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徘徊する鎧となり、鎧型魔物ヒエラルキーの頂点となる

作者: ちんくるり

 ガシャンガシャンと暗い洞窟の中で金属の擦れ合う音が響き渡る。その音を聞いて、横たわっていた犬のような生物がこちらを見るがすぐに興味を失ったのか他所を向く。

 この音の発生源はこの俺で、今はよくわからん場所をひたすら彷徨っているのだ。なんでこんな金属音がするかって? それは俺が今鎧だからだ。

 気が付いた時にはこの場所に居て、そして俺は鎧になっていた。あれだ、よくゲームとかにいる鎧系の魔物。

 一応元は人間だったという事は覚えているのだが、なんでこうなっているのかがまるで記憶に無く魔物になっていた。

 

 気が付いてすぐに、ガシャンガシャンうるさくて自分の手とか確認したら金属的な物だったからびびったね。

 手首の部分外したら、中から人の骨が出てきたのには驚いて腰を抜かしたわ……中身空洞だから無いんだけどな。剣も近くに落ちていたんだが錆付いて刃こぼれしている。

 もうこれ鈍器として使った方がマシなんじゃないか? どうやら冒険者辺りが死んで身に付けていた鎧が魔物化して俺が宿ったんだな。

 どうにか今の状態を確認できないか、って悩んでいたら、頭の中でステータスみたいな情報が浮かんできたのには驚いた。


 ――――――

 種族:朽ち果てた鎧

 HP:そこそこ

 MP:無い

 攻撃力:ぼちぼち

 防御力:紙よりは硬い

 スキル:特に無し

 詳細

 冒険者が纏っていた鎧が魔物化した物。あまりに年月が経過しているので朽ちている。その強度はアルミニウムにも匹敵すると言われている。近寄ると臭い。

 ――――――


 何、このやる気の無いステータス。具体的な数字がないじゃねーか! なんだよそこそことか曖昧すぎるだろ。それに鎧なのに紙よりは硬いとかふざけてんのか。

 これもしかして、通常の彷徨ってる鎧より弱いんじゃね? てかレベルすら無いんじゃこれ以上強くなれないのか?


 ……とりあえずもう人間に戻れそうにも無いから、このよくわからん場所の探索と自身強化を優先して動くとするか。


 ●


 目覚めた日から多分数日が経過した。多分というのは、まずこれ何処かの内部だから朝と夜がいつ変わってるのかすらわからん。

 だんだんと時間の感覚すら無くなり始めているのだが、不思議と不安とかそういう感情は湧いてこなかった。

 でだ、この数日彷徨っていてここがどんな場所なのか大体の見当が付いたよ。

 歩いている最中にいきなりあの犬の魔物が地面から生えてきたんだ。多分ここはあれだ、ダンジョンって奴だな、うん。それで俺はその中でリスポンした魔物の一体なんだ。


 色々探し回っていたら下に降りる階段らしき物も見つけたが、今は降りずにひたすら探索を続けていた。同じ魔物だからか、襲ってこないのは助かったわ。

 そして彷徨っていて発見した事がもう一つ、俺の強化方法が判明した。


 それは――金属を喰らう事だ!

 ダンジョン内リスポンするのは魔物だけじゃなくてアイテムもどんどん出現する不思議な場所だった。

 彷徨っている途中発見した宝箱の中にあった、鉄の輪になった装備品を見た途端に今まで感じなかった食欲を感じてしまい、それをヘルムの口辺りからバリボリと噛み砕いて食べちまった。

 そのまんま空洞部分に落ちるかと思ったんだけど、どうやら俺のどこかに吸収されて中にある感じはしない。それを繰り返してる内にステータスはこんなになった。


 ――――――

 種族:朽ち果て気味の鎧

 HP:まあまあ

 MP:無い

 攻撃力:ぼちぼち

 防御力:石よりは硬い

 スキル:特に無し

 詳細

 冒険者が纏っていた鎧が魔物化した物。あまりに年月が経過しているので朽ちている。その強度は鉄にも匹敵すると言われている。近寄ると臭い。

 ――――――


 HPと防御が少し上がったか。それ以外は変化が少ないがまあこれからだろう。

 攻撃力は最初に付属してた剣依存なのか? 今度は剣も探してみる事にしよう。

 それと、この近寄ると臭いとかいうのもどうにかならんものかね。冒険者の死体がずっと入っていたからなのだろうか?


