第12話 鍵屋オーディション
「突然ですが人手が足りません」
翌朝‥‥でなく、昼。
僕らはもはや定席となったカフェテラスのテーブルに2人で座りながら、配給の昼食のうどんを啜っていた。
「ヒトデ‥‥スター‥‥」
きぃはきつねうどんのお揚げを器用に星形にくり抜いて持ち上げてみせる。
そっちじゃねーよ。それから食べ物で遊んじゃいけません。
僕は箸で持ち上げられた星形のお揚げにかぶりつき、咀嚼して飲み込んだ。
きぃがこの世の終わりのような悲嘆を全身で現した。
「かっくん許すまじ‥‥き、きぃのきつねうどん、素うどんに、した‥‥」
いや、星形の残骸あるじゃん。
大体それよりだな。
「湖沼が行方不明なんだよな‥‥」
幸いと言うか、フレンドリスト上からは湖沼の名前は消えていない。ただ、その名前は灰色にくすんで、その詳細な情報も見えなくなっている。
つまり、湖沼は生きて何処かにいるが、それが何処で何をしているかはわからないって事だ。
「このままだと鍵之湯の整理券配りと付き添いもままならなくなる」
むー、と唸りながらきぃの目は僕の丼に鎮座するおあげを見つめている。
僕はそんなきぃを後目に、自分のおあげを一口で口に放り込んだ。
「あ、あ、あぁあ~‥‥!!」
きぃが伸ばした箸をへなへなとテーブルに下ろす。
僕は甘辛いおあげの最後の一噛みまで堪能し、嚥下した。
「と言うわけで、きぃ。オーディションをしよう」
鍵屋の進退に関わる僕の提案に、きぃは琥珀色の瞳を涙と怒りに震わせて本気下段キックで応えた。脛が痛い。
鍵屋人員募集の貼り紙は、その日の内に校内各所の掲示板に貼り出された。
◆人員募集:チーム“鍵屋“
募集人数:2名
業務内容:風呂サービス“鍵の湯“の会場整理、
整理券配り
対戦格闘時のリーダー護衛
拘束時間:風呂サービス(19-21時)
護衛(9-19時)
福利厚生等:レベリング支援、無料の風呂利用権
何かただのバイト募集みたいになったけど、まあいいや。ウチのチーム、普通のチームと求めてる人材が違うしね。
「2-A出席番号16番、錠前|彩弥《あや》デス! みんなにはあやのんって呼ばれてます! 特技は歌とダンスでス!」
僕ときぃが面接官とし長机に座る向こうで、柔らかなライトブラウンのロングヘアを揺らして制服姿の女子がポーズと歌声を披露している。
さっきからこういうアピールが20人ぐらい続いていた。確かにオーディションとは銘打ったけれども、こんな結果になるとは思っていなかった。
とは言え大事なのはステータスだからなぁ。僕は彼女の端末で彼女のステータスを確認した。
◇氏名:錠前彩弥◇
Level:3
Class:壊し屋(A++)
Element:金(B+)
Skill:倍返し(B)、
雄叫び(WarCry)(A++)、
乾坤一擲(C)
噴いた。
めちゃくちゃ前衛のダメージディーラーじゃん‥‥。
オンラインのRPGなんかでも前衛には2種類ある。手にした武器や武術で敵にダメージを与える事を主目的にしたアタッカーと、敵の攻撃から味方の後衛を守るディフェンダーだ。
僕がやってるのは一応、後者のディフェンダーになる。
だけど彼女のこのステータスは明らかに前衛のアタッカー向きだ。両手持ちの戦鎚とか持って“雄叫び“をあげながら敵に殴りかかり、身に受けたダメージを怒りに変えて“倍返し“で更に追い討ちをかける…‥。壊し屋って言うか狂戦士。
ステータスは非情だ。本人も認めない素質をこうもつまびらかにしてしまう。
どんなに可愛らしくウィンクしてもプリーツスカートの裾を翻しても、僕の脳裏には血に飢えた狂戦士のイメージがこびり付いて離れなくなった。
うん、ない。
「‥‥はい、ありがとうございます。次の方どうぞ」
僕の冷淡な反応が余程ショックだったのか、狂戦士の女の子はガックリうなだれながら壁際のパイプ椅子の列に戻った。
入れ替わりに列から立って前に出て来たのは、ショートボブにメガネの女の子だった。先ほどのふんわり狂戦士と比べると物凄く地味だ。
「‥‥1-C、三枝八千枝です。図書委員と、普段はお弁当屋でアルバイトをしています」
ふむ。ちょっと大人しすぎる感じはするけど、肝心のステータスはどうかな?
◇氏名:三枝八千枝◇
Level:7
Class:魔女
Element:土(A++)
Skill:泥沼(B)、
毒ガス噴出(A+)、
融解(C-)、
魔力障壁(C)
驚いた。サポート系後衛職だ。スキルの詳細はわからないにしても、恐らく僕らの湯屋特殊ルールとかなり相性がいいはず。
後は普段の風呂サービスでの接客に問題なければ即決だね。大体全くお門違いのアイドルオーディションみたいなのが続いて、僕は疲れきっていた。
「三枝さん、お弁当屋さんのバイトは接客もやってたの?」
「は、ハイ。私がアルバイトしていたお弁当屋さんはベテランのおば様ばかりで、足りていなかったのはレジとか呼び込みとかだったので」
そう言って気弱そうに眉をハの字に下げて、「なので、お料理の方はそんなに得意って訳じゃないんですけど」と恥ずかしそうに言い足した。
うん。これは決まりじゃないかな?
僕は隣のきぃと視線を合わせ、手元の書類にチェックを入れた。
「ありがとうございます。では、次の方」
とは言え、まだ希望者は10人近く残っている。気持ちを改めて僕は次の希望者に自己紹介を促した。
面接が全部終わった頃には、日が暮れていた。
カフェテラスのいつもの席には僕ときぃの他に、居住まいを正して座る三枝さんの姿があった。
結局、ほとんどの応募者がアイドルオーディション的な希望者ばっかりで、使えそうな面子が他にいなかったのだった。
「それじゃ改めて歓迎するよ。ようこそ、“鍵屋“へ」
僕ときぃがカフェオレの入った紙コップを掲げ、三枝さんもやや遠慮がちに紙コップを合わせた。
こうして僕らのチーム“鍵屋“は、新たなメンバーを加えて新たなスタートを「ちょっと待ったーー!!」
突如響いた声に驚き、乾杯しかかっていた紙コップがタイミングを外されて勢いよくぶつかった。運悪く僕の手にかなりのカフェオレがぶちまけられる。
僕が熱さと汚れたのにパニクってアチアチやっていると、先ほどの声の主がツカツカと歩いて来て僕の前で鼻息も荒く腕組みした。
ああ、誰かと思ったらオーディションで落ちた狂戦士あやのんじゃないか。
「納得いかないデス! 何でワタシが落ちてその子が受かるんデスか!!」
勝負を申し込みます!とあやのんは僕の隣で汚れた袖を拭っていた三枝さんにビシッと指を突きつけた。
め、めんどくさい事になって来たな……。




