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  作者: 欅いらくさ
10/10

しゅう


奏美は父が大好きで、大好きで、大好きだった。

小さい頃から、母に対する異常なまでの嫌悪を持っていたが、

そんな父が離れてしまった。

彼女にとっては辛辣しんらつなものだということ以外、何物でもなかったろう。


電子レンジの中の電話機が、着信音を流しながら温められ、

レンジの音なのか電話機の音なのかわからないが、嫌な音を立てている。

「奏美。・・・ごめんな、よし」

抱きしめて、頭を撫でる。

・・・体に触れるだけで、痛がりそうなものだが、

奏美は何も言わず、俺に対して無表情な目を向けているだけだった。

「お兄ちゃん。なにしてるの。こんなところで」

「・・・いやぁ、会いたくなってな。元気してるかなって」

「・・・お父さん。いなくなっちゃったね」

「・・・」

何も返せない。

異常な光景の中、その言葉だけ現実味がある。

「・・・あぁ、そうだな。いなくなっちゃったな」

ただそう、それだけを返した。


奏美の中で何かが崩れたのは、決定的だった。


その日は一日、ずっといるつもりだったが仕事で離れた。

休めばいいだろうって?

・・・奏美は極度に嫌がった。何かを隠すみたいに。

思えば、死のうとしてたんだな、と今更である。

急に電話がかかってきて、

かなで兄ちゃん・・・」

「・・・どうした?」

今までと違う、感情の、本物の奏美が、そこにいるような気がした。

「・・・・・・」

無言。そして切れる。

虫の知らせ、というのか、呼ばれている気がした。

そして、マンションへ行くとちょうど奏美が屋上へ行くところ。

「あ、え、ぇ・・・」

「どうした。気になったから来たぞ」

「おぉ、しごと・・・お仕事は・・・?」

「あぁ、んなの早退だ早退」

「・・・」

目を伏せた奏美は、どこか遠い人になった気がして胸が苦しくなった。

「なぁ」

話を切り出した途端、妹は屋上への階段を勢いよく駆け上る。

「おい!おま、待ち!」

屋上の扉を開くと、胸がどっどっどっどっどっど、と急いた。

立ち止まって振り返る彼女は、すでに暗い夕闇でも明るく見えた。

ワンピースがふわりと揺れた。

「ねぇ、お兄ちゃん。私さ」


死にたい。


「……あぁ、、、そうか」

返答のチョイス間違えたな。

そもそもどう返してあげたらいいか。

「奏美。死んで、それでお前は満足か?」

「……」

満面の笑みが揺らぎないそれを示しているようだった。

「なぁ、じゃないと、だめなのか…?」

「お兄ちゃん。変えられないものって、きっといっぱいあるんだよ」

「何言って・・・」

「さ、部屋もどろ?そろそろ寒くなるよ」

両腕をさすって、寒そうにしている。

「……あぁ、そうだな」


奏美。


ん?


死ぬなよ。


え。


お兄ちゃん、寂しいぜ。ひとりぼっちなんてよ。


お兄ちゃん、もとからボッチ。


るっせ。ほら、もどるぞ。


………。


大家は連絡をしても出ないことを不審に思い、

部屋を見に行くと、テレビがつけっぱなしで誰もいない。

「あらやだ。もう。まったく。また家賃もらえないわ」

そんな独り言をつぶやいて、彼女は部屋の鍵を閉めなおす。

「買い出しついでにいきましょう」

鼻歌交じりにエレベーターを降り、玄関から出ると赤い液がまき散らされているようだ。

なにかしら、誰かペンキでもこぼして逃げたのかしら。。。?と

大家は覗きに出る。

「な・・・」


無残にも血と肉の塊でしかない女性。


その隣、向かい合うように、男性が同じ肉塊となっていた。

このたびは『私』を最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

更新を何度も遅らせてしまいましたが、

このような形で完結をさせることができてうれしく思います。

少なからずも、評価してくださった方、

ほんの少しでも読んでいただいた方、読了してくださった方へ、

改めて感謝申し上げます。


未熟者の作品ですがこれからもよろしくお願いいたしましょう。


また、いつかの別作品でお会いできる日まで。

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