 ●


 金属が食えると判明してから多分さらに数日後。

 どうやら俺は、当たりの魔物を引いてしまったようだな、ふふ。今バリボリと食している丸い金色をした金属の味に舌鼓を打ちたい気分だ……舌が無いんだがな! 


 宝箱を漁りまくっていたのだが、有用なアイテムが色々と出てきた。いくら入れても重さが変わらない袋や、錆も刃こぼれも無い剣やらだ。

 ついでに袋にたんまりと入ったこの金貨みたいなのも大量に手に入った。

 これがマジで旨い、ポテチ感覚でついつい食いすぎてしまう。袋は無くしたら嫌なので、いつも鎧の足の部分外して中に入れてある。


 こんなに美味しいダンジョンとか、人が来ないかと警戒しているのだが今の所は魔物以外が来る気配はしない。

 魔物も犬や蜘蛛やオーガみたいなのが徘徊しているが、特に争う事無くダンジョン内は平和です。

 

 ダンジョン内で勝手に宝箱の中身取ってしまう魔物ってどうなんだろうと思い始めたが、まあ気にするな。勇者とかだって勝手に人の家の物取って行くし問題無しだ。

 さて、それでは今回のステータス確認の時間だ。


 ――――――

 種族:錆気味の鎧

 HP:並

 MP:無い

 攻撃力:並

 防御力:鉄よりは硬い

 スキル:特に無し

 詳細

 冒険者が纏っていた鎧が魔物化した物。見た目は錆付いてボロボロだが意外に硬い。その強度は鋼にも匹敵すると言われている。近寄ると臭い。

 ――――――


 おっほ、やっと並の鎧になれたみたいだな。それでも少し錆気味のようだが、まあ解決するのも時間の問題だろう。

 最近は宝箱の金属部分すら噛み付いて貪っているからな。俺はこのダンジョンの金属全てを喰らい尽くしてやろうと思う。


 それにしても、こう強くなっていくのはいいのだが戦う事が無いので実感が湧かないな。他の魔物を倒してもよいのだが、特に倒す理由が見当たらんのでやる気にはならんがね。

 次はそろそろ下の階に降りてみようと思う。上に行く階段も見つけたのだが、冒険者と遭遇するのも嫌なのでとりあえずしばらくは下に進もうかね。



 ハァハァ……死ぬかと思った。あれだ、戦う事が無いとか思っていたからフラグが立っちまったんだな。

 今尻から座り込んでいる俺の目の前には、銀色に輝く金属の鎧がバラバラになって転がっている。プレート部分やヘルムの部分は、凹み全体的に歪んでいるがそれは俺がやったものだ。


 下の階に降りてから数日ぐらいは経った程度に徘徊した。そして、鉄の扉があるのを発見して入ってみたら沢山の鎧が立っている広間に出たんだ。

 ただの置物かと思ったら、その内の一体が動き出して襲い掛かったきやがった。まあぼっこぼこにして動かないようにしてやったがな。


 もはや今の俺はただの鎧だと思わないでいただきたい。戦闘の様子などは無様過ぎるのでカットだ!

 剣ぶん投げて相手の腕部分の関節に手を突っ込んで外した後は、ひたすらたこ殴りと魔物らしからぬ戦いっぷりだった。不意打ちしてくる卑怯者に慈悲は無いのだ。

 戦利品としてこの倒した鎧と、周りにある置物の鎧は全て俺の糧になってもらった。ついでに盾も装備していたから、それは拝借して使うとしよう。


 ――――――

 種族:徘徊せし鎧

 HP:中

 MP:無い

 攻撃力:並

 防御力:鋼よりは硬い

 スキル:特に無し

 詳細

 冒険者が纏っていた鎧が魔物化した物。見た目は普通の鎧だが、ダンジョン内を徘徊し宝を漁るはた迷惑な鎧。その強度はダマスカス鋼にも匹敵すると言われている。近寄ると臭い。

 ――――――


 ついに錆気味の鎧を卒業したぞ! この世界で目覚めてからもう数週間は経ったはずだが……長かった。この体になってから睡眠欲が無くなってだね、24時間フル徘徊していたんだぜ。

 って、ダマスカス鋼に匹敵するってヤバイだろ。もう並みの魔物じゃないぞこれ。やはり宝箱から出た装備や金貨ひたすら食っていたのが大きいな。

 それにしてもはた迷惑な鎧とは失礼だな。なんだかこの詳細欄俺に随分と攻撃的じゃないか?


