第19話 僕らの選択
「‥‥獅子太陽騎士団か。アイツらはまあ、この大陸の法と治安の番人だからな。小競り合いから訴訟沙汰まで何処にでもクビ突っ込んでくンだよ」
地下に設けた簡易拘置所と言うか取り調べ室で、元紫メッシュの少年はパイプ椅子にだらしなく腰掛けながら僕らの質問に答えていた。
「大星連国家ってのは?」
「さっきの獅子太陽国を筆頭に7つの大国が一つの宗教を軸に連盟を組んだ同盟国家群をそう呼んでンだな。もう百年近くも同盟やってっから、ほとんどアタマの獅子太陽国とその舎弟みたいなカンジだけどよ」
紫藤が国の名前とシンボルを挙げだしたので一度止めさせて、メモに取る。それはこんな感じになった。
首長国:獅子太陽国(日):法と正義
連盟国:天馬白月国(月):魔術と神秘
連盟国:牡牛炎星国(火):軍事と武術
連盟国:蒼魚海星国(水):慈愛と信仰
連盟国:碧鷲森星国(木):知識と探求
連盟国:金猿明星国(金):商売と娯楽
連盟国:紫蛇土星国(土):医療と葬儀
七曜連盟とも呼ばれ、それぞれ連盟の中での役割を分担して相互に補い合っているらしい。
「なるほど。さしずめさっきの騎士団は日曜よりの使者ってとこか」
紫メッシュがそんなイイもんじゃねーだろ、と苦笑した。
まあ、でも今のでわかった。
「‥‥紫メッシュ、君やっぱりこの世界のヒトじゃないよね。僕らと一緒って認識でいいのかな?」
僕の問いに、紫メッシュはしばらく無言で見つめ返した後、真面目な顔でパイプ椅子に座り直した。
「陰険ヤロー、テメーらに‥‥いや、オレ達に勝ったアンタらに提案がある。後“紫メッシュ“ってのァ、オレの事か?」
「提案ね、まあ言うだけ言ってみなよ。“紫メッシュ“は君の通称だよ。名前知らないし。あ、僕は柊」
「黒塚だ」
「‥‥紫藤。紫藤イズナだ」
名前に合わせてメッシュにしてたんだろうか。結構ロマンチストなのかもしれない。
「じゃあ紫藤、言ってみなよ」
「チッ‥‥柊、黒塚。提案ってのは、おまえらのクランにオレ達パンキッシュを取り込んでみねーか、って事だ」
僕はゆっくり目を瞬いた。
紫藤は目を逸らさずしっかりと僕の目を見つめている。今までの嘲ったり怒ったりという感情のブレは見えなかった。ただ静かに、まっすぐあるだけ。
「テロリストを配下に加える組織なんてないだろ」
「言いたい事はわかる。不意打ちで襲いかかったのはオレ達だからな‥‥だが、オレ達にもそうしなきゃならない理由はあった」
「‥‥盗人にも三分の理って?」
「イチイチ腹の立つ返しを有り難うよクソ柊‥‥!」
いかんいかん。どうもオートで毒舌挑発が発動するなぁ。
僕は黒塚に進行役をバトンタッチした。
「理由とは?」
「オレ達が召喚者だからだ‥‥クソ柊、お前の言う通りな。この世界の連中は頻繁にオレ達みたいな外からの客を招き入れている」
「‥‥目的は何だ?」
「力を得る事、だとさ。だから喚ばれたのが有用な奴なら、配下に誘われる‥‥実際のトコそれが本当に配下と呼べる代物なのかどーか、わかったもんじゃねェが」
そう言って紫藤は顔をしかめた。
「オレ達は誘われなかった。一方的に賊指定されて追われた」
「だから名実共にテロリストに?」
「力が必要だったンだよ。levelの為のptを荒稼ぎして奴らに狩られないだけの力を身に付ける必要が‥‥だがまあ、オレ達はキレイサッパリお前らに負けた」
だからよ、と紫藤はもう一度顔を上げて僕達を見つめてきた。
「オレ達はここまでだ‥‥獅子太陽騎士団に引き渡されよーが全損させられてptの藻屑と消えよーが文句は言えねェ。だが、出来るなら、アンタらンとこでもう一花咲かせてーんだよ」
不思議な事に、僕は何故かこの紫藤の申し出を素直に受け入れる気になっていた。理由は全く思い当たらないんだけれども、この珍しくまっすぐ僕らを見つめてくる瞳が緊張しながら、精一杯、さして年相応に素直だったからかもしれない。
まあ、何も代価を払わせずに丸呑みなんて事はしないんだけど。もうちょっと苛めてから活かし所を考えようかな。
僕はつつかれる度に百面相する紫藤を弄りながら、横目で黒塚にウィンクして見せた。
「で、どうする柊。アレを匿うなら騎士共とは徹底抗戦コースか?」
散々紫藤を弄って満足した僕らは拘置所を出て奇兵隊の拠点棟に戻っていた。
「まあ、どの道無条件降伏はないですしね。後は交渉で独立を認めさせるか、武力で独立を勝ち取るか‥‥時間を稼ぐかですかねぇ」
「時間を?」
僕は食堂のカフェオレを啜った。
「まあ、グレーゾーンの交渉ですねぇ。潔癖な騎士様には嫌われるかもですが、曖昧な態度で敵対せず追従せずで可能な限り時間を稼ぐって寸法です」
その内痺れを切らすだろうから限度はある。その間に後ろ盾を見つけるなり戦力を蓄えるなり準備を整えなければならない。
「まずは相手を知らないとどうにもならないんですけどね」
「集団として独立を認められればそこで目的達成なんだがな。相手が理知的で寛容であってくれれば楽なんだが」
いいよいいよ!頼もしいね、独立認めちゃう!テロリストも持ってっていいよ!って?
