妹
妹
薬の副作用でか、頭がまだふわふわと浮く感覚。
ふらりと 覗き込んだ地面には瞬きをしても変わらぬ姿。
「奏美・・・」
艶のある太ももをさらして
いつの間にか大人びたその姿は散らばったパズルのようになっている。
あれ。
これ、どこかで。
・・・夢?
夢のなかでみたあの光景。
今目の前で彼女が、彼女自身がその姿となっている。
現実だというのか?
手のしびれが後頭部までぞわつきを与えた。
肉塊となるのは、彼女だったのか?
おい。
どうにか言えよ、夢のように。
口からは、妹と、過去を振り返るが故に出た、乾いた笑い。
「「ふふふ。落ちちゃった。おーちちゃった、落ちちゃった」」
もはや何も考えることもできない。
柵から身を乗り出したまま、一心不乱にその黒ずんでいく血を見た。
笑ってごまかそうとしても、無駄なようだ。
思い出した思い出した。
なんでこの場所に居たかも、妹が死んでしまったかも。
「そうだ、そうだ。そうだった」
思えば俺の方がおかしいのかもしれないが、
奏美は、もっと前からおかしかった。
・・・ひとり暮らしを始めたあたりからだろう。
突然、警察から連絡が入ったのもそのころだ。
「奏美さんが、『自殺した人がいる。死んでいる』と言っているのですが、
どうにも死体も無いうえ、本人によると本当らしいですが・・・」
意味が分からなかった。
妄想癖があるのは知っていたが、そこまで重症ではないと思っていた。
「すみません。言って聞かせますので、本当に申し訳ありません」
「はい。今回ばかりは精神的な異常がみられますので、しっかりみてあげてください」
「はい。・・・はい。本当にありがとうございました」
電話を切って、SSRI《精神安定剤》入りのチューブゼリーを飲んだ。
なんだってんだ。なにがあった。
「奏美。おい。なした?・・・ん?」
どうしたらいいかわからず、聞くことしかできない。
よしよしと、撫でてあげるくらいはできたはずだった。
「・・・なんでもない」
「・・・そうか。なにかあったら、言えよ?」
「うん。何もないよ・・・。平気」
そういいつつ、彼女はどこか上の空で、天井をまっすぐに見つめていた。
「なぁ、おい」
「しつこいな!もういいじゃない!」
考え事をしている時に聞くと、いつもこうだ。
すぐに奏美は帰ってしまい、話も何もなく音信不通になった。
やがて、再び連絡が入るのはトラック事故によるものだ。
おかしなことに、トラックが通ろうとした瞬間、
猫と女の子の人形を投げ出した。
それを傍からしゃがみ込んで見ていたそうだ。
不気味がった運転手は警察へ連絡し、警察から家族へ、そして俺へ。
その際、母がいつの間にか離婚と結婚を済ませていたことを知る。
「親父はどうなるんだよ!!おま、っ・・・!!」
「アラコワ。まぁ、私の勝手じゃない。もう奏美には伝えたからね」
「・・・伝えたって・・・・・・?」
今の状態でそれを聞いて、どうなるか知れない。
あぁ。最悪だ!
「一生好きにしてろ、お前なんかもう母とも認めたくない」
そのまま妹の元へ直行。
「おい奏美!奏美!!」
マンションの扉を叩いても反応なし。
ポストには二日分の新聞やチラシ。
携帯をかけると、ポストに振動。携帯ここに入れてるのか。
「くっそ!いい加減にしろ奏美!」
ドアを強引に揺らしていると、隣人や下の階の大家がやってくる。
「なにがあったんですか?」
どうもしばらく連絡取れなくて・・・と伝えると、
大家はすでに持っていたマスターキーで扉を開く。
半ば殴りこむように、強引に割りはいると、小さな着信音。
ピロロロロ、ピロロロロロロ・・・
「ぁ、かな、奏美・・・おい・・・それ」
電子レンジの中に家の電話を入れ、その下で目を見開いて笑った顔がある。
「ふふふ・・・ふふ」
座り込んだそれは、もはや奏美には見えなかった。認めたくなかった。
下着姿の奏美は、奏美じゃない。奏美なんかじゃない・・・!
ほぼ全身、刃物で切り裂いたような、切り傷だらけだった。