 ●


 鎧に襲われた日からさらに数日。いつものように徘徊をしていると、突然後ろからコツンと俺の体に衝撃が走る。

 俺的にはコツンで済んでいるが、実際はドゴンっと周辺が揺れ土煙があがっているんだけどな。


 振り向くとそこには頭部が黒光りしている、二足歩行のトカゲみたいなのがいた。

 この恐竜のような生物が、この階に来てからずっと頭突きをかましてくるのだ。

 あの頭部硬質化してるんだろうが、この俺に頭突きして平気なのだから相当硬いのだろう。


 うざったいので、その頭部をバシッと叩いてやるとスカーンっと良い音が響き恐竜もどきが頭から地面に倒れこむ。

 そして少しすると立ち上がりまた俺に頭突きをしてくるのだ。もうずっとこれの繰り返ししているのだが、こいつは遊びとでも思っているのだろうか?

 それもこれも、今の俺の見た目のせいなのかもしれんな。


 ――――――

 種族:徘徊せし黄金の鎧

 HP:高い

 MP:無い

 攻撃力:強い

 防御力:鋼よりは硬い

 スキル:凄い輝く

 詳細

 冒険者が纏っていた鎧が魔物化した物。黄金に輝く見た目と反し、ダンジョン内を徘徊し宝を漁る浅ましいはた迷惑な鎧。その強度はダマスカス鋼にも匹敵すると言われている。近寄ると臭い。

 ――――――


 なんかもう全身黄金に輝いています。お菓子に金貨食い過ぎたせいか? そしてついにスキルを取得したのだが、これスキルって言っていいのか?

 うおおぉぉ! と脇を絞めて気合を入れると全身から迸る黄金の輝きが増すのだ。すげーけど……なんか違う、そうじゃないって言いたい。でも暗い場所とかはこれ使って移動するの便利なんだよな。

 

 ●


 あの恐竜もどきと別れて数日後。いやぁ、あの恐竜凄い良い奴だった。

 しばらく付いてきていたが、腹減ったのか元気が無くなっていたので宝箱から漁って出てきた食料とかあげたらめっちゃ懐いて可愛かったわ。

 あのゴツゴツした頭部撫でてやったら擦り寄ってきたりとペットみたいだった。

 階を降りる時はその階から移動出来ないのか、泣く様な声を出していたがまた会いに行ってやろうか。


 さて、次の階だが……なんだか凄く迷路だった。

 壁がめちゃくちゃ有って、中が複雑に入り組んでいて進むと行き止まりやらで迷子になったわ。


 だんだんイラついてきて最後には壁叩き壊しながら進んだけどな!

 途中迷路を塞ぐように、牛の頭をした二足歩行の魔物とかいたが邪魔だったので、手の甲で払う様に軽く叩いてやったら戦闘不能になっていた。

 もはや俺は鎧を超越せし鎧だな! 最近では、ダンジョンに備え付けてある金属製の檻やら扉、装飾品なども片っ端から食しているので効率がよくなっている。


 ――――――

 種族:徘徊せし黄金の鎧

 HP:やばい

 MP:無い

 攻撃力:強い

 防御力:鋼よりは硬い

 スキル:凄い輝く 擬態 

 詳細

 冒険者が纏っていた鎧が魔物化した物。黄金に輝く見た目と反し、ダンジョン内を徘徊し宝や備え付けの鉄を喰らう浅ましいはた迷惑な鎧……正直止めてほしい。擬態をする為、突然出没する事もある。その強度はダマスカス鋼にも匹敵すると言われている。近寄ると臭い。

 ――――――

 

