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箱庭世界のきぃと僕  作者: 越波
第1章 校内戦編
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第9話 反撃の狼煙

6/29 誤字修正

「来ちゃった♪」


 翌朝、いつものカフェテラスのテーブルで朝食を取っていると、笑顔で手を振りながらやって来たのは木下さんだった。


「‥‥おはようございます」


「ノリ悪~い。堅いのかボケてるのか悩むリアクションだよね!」


 そう言ってカラカラと陽気に笑う。湿度の低い健康的な快活さだね。具体的に言うと湿度50%以下で気温25℃ぐらい。嫌いじゃない。


 椅子を勧めると、彼女は遠慮なく座って手にした紙パックのカフェオレにストローを刺した。


「で、木下さんはどっちの要件?」


「どっちって?何か2つもアタシが来るような用事あったっけ」


 不思議そうに軽く小首を傾げてカフェオレを飲む。


 いや、情報提供と戦闘訓練の件だよ。


「あー、訓練の事なら現地でって黒ちゃん言ってたんじゃない?場所もテニスコートだから案内する程じゃないでしょ」


 アタシは情報提供で来たんだよ、と言って木下さんはカフェオレのパックを片付け始めた。早いよ。一息で飲んでない?


「取りあえず2人は訓練行って来たら?きーちゃんはアタシが見てるからサ」


 色々ツッコミたい所はあったけど、木下さんの目に意外に真剣な色が見えたのできぃの事を任せる事にする。


 まあ、黒塚が寄越した人員だし、一応クラスメートだし?大丈夫だろう。


「‥‥いーよ。待ってる」


 物分かりのいいきぃの頭を撫でようか一瞬悩んで、ほっぺたを摘まむ事にする。


「いはいいはい!」


 それでいいんだよ。悩んでんのお前の安全の事なんだから。ホントは妥協しちゃいけないの。


「任せてヨ。こー見えても結構強いんだよ?」


 木下さんは頼もしげに笑って端末を見せてくれた。


◇氏名:木下夏希◇

 level:15

 class:レンジャー(B+)

 element:木(C-)

 skill:偵察(B)

   潜伏(B+)

   観察記録(S)


 おおう。見事に斥候タイプ。でもレベルは高いな‥‥。


 それにこのスキルは何だ‥‥?


「ま、細かい事は訓練終わったら説明するから。安心‥‥とまではいかないかもケド我慢してヨ」


 ここまでしてもらって駄々をこねるのも男らしくない。僕は湖沼と連れ立ってテニスコートに移動する事にした。




 テニスコートで僕らを待っていたのは、地獄のような特訓‥‥じゃなかった。


「まず、この中で対応してない人もいるだろうから“初期設定“から説明するね」


 僕らを待っていたのは、ホワイトボードと座学だった。


「みんな持ってる携帯端末と一緒で、この世界の対戦に使うシステムも色々設定があるんだ。そしてやるべき事をしてない為に対戦で不利益を受けるケースもある」


 メガネの講師役がホワイトボードにマーカーで小気味よく板書していく。


・対戦ルール事前確認を『毎回する』に設定する


・最大対戦レートを『30%まで』に設定する


・公開ステータスの秘匿項目にチェックを入れておく


・自動フレンド登録を『禁止』にする


・端末のセキュリティを『PINコード』にする


 SNSかよ、と言うのが混じってるがメガネ講師は苦笑して補足してくれた。


「これ笑っちゃうかもしれないけど意外に大変でね。迂闊にフレンド登録するとストーカーとか敵対チームの奴に“何処にいるか“、“どんな状態か“と簡易ステータスが筒抜けになるから、絶対変えておかなきゃダメ」


「‥‥許可にしてるとどうなるんです?」


「例えば君に目を付けたヤンキーが端末のレーダーで君をタップするだけで一方的にフレンドにされて、そこから君がひとりで弱って、人気のないとこに移動するタイミングをずっと監視されるね」


