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幸せの在り処  作者: 松田
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中学に上がる頃になると、私はすっかり外に表情を出さない子どもになってしまっていた。小学校から同じだった奴らとの付き合いで三年間バスケ部に入ってはいたが、そこでもお荷物として嫌われていたような気がして居場所を感じられはしなかった。

新しいクラスにも馴染めずにどうすればいいかわからず同じ小学校だった奴の後ろについて歩いてはうざがられてばかりいたり、二年になってからはずっと一人で本を読んでいた。

けれども私が中学三年間のうちによほど嫌われずに過ごせたのは作り笑いのおかげだろう。

私は生き残るため、知らぬ間に作り笑いを覚え、話を合わせる術を身につけていた。

それからは楽だった。

適切なタイミングで笑い、適当に相槌をうてば誰もが勝手に話を続けた。

おかげで卒業まで誰にも殴られず、友達と呼べるものも何人かできたが、つるんでいるのが虚しく、だんだんとうんざりしてきて、気まぐれで友人グループをいくつか壊して遊んではまた虚しい気持ちになった。

残った友達は三人ほどになってしまったがむしろその方が私には気楽でいたし、その三人ですら本当に友達だとは思えてはいないが、ともかく私はクラスでは生き残れた。

しかし問題は部活で、どんなにうまく笑えてもバスケの実力はどうにもできなかった。

部員からは毎回非難の目を向けられ、何度も退部を考えはしたが勇気が出ず踏み切れないままに引退までの三年間を過ごしてしまった。

本当に嫌な三年間だった。

ドリブルをする手はおぼつかず、うまくシュートまでこぎつけてもプレッシャーに負けて結局入れられず終い。また、そのプレッシャーというのも質が悪く、敵からの「外させよう」という意志のこもったものではなく見方からの「絶対に決めろ」というものでもない。そんな当たり前なプレッシャーよりも遥かに強大で凶悪なそれは、自分からの「外したらまた嫌な目で見られるぞ」というものだった。

打つたびそんなプレッシャーに体を固めてはシュートを外し、自責の念に苛まれてまた体が固くなり、ミスを犯す。

おまけにたまたま上手くいったとしてもそこで良しとせず、もう一度勝負をかけて負ける人間だったために救いもない。

練習に行っても、試合に行っても、遊びに行ってもそれがバスケならば家に帰る時はいつも落ち込んでいた。

そしてそのことは部活の副顧問であり、保険室の先生だった女の先生にはとっくにバレていたのだろう。

中学二年の冬。そろそろ受験だということで学年全員放課後に日を分けて簡単な面談をした。

その時の私の担当がその女の先生で、私はあまり話したことのない先生じゃないことにそっと胸をなでおろし、さっさと世間話でもして終わろうと気楽に望んだ。が、終わってみれば胸が苦しくなって、気持ちは落ち着いていた。

先生は想像通り世間話から初めて好きな教科嫌いな教科、そして最後に部活について聞いて、私がそれに無難な答えを返すとそこから先生は丁寧に、私の気持ちに寄り添うように、しかしとめどなく話しだす。私は最初の方こそ余裕を持って聞いていたが、途中からだんだん泣きそうになってきて、それを止めるので精一杯で、先生の言葉を聞く度にだんだんそれは強くなっていくので「早く終われ」と必死に念じた。

先生が適当なタイミングで終わらせた時、私は自分の様子が伺われていたような気になって泣きそうなのがばれてないことを願って面談場所である保健室を出た。

退部に踏み切れずに三年間過ごしてしまったのは、間の先生の存在が大きいのだろうと思う。不覚にも私は保険の先生に恋をしてしまったのだ。

と言ってもそこまで気持ちが発展したのはこの時ではなくもっと後。しかし、このことがきっかけになってはいた。面談以来私は保険の先生が部活に顔を出すと気になってしまうようになっていた。

それから部活を終えた三年の夏。私の足が何故か大きく腫れていた時だった。普段なら放っておけば治るだろうと考えてしまいがちな私だが五時間目のプールがいやで保険室の先生に診てもらった。保険の先生は原因がわからないと言って病院に行こうと言い出した。私は親に来てもらうんだろうかと思っていたが、先生はタクシーを学校に呼び、私を連れて駅前のクリニックに連れていった。タクシーで先生と一緒に座っている時、なんだか申し訳なくて行きも帰りも自分からは一言も喋ることができなかった。私の家の前でタクシーを降りると、先生はどこかに電話をかけ始めた。真面目な話をしていたのでおそらく私の親か学校だろうということは予想できた。その姿がなんとなくはまり、私はいつまでも見ていたいと思ってしまった。

先生は電話を着ると、私と少しだけ、いろいろな話をしてくれた。

私はこの時にはもう先生を好きになっていたのだろう。この時間がとても落ち着いて、幸せだった。

やがて話が終わると、先生は「お大事に」と言って学校に戻っていったので、私はそのまま家に帰り、先生の姿を思い浮かべて射精した。

それから何日も、射精する時はいつも先生を浮かべていた。

卒業式の日にはバスケ部のみんなと、その保護者と、そして顧問の先生と先生で打ち上げをした。

保護者達が勝手に盛り上がり、保険の先生に部員みんなでお酌をすることになった。酒の入った瓶は思ったよりも重かったが緊張のせいでさらに重く感じ、先生に注ぐときはこぼさないように慎重になってちょろちょろと時間をかけてしまい、少し申し訳なく思ったが、私はそれよりも幸せな気持ちの方が大きく、終わると悲しくなってしまった。

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