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  作者: 欅いらくさ
2/10


これはあまり甘くない。

口に入れたモノは、とても甘くなかった。

甘いと思って口にしたら、苦かった。

とてつもなく苦かった。


今私は、私個人の人生ものがたりの主人公を終えようとしている。

口の中に飴玉あめだまが残っている。

とてもとても甘かったけれど、

唾液だえきのせいなのか胃液いえきのせいなのか、

今ではとても苦く感じる。

吐き出してしまいたいけれど、この状況だと口から出すに出せない。

耳元を風がものすごい勢いでビュゥウと走る。

壁がものすごい勢いで下へ行く。

いや、上へ行く。

私が下へ行っているのだ。

髪の毛が前髪が風に押さえつけられるようだ。

涙が止まらない。

目が乾きそうでとても開けていられないはずだが、

私は思いっきり見開いて、近づいてくる地面を見つめていた。

あと数百メートル。

こんな状況で素晴らしく長いこと考えていた。

飴玉の味がうっすらよみがえってきた。

私の好きな青りんごの味。

おいしい。

頭の辺りからふっと、血の気が引いたような冷たさ。

あぁ、意識が遠のいていく。

落ちた瞬間に身体損傷しんたいそんしょうによって死亡するのではなく、

落下途中に死亡するという話がよく出回っている。

これがきっとそうなんだ。

そろそろ逝くんだな。


そう思うと、一気に眠気に吸い込まれた。



屋上階から下を覗くと、血と肉の混ざった塊が捨てられたようにある。

「ふふふ。落ちちゃった。おーちちゃった、落ちちゃった」

無表情に比べ、楽しそうな声がぼそっとでた。

ジーンズのポケットに手を突っ込み、とぼとぼと歩いて階段を降り行く。

ピンクや紫や青に変化して歪んでいく視界。

あぁ、今何時だ?

もうあれから数時間はたっている。

ろくに時間も確認せずに、ポケットからチューブゼリーを出して飲んだ。

一気に視界の異常は消えた。

薬の混ざったゼリーだが、これは青りんご味。

とてもおいしい。

薬とかでなければ結構食べていたい代物だ。

「あぁ~。足りねい…」

味が食欲を上げる。

一回帰って、薬じゃない方を食べよう。

猫背から伸びをし、首をパキリと鳴らす。

どこかのアニメや漫画で、俺みたいなのいたな。

男は眠気で痙攣けいれんするまぶたを、

鬱陶うっとうしく感じながら思った。


朝起きて、私は上体を起こしていた。

「また…」

首が直角になるくらいうつむいて、

私は夢を思い返した。

また死んだ。

また殺された。

顔をおおう。

外すころにはすでに忘れていた。


あぁ、そういえば。


背中痛いな。

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