跡
跡
朝、ピンポーンとチャイムが鳴って
気付けば取調室みたいな場所に居た。
なんだ、ここ。
無機質な色をした空間。
男は冷たい机に冷たい視線を向けていた。
「あの」
「お前は飛び降りたのを見たのだろう?」
大きな眼球が、茶色だってはっきりわかる瞳が、こちらをカッと見ていた。
「ぅっえ、・・・」
言葉に詰まった。
「えぇ?見たんだろう?」
耳にこだまするようだ。
いや、この部屋に反響しているだけだ。
私はその瞳が怖くて、立ち上がり後ろへ逃げようとした。
息が苦しい。
首を絞められているくらい、とてもとても。
「おい、どうにか言ったらどうだ!」
ありえない。
離れたのに。
離れたのに、手首を力強く握られている。
やめてくれ、やめてくれ!
「あぁ、あ、ああぁ……・・・」
手首が痛い。
まるで男の手と一体となって、まざってしまいそうだ。
「桜木、さくら・・・サクラギ。…さクらひ!」
「ひ、うっぁはっはっ!!」
冷や汗をかいて、目が覚めた。
もうすでに季節外れなくらい、分厚い毛布に丸まって寝ていた。
ご丁寧に頭まで深くもぐりこんでいたものだから、
息が詰まって起きたとしても、当たり前だ。
もうすでに昼時。
寝すぎた。
まぁ、別に休みだからいいのだけれど。
シャワー入ろう。
それにしても、変な声を出して目覚めてしまった。
恥ずかしい。
下着を脱ぎ、鏡で体型を確認しながら、
結っていた髪をほどく。
「つ、め、た、ぃ」
ヒーヒー言って、バスルームの蛇口をひねる。
すぐに温かいお湯が出て、一安心。
ほっと、息を吐いた。
髪を首筋から後頭部まで持ち上げ、背中にシャワーを浴びる。
首筋、肩、腕・・・。
そこまでお湯を感じながら、撫で上げていく。
だが、目覚めてから感じていた違和感は、手首にあった。
「・・・え、なん」
手首には、くっきりと。
成人男性くらいの、大きな手形があった。