 考えるだけでも寒気がする。僕は早速自動フレンド登録の設定を『禁止』に変えた。


 周りのみんなも同感なようで端末を忙しく触り出す。女子の必死さはよりわかりやすかった。まあ、当然だよね。


「端末のセキュリティーも防犯の為にやっておいてね。指紋や光彩認証だと、気絶させられたりすると意識のない間に何をされるかわからないからね」


 なるほど。これも恐ろしい。面倒かもしれないがこっちの方がセキュリティーとして優秀な面もあるんだね。


 その後も基本的には最低限無理難題を強いられないように今わかってる事を、メガネ講師は淡々と講義してくれた。


 思ってたのとは違うけれど、参加した甲斐は十分得られた1時間だった。


「じゃあ、今日はこれまで。奇兵隊の人はここから実技だから帰らないで待っててねー」


 と思ったら特訓もあるらしい。やれやれ、ここから本番か‥‥。




 戦闘訓練が終わったのは夕方だった。


 僕も湖沼もヘトヘトを越えて立ち上がれなくなりかけていたが、改めて考えると効果的な訓練には違いない。


 それにしてもあのメガネ、絶対ドSだ。何回爽やかにテニスラケットで人のケツスマッシュしてんだよ‥‥。


 筋肉痛と疲労で覚束ない足取りになりながらカフェテラスにたどり着くと、そこには楽しそうに談笑するきぃと木下さんの姿があった。


「あ、おかえりー。そのカンジだとテッシーに可愛がられたみたい?」


 木下さんがすげー笑顔だ。こうしてまじまじと見た事なかったけど八重歯が可愛いね‥‥って、あ、きぃ今日は、今日は下段小キック止めて‥‥膝に来るから。そんなこっちの膝と顔交互に見比べながら恐る恐る小キックしないでいいから。


 て言うかあの鬼畜ドSメガネ、テッシーって言うのか。覚えないけど。アイツは鬼畜ドSメガネで十分だ。


「きーちゃんにはテッシーの講義の内容はアタシから説明してあるからね」


 安心しなさい、と木下さんはニマニマ笑った。


 で、座学の情報はともかく。


「‥‥本題入りますか」


「じゃーちょっと内輪話モードにしちゃおか♪」


 木下さんが端末を操作すると、淡い光のエフェクトが広がって、ちょうどドームの中にいるような感じになる。


「これで外に漏れないから」


「‥‥なに、これ」


 きぃが興味深そうにぺたぺたとドームの壁を触る。


「模擬戦やる時に最初からあった、飾り気のないステージを応用してあるんだってサ」


 変な言い回しだな。まるで、誰かが後から作ったみたいな‥‥。


「‥‥コレ作ったの、テッシーだからネ?」


「マジ、っスか」


 やるなあの鬼畜ドSメガネ‥‥じゃなくて。


 後付けでシステムに干渉出来る方法があるのか。


 スキルなのか純粋に端末でのプログラミングなのかはわからないが、そんな事が出来るなんて考えもしなかった。


 黒塚‥‥そして奇兵隊は、僕が思ってる以上にとんでもない奴らなのかもしれない。




 その夜。


「アハハハハハ!!これで3回目なんだけど!やる気あんの!?まあ俺からしたらいいカモだから助かるけどなァ‥‥ま、いいや。また来るからヨロシク~?」


 けたたましい笑い声を残して紫メッシュは姿を消した。


 少し間を置いて、その声の余韻も消え失せてから。昨日と同じくポカンと取り残された風呂途中の生徒たちに、僕らは努めて何事もない風を装って呼び掛ける。


「お騒がせしてスミマセン、あのパンキッシュの件はもうじき片付きますので。本日途中になってしまったお風呂はこれからもう一度開催します。


一度交換(トレード)で先ほど皆さんがお支払いされた分のポイントをお返ししますので!」


 ざわめく生徒たちだったが、手元に先ほど支払ったポイントが戻って来て、ちゃんと風呂に入り直せるとわかって落ち着きを取り戻して行く。


「お待たせしました、それではこれから風呂サービスを再開します!」


 いつもより敢えて明るく張り上げられた湖沼の声と共に、100人用のエリアがバトル開始のエフェクトに包まれる。


 僕はそれを見届けてから、同じように脇で彼らを見送っていた木下さんに近付いた。


「‥‥どう?」


 木下さんは猫をかぶったように大人しくしていたが、僅かな所作の隙間にチラッと流し目で僕を見つつ、実に嬉しそうに唇の口角を上げてVサインを作った。


 次の瞬間その動きは髪をかきあげる動作になって跡形もなって消え、彼女は満面の営業スマイルで残りの行列に整理券を配り始めた。


 一瞬だったせいか余計、妙にチャーミングに強調された唇の動きが目に焼き付いた。


『バ ッ チ リ ☆』


 多分、見間違いじゃないはずだ。


 あいつら奇兵隊については、そのぐらいの信用は置けると判断した。


 しかしこれでようやく、僕らがあの“パンキッシュ“に反撃する手がかりが揃った事になる。


「‥‥待ってろよあのヤロー。きぃにあんな顔させた報いを受けさせてやる」


 僕は湧き上がる闘志と溜まりまくったフラストレーションから来る報復の予感に、拳を握り締めながら呟いた。

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