眠
眠
灰色、灰色、灰色。
どこかのどん底に落ちてしまったような、そんな空間の中私は浮かんでいる。
また夢の中。
そう気付くのはいともたやすかった。
乾ききって割れた地の表面には、鮮やかな色をした茎が伸び、
その先についているのは綺麗であるはずの花弁に代わって、耳が開いている。
ノイズに混じった機械音。
心電図のような空気の波すら感じられるようだ。
あぁ、歪んでいる。歪み切っている。
頭が狂いそうなのをこらえ、浮いていた体を『瞼』のついた地表へ降ろした。
足を踏み出すたびに瞼は閉じ、黒い岩盤が盛り上がる。
まるで生きているかのように、脈打っているそれは、足を退けると目を開いた。
「|ギプノーザ≪催眠≫、ギプノーザ。聞こえるかい?この笑い声が」
歩いていると青年の声がささやきかけてくる。
夢にたびたび出てくる人々の声と、まったく同じの声。
聞こえるよ。いつもいつもありがとう
「どういたしまして」
ようやく人・・・だろうか。
人物らしいものと会話した気がするのは、気のせいでもないだろう。
「そうだね。君は『あれから』動いていないから」
いつからこんな夢を見るようになったろう?
「数分、、、いや、数時間以上も前からだね」
ノイズが機械の声でぎゃあと鳴き上げた。
耳障りだが、我慢しかあるまい。
「その通り。君がこのギプノーザから目覚めない限り」
口をぱっくりと開けて、青年はぎざぎざの歯をむき出しにした。
これが笑う動作だと気づくまで、私は得体のしれない行動にしか見ていなかったが、
首をかしげるのと同時に、乾いた喉の音が聞こえた。
「これを見てよ。君の無意識が埋め込んだんだ」
猫背の青年は、耳の草と岩盤の眼、そしてノイズの空気を示す。
「かっかっかかかっかかっか、かくっくくかっく」
笑っているの?
「これが笑っていないように見える?笑っていられないでいる?」
灰色の空までぎざぎざの口をぱっくり開いて笑っているようだ。
「そうだ、そろそろ急いで非常階段を下りきらなきゃ」
猫背は首を左右に傾けて骨を鳴らしたのち、いつしか見た屋上の風景の中、非常階段の扉へ歩いていく。
無表情な顔を急にこちらへ向け、青年は急に『男』そのものになったような気がした。
この夢の先を思い出す。
―――私も、降りなきゃ。
屋上の世界は、一気に急上昇する壁に風景を変えた。
あぁ、私は急降下。
……口の中には飴玉が残っていた。
ハッとして目を開くと、
俺は屋上から下へ向かう非常階段の途中、柵にぶら下がるようになっていた。
重力によって、肩から首からもげそうなくらいの痛み。
…どれくらい気を失っていたんだ?
薬、副作用強くて困るな全く。
不意に、背後が騒がしくなる。
「んぁ?」
振り返った瞬間、猫背に激痛。
あまりにも長い時間、気を失っていたんだろうか。
手が酸欠でしびれている。
騒がしい屋上へ戻ると、生ぬるく気持ちの悪い風が肌を撫でた。
何もないではないか。
「はぁ・・・」
不意に下を覗こうという気になって、柵から身を乗り出す。
血と肉塊がそこにあった。