでシタね。ライブとかでオーディエンスがコーラスするみたいナ」


 それなら見た事ある。有名な曲とか、サビのフレーズの所で客席の観客のコーラスにマイクを向けて曲に組み込んだりする演出。


「アンコールをこーゆーオーディエンスのコーラスから始めるライブもあるんデスよね」


 だったら、この声の人たちは、待ってるのかな。


 観客たちがコーラスでアンコールを求め続けているような。


 それを何年も、何十年も、何百年も繰り返す木霊のような。


 もし、そうなんだとしたら。それはどれだけその歌を待ち望んでの事なのか。


 --叶えて、あげたい。


 かっくん、あやのんしかいないし。いいよね。


 ちょっとだけ、怖い。だから本気では歌わない。


 息を吸い込んで、目を閉じる。吐いて、吸って‥‥。


「LaLaAh-----」


 声を、解き放った。







◆錠前彩弥◆


 ワタシは、その瞬間の光景を一生忘れない。


 たまたまlevel上げの為にダンジョンに潜った先できぃセンパイに会って、金色わんこと戯れていっぱいたくさんお話しした。


 途中、湖の方から不思議な木霊みたいなのが聞こえてきたから拾ってハミングしてみたんだけど、特に変わった事は起こらなかった。


 でもきぃセンパイがふと立ち上がって深呼吸して、声を出したその瞬間。


 湖が水底から目を開けていられない程の光を放ち、数え切れない光の玉が泡のように湧き上がった。


 そしてそれよりも、何て凄い歌なのか。


 声量も伸びも、普段のきぃセンパイとスイッチを切り替えたみたいに違う。


 魂を撃ち抜かれて、身動きが出来なかった。


 心が縛られて、先輩の淡く蒼色に染まった銀のシルエットに目が奪われた。


 わからない。


 わからないけど、胸が熱い。


 膝に力が入らなくてくず折れそうなのに、胸の奥に火が灯って、広がった熱が体中を突き破って出て行きそうなぐらい奮い立ってる。


 頬を熱い液体が伝った。


 ‥‥そうか、嬉しいんだ。


 こんな凄い人が目の前にいるのが。


 ワタシは、この人と一緒に歌いたい。


 今はまだ、全然足元にも及ばなくても。この人の隣に立ちたい。ただ聴いているだけなんて、イヤだ。


 幽かに聞こえていた木霊は先輩の圧倒的な歌声をこそ待ち焦がれていたかのように、今や地底湖を揺るがす大音声となって響き渡っていた。


 まるで武道館やドームが一体になって演るトップアーティストのライブのような、空前の規模の音楽。


 BGMもないハミングと木霊だけが繰り広げる奇蹟のような光景を、ワタシは涙を流しながらただ食い入るように見つめていた。


 やがてセンパイがワタシが拾ったハミングを歌い終え、残響を残して木霊が消えゆくまで、ずっと。

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