 この迷路に有った宝箱を喰おうとしたらさ、なんとそれ自体が魔物だったんだ。

 あれミミックって奴だっけか? 普通は人とか騙して襲う奴だけどさ、まさか自分がまず喰われそうになるとは思わなかっただろうな。

 まあ騙そうとする卑怯者に慈悲は無いので、このミミックは全身金属で出来ていたしバラバラにした後食べさせてもらった。


 そのおかげか、俺は新たに擬態というスキルを取得した。

 体変形出来るのか! って思ったけどどうやら色しか変えられないようでガッカリしたけどな。

 しかし、この黄金に輝く色を通常の銀色に戻したり出来るのでなかなかに便利か? 


 ● 


 ふぅ……ようやくここまで戻ってこれた。迷路から数十日ぐらいは経ったかな。

 下の方に随分と進んでいたから、そろそろいいだろうと上に戻りある程度の階で俺は自分の拠点を構える事にした。


 いやー、下の階は凄かったわ。

 ドラゴンやら牛やカバに似たようなのもいたし……あれベヒモスって奴だっけ? 精神的にあの環境は参るわ。自分の数十倍のでかさのがうようよいるんだぜ?

 その分あの階層に有った宝箱の中身の豪華さはやばかった。ポーションみたいな液体に様々な武器防具、便利アイテムとか大量だ。おかげで俺の能力値が爆発的に上昇しちまった。


 ――――――

 種族:徘徊せし黄金の魔導鎧

 HP:とにかくやばい

 MP:高い

 攻撃力:超強い

 防御力:超硬い

 スキル:凄い輝く 擬態 四大元素魔法 光・闇魔法 爆発反応装甲 

 詳細

 冒険者が纏っていた鎧が魔物化した物。黄金に輝く見た目と反し、ダンジョン内を徘徊し宝や備え付けの鉄を喰らう浅ましいはた迷惑な鎧……正直止めてほしい。擬態をする為、突然出没する事もある。全ての部位に魔法の効果が付加されており、魔導鎧と化したダンジョン内で災害のような存在。その性質、強度はヒヒイロカネにも匹敵すると言われている。弛まぬ努力により臭く無くなった。

 ――――――


 色んな金属食ってたらついに伝説の金属となってしまった。

 魔法が付加されている装備も食べた事によって、その魔法すらも取り込んでしまったみたいだ。

 剣振る時に風魔法使ったら、切っ先からカマイタチが発生して離れた場所まで切り裂けるようになっている。


 下の階で魔物に襲われたが、物理的な攻撃は全て鎧の表面が爆発して自動的に撃退してしまうスキルまで付加されている。

 もうこれ戦車が二足歩行してるようなもんだな、うん。

 臭いは、ポーションで内部をごしごしと洗っていたらついに落ちたのだ!

 魔導鎧になった影響か、体の一部を切り離した後も操作可能となった。これで、危険が有ったとしてもバラバラになってただの鎧に擬態出来るぜ!


 さて……ここまで強さを極めてしまったしどうしましょうか。

 そろそろ地上とやらを目指してみるか? どうやら俺は、他の魔物と違い階を自由に行き来する事も出来るみたいだし外に出るぐらい平気だろう。

 あの恐竜もどきにも、外で何か取ってきてやろうか。

 最近はあいつに会う為に下に降りたりもするが、相変わらず頭突きしてきてうざったい奴だ。


 ……ん? なんだか話し声が聞こえてくるな。

 話声など凄い久々に聞くなと思いながら、その方向を見ると俺の拠点の入り口に男女二人づつの四人組が現れた。杖や剣、盾を持ちどうやら冒険者のようだ。


 このダンジョンに生まれ落ちて数週間、ようやく人との初遭遇という奴か。

 入って早々に、この少し広い空間に座り込む俺に気が付いたのかリーダーらしき青年が剣を引き抜き俺を睨み付けて来る。


 ふふぅ、よかろう。ついにこの俺がダンジョンの魔物として、その役割を果たす時が来たのだな……ここ端っこの方に有るから本来あんまり冒険者とか来そうに無いのにな。

 そう思いながら、俺は目の前の冒険者達と対峙する為に、この重量感溢れる鎧を動かし立ち上がった。


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