疲
疲
玄関先に出る。
ここのマンションは結構高くて、
塀があっても隣のビルが見えるだけだ。
もちろん下を覗けば見えるのは地面。
大きな道路で、車通りも多い。
コップにホットココアを入れて外に出たが、
この分だとすぐに冷えてしまいそうだ。
扉前の冷たく硬い塀に寄りかかり、一口。
「あぁ…。甘い」
チョコはちゃんと牛乳と混ざってくれたようで、とてもまろやかだ。
湯気が眼鏡を曇らせて、吹いた冷たい風でぼやけた視界は元に戻る。
肘をついていた塀の下をちらりとのぞいた。
赤い塊。
夢で見た何かを思い出した気がした。
溶け残った固形のチョコレートが、噛みしめたときにパリッといった。
確かに見たものだ。
夢で見てしまったものだ。
起きてしばらくは忘れたものだ。
屋上から落ちていく人、屋上で見ていた人。
「ま、正夢っ」
目を丸くして、私は危うくココアのカップを投げ出しそうになった。
部屋に一回戻ろう。
あれは確かに夢だったはずだ。
絶対、夢だった……。
「もしもし、えと、その、○丁目○○マンションの桜井です」
気づけば電話を手にしていて、耳から聞こえる応答にこたえていた。
もう、赤くててかてかした何か。
すごく生々しかったそれは、現実だって物語っていたようだ。
しばらくしてチャイムが鳴った。
「はい。。。桜井です。はい、あ、はい…」
まず救急車も呼んだが、さすが車通りが多いだけあってなかなかこない。
あぁ、警察はなかなか納得してくれない。
しっかり寝起きだってことも説明したし
そこで見つけたってことも伝えたのに。
ちゃんと理解してくれなかった。
屋上で手紙も何も見つからず、靴だけが見つかった。
屋上の重い扉だけが開かれていたようで、誰かが来た痕跡はあるそうだ。
話を聞かれ疲れてか、帰ってから再び眠ってしまった。
ご飯は、食べる気はしない。
あぁ、すごく眠たいの。
ホットチョコレートを飲んだ後、青リンゴを切ったものを食べた。
変な食べ合わせをしたのに、眠気は飛ばず、うとうととやがて眠りについた。
最近、眠たいこと多いなぁ。
気づけば寝てしまっている。
疲れてるのかな?
そこまで疲れることはしていないのだけれど。
そういえば、朝カップを洗っているときに鏡を見たら、
私の瞳はどこかうつろだった気がする。
自分の目で見ても、とても。