そんな気前のいい話がある訳がない。都合が良すぎて逆に裏が気になる。
「まあ、でも紫藤達は正直渡したくないですね。一応同郷ですし、今後同じような召喚者と交渉する時に同じ日本人を下しつつも殺してないってのは、有利なカードになるでしょ」
紫藤は、割と頻繁に召喚はあると言っていた。なら、同郷殺しというレッテルは日本人にはかなり忌避感が強いと思う。
パンキッシュが奇襲じゃなく友好的な交渉をしてきたと仮定したらどうだろう? 騎士団よりも手を取り合う可能性は高いんじゃないだろうか。
「斥候メンバーの報告にもよりますけど、パンキッシュクラスの召喚者クランがいるなら積極的に交渉していきたいですね。条件次第じゃ庇護下に入ったっていい」
「そっちの方が現実的だな‥‥だが、いなかった場合は?」
僕は眉間に指を添えた。考えすぎて目の奥が痛い気がする。
「‥‥もし協力出来るようなクランがなく、連合国が圧倒的で勝ち目がなく妥協も認めないのなら、最悪やりたくはないですが僕らの負けです。紫藤もですが、僕ら自身の進退も彼らの王様や教祖様に委ねる事になる」
そうなったら、ウチのチームだけ脱出して召喚軍団でゲリラ戦かなぁ。名実共にテロリストの仲間入りだ。
いや、熊執事や金狼、騎士長の戦力を考えると小規模なゲリラ戦なら負けはない気がする。案外これはこれでアリなのか‥‥?
「柊、悪い笑顔になってるぞ」
「え、僕笑ってました?」
ああ、と黒塚も犬歯を剥いて獰猛に笑う。彼も似たような事を考えたのかもしれない。
まあ、大方針は変わらないな。情報収集と戦力増強あるのみだ。
僕は席を立った。次はダンジョンだ。
「はァ? 要塞化だァ?」
僕はダンジョンの農村区に来ていた。案内はギルドマスターの春日だ。
「そう。今日東から使者の騎士さんが来てねぇ‥‥」
僕はざっくり状況をまとめて春日に説明した。春日は話を聞き終わるとバンダナごと頭をガシガシと掻いた。
「あぁ、クソ! 校内戦からのパンク軍団来襲も何とか凌いだってのに次は大国襲来かよ‥‥息つく暇もねーな‥‥!」
「でね、騎士って事は騎兵や大軍相手もあり得るだろうし、籠城するなら校舎よりダンジョンのが条件いいんだよね」
生産設備あるから自給自足出来るし城壁作らなくていいし。考えれば考える程、ここしかないんだよね。
春日はひとしきり頭を掻き終えると、腕組みしながら深く息をついた。
「‥‥確かに旦那の言う通りだな。なら、農村区の稼働は予定より急がないとだな。後はいざって時の為にダンジョン内にも隔壁や罠は用意しとくべきだな」
「後、パンキッシュの連中を取り込むんだけど、外ウロチョロされるの見られると面倒だからダンジョン改造にブチ込もうか」
「は!? パンク軍団がウチくんのか‥‥? もう、旦那が絡むと話についてけねぇよ、誰か助けてくれよ‥‥」
失礼な。事態のややこしさには僕も困惑してるよ。
だけどまあ、目はない訳じゃない。
僕らの選択は、